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ワークとライフをバランス?

個々人の仕事に対する向き合い方はそれぞれだ。
とにかく仕事一筋という感じで仕事が趣味というような人から、自分の時間を大切にすることを重視して仕事は仕事と割り切った考え方をする人まで様々。

いつからか仕事と自分時間の配分のことをワーク・ライフ・バランスと呼ぶようになり、仕事に対する新たな考え方のように喧伝された。
それは恐らく、サービス残業や過重労働、そしてメンタルヘルスといった労働環境に纏わる問題に対峙することで形成されてきたものだろう。
こういった労働環境における諸問題は実は個別の問題であるのだが、それらを一緒の鍋に入れてかき混ぜてしまった結果、ワーク・ライフ・バランスというような考え方に行き着いたと思われる。

人間が生きるということは、食べて、寝て、セックスして、人と交流して、必要なものを探し出したり作り出したりして、それを交換することで成り立つ。
交換する物は何よりもまず食べ物だ。そして道具だ。
そういった必要な物をその有用性と切り分けたことで「価値」が作られた。そして、物の「価値」は、「価値」があると考えられる他の物と置き換え可能という考え方を発展させることで「お金」が出来た。

「お金」はいろいろな物と交換出来るので、物を探してきたり作ったりしなくても「お金」によって物を得ることにシフトしていった。誰かがどこかで作ったり探したりしているのだが、そういった面倒なことはなるべく「生活」の場から遠いところへ押しやってきた。

この時点で、人間が生きるためには「お金」があれば良いということになってきた。そして、「お金」を得るためには物を差し出すのではなく、「お金」もしくは「お金」に見合った「価値」を差し出せば良いということになった。
差し出す「価値」を作り出す行為が「仕事」だ。それは物の場合もあるし、サービスのような場合もある。

こうして我々は、生きるためには「仕事」をする、ということになった。「お金」を得るために。
もともとは、物を作って交換することそのものが生きることだったのに。


「価値」は個人で行う事業でも生み出せる。そのような形態を自営業と言ったりする。「価値」を使う人に直接提供するのであれば、得られる「お金」は一番割がいい。けれど、自営業を営む人が何らかの理由で「価値」を提供出来なくなると、「お金」が入らなくなって生活が出来なくなる。

より効率的に「価値」を生み出して「お金」を得るための組織が会社だ。
会社に勤めるということは、会社が「価値」を作るために頭と身体と時間を差し出すということであり、その見返りとして「お金」の一部を受け取る。「価値」提供するのは会社という組織なので、あなたがひとりが一時的にいなくなっても、それだけで機能停止はしない。停止しないということは「お金」が得られる。あなたが休暇を取っても給料を貰えるのはそういうことだ。
その代わり、会社は得た「お金」のごく一部しか労働者に配らないので、あなたが作った「価値」に比べると貰えるものは割が悪い。会社が全てを配らないのは、「価値」製造マシーンには維持費が掛かるからだ。

会社に魂を差し出すことで「お金」を得ている労働者は、会社にいる間は自由を奪われた状態になる。だから、「仕事」と「仕事以外」を切り分けて考えることで、「仕事」の時は自分ではないと思うことにした。そうでないとやっていられないから。

こうして仕事は人々の生活から切り離されてしまった。


ワーク・ライフ・バランスなんて言うのは企業での話。
仕事とプライベートを切り分けた考え方をすると、仕事は生活のためにやる、仕事はお金を稼ぐために自分を犠牲にしてやるということになる。
会社にいる間は会社の奴隷になるということだからだ。
その考え方の延長線上に、せめて会社から離れた自分の時間は自分の好きにしたい、その時間を大切にしたいという考え方になる。

しかしだ。
個人はもともと会社の奴隷ではない。
私に言わせれば、ワーク・ライフ・バランスなんていう考え方をするから奴隷になるのだ。仕事と生活を切り分けたりするから、仕事がつらくなるのだ。
本当は仕事と生活はシームレスに繋がっている。だからこそ意図して遠ざけないと仕事がどんどん生活を侵蝕してくるように思える。でもこれは侵蝕してくるのではなくて、もともと一緒にあるものなのだ。
もともとは、物を作って交換仕事をすることそのものが生きることだったのだ。

仕事は生活の一部であり、あなたの一部だ。
「会社から提供された仕事をあなたがする」のではなく、「仕事」を間に挟んで会社とあなたが向かい合い、あなたは「価値」を提供し対価を会社から得る。契約というのは両者が対等な立場であることだ。

だからもっと「あなた自身」でいていい。
心まで会社や仕事に売らなくていい。
仕事もひっくるめてあなたのライフなのだから、ワークとライフは天秤の両端にあってバランスさせるというようなものではない。
あなたという卵の中にある黄身が仕事なのだ。
仕事もそれ以外も全てあなたの時間として生きよう。
切り分けて遠ざけるのではなく、内に取り込んで自分のものにしよう。

そうすればきっと見えてくるものがある。

おわり

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