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映画『余命10年』

 終幕がいつやって来るのか大半の人は知らずに生きている。それは終わりがない物語と一緒だ。つまり人々は永遠を生きていると思っている。目指すべきゴールなどどこにも見えないから、つまらない毎日をただ消化することや、カレンダーを埋めることに時間を費やしてしまう。いずれやってくる終わりの時が遠くにあるほど今の時間の希少性は下がることになるからだ。

 20歳の人の平均余命は男で60年、女で66年だという(※1)。
 平均余命とは、あと何年生きられるかという期待値のことだ。成人式を迎えた人々は80歳~86歳くらいまで生きられるということになる。
 普通は・・・。

 国が治療や研究を進めている難治性の希少な疾患を難病と言い、その中でも医療費助成の対象となるものを指定難病(※2)という。
 指定難病告示番号86に指定されているものに肺動脈性肺高血圧症(※3)という病気がある。これは、肺の細い血管が異常に狭くなり硬くなって血液の流れが悪くなることで、肺動脈すなわち心臓から肺に血液を送るための血管の圧力が異常に上昇する病である。しかし原因は解明されておらず難治性呼吸器疾患に位置づけられている。
 心臓に大きな負担がかかり全身への酸素供給がうまくいかなくなるため、体を動かす時に息苦しく感じたり、すぐに疲れる、体がだるい、意識がなくなって失神するなどの症状があるという。病状が進むと少し体を動かしただけでも息苦しい状態になる。

 この物語の主人公は20歳を迎えた大学生の頃にこの指定難病を患い、余命10年を宣告される。これから大人になって人生を歩んで行こうというその時に、進路を断たれてしまうのだ。
 普通の人なら後期高齢者となる75歳を超えた頃に余命10年という心境に置かれる。それは主人公の両親ですら達していない年齢だ。
 本当なら経験して行くであろうあれもこれも経験することなく死んで行かなければならないという事実を二十歳はたちで突きつけられるのだ。
 やりたいことはいっぱいあるのに、何からやれば良いのか。やったところで死んでしまうのならやる意味があるのか。
 そのことを考えるだけでも苦しいだろうことは想像出来る。
 しかし、それ以上に苦しいのは結末を知っていることだ。中退することを前提として受験勉強に打ち込むことが出来ないように、別れを前提として新たな恋愛など出来るはずもない。恋をしたい気持ちを封じざるを得ない。
 
 余命が尽きる10年後はゴールなのか。それともスタートなのか。
 そこに向けてどう生きるのが正解なのか。

 10年で亡くなるという結果が分かっている物語は、犯人が分かっている推理小説ばりにつまらないはずだ。そのはずだった。
 しかし常識は塗り替えられるためにある。
 だから、事前の水分の摂取と一箱のティッシュか大きなタオルを用意して観た方が良い。
 大きな声を上げて叫んでもいい。泣きわめいてもいい。我慢しなくていい。人生は一度きりなんだから。
 というか、我慢など出来るはずもない。

おわり


(※1)「主な年齢の平均余命」 ,厚労省
(※2)指定難病 ,厚労省
(※3)肺動脈性肺高血圧症 ,難病情報センター


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