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デジタルツイン

 メタバースの文脈で登場するデジタルツインという概念。
 現実にある街と同じように道路や建物のオブジェクトをバーチャル空間に並べて街のそっくりさんを造る。リアルな形状とテクスチャを持つオブジェクトによって、そのバーチャル空間内に入るとあたかも現実かと錯覚するような光景が眼前に広がる。
 
 国土交通省は都市のデジタルデータを公開するPLATEU(プラトー)というプロジェクトを展開している。そこでは、デジタル空間に現実の都市を再現するための3D都市モデルのオープンなデジタルデータが蓄積されていて、誰でもダウンロードして利用できる。
 このデータを活用することで、都市活動モニタリング、防災、まちづくりに役立てる事が期待されている。

 これを国交省がやっているというのが面白い。サイトを見れば分かると思うが、お役所にありがちと思われるようなダサさや使いづらさとは真逆に、最先端なイメージを醸し出している。
 都市のデジタル化素材としてかなり高精度であり十分に実用的だ。
 余談だが、航空関連の情報整備やドローンの登録システム、河川の遠隔監視とリアルタイムでのウェブ公開など、他省庁に比べて国交省のデジタル化は一歩先を行っているように見える。

 話を戻す。
 PLATEUのデータを利用すると、都市のデジタルツインを作り、その中で自動車の自動車運転ソフトウェアを検証したりすることも出来るし、再開発などの都市計画段階で使えば完成後のイメージがよりリアルに体感できる。また、地震や浸水などの災害発生時のシミュレーションに使うことで防災対策に役立てることも想定されている。
 言ってみれば、デジタル空間に実物大の模型を作るようなものだ。
 これまでも3D CADなどを用いて都市のデジタルモデルを個別に作ることはされていたが、オープンデータとして提供されることで、3D都市の利用ハードルは一気に下がった。誰でもデジタルツインを楽しめるようになった。

 デジタルツインの想定される用途はこれまで述べた通りであるが、こうした、よりリアルなシミュレーションによって作られたデジタル都市をVRメタバースのような形で私達が体験した時に私達に何が起きるだろうか。
 物理空間と切り離された「リアルな」デジタルツインの世界で感じる現実感は何を意味するのだろうか。

 デジタルツインの世界は、見た目上はリアルな「空間」を表しているように思えるものの、そこに実際の空間、すなわち幅や奥行きや高さはない。そして重要なのは、デジタルツインの世界には物理空間にあるような時間が無い。

 その空間に複数の人々が集うとき、何が起きるか。
 物理的な身体から開放された魂のように漂う人々の、人間のエキスのようなものがばら撒かれるのかも知れない。twitter上での人格が一部では過激化してしまっているように、野放しのメタバースは荒れ放題になるのか。
 それとも、現実とは別の人格を使うことで閉ざしていた心の開放が促されるのか。

 一卵性の双子がコピーではなく別人であるように、デジタルツインは現実のコピーではない。
 現実とは別物と思った方が良い。
 メタバースの世界を作る時、さもVR空間という見た目を作った方が良いのか、それともリアルなデジタルツインを作った方が良いのか、そこで活動する人の振る舞いや心の状態をシミュレートしてみるためにもデジタルツインは有効かも知れないと思った。

おわり

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