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日本の賃金が上がらないのは

 日本の賃金が上がらないのは雇用期間が長いからだという意見を聞く。雇用の流動性が高く、もっと転職しやすければ、より高い給与を求めて転職するようになるからというのが大筋の説明だ。
 しかしこの説明を聞いて、なるほどその通りだとはなりにくいだろう。この話が成り立つには様々な前提条件がクリアされなければならないからだ。

 一つ目は賃金を高く設定しないと労働力が得られないほど雇用環境が売り手市場になっていること。働ける人の数に比べて仕事の数が多い場合が当てはまるが、日本の場合はそこまで逼迫していない。飲食店のバイトの様に安く雇いたい人材は圧倒的に足りなくなっているものの、全体で見れば頭数は足りている。むしろ足りていないのは業務の効率化だ。

 二つ目は高卒・大卒一斉採用の廃止。採用時期が局所化していることで、流動性はかなり妨げられている。企業の側も年がら年中いつでもどうぞという体制にはなっておらず、卒業生の採用時期に向けて注力する流れになっている。どの企業も一斉にやることで企業側は多くの学生に触れる機会が持てるし、学生側も多くの企業を一度に見ることが出来るというメリットがある。いつから就活をどんな風に始めればいいか、画一的にスケジュール化されていた方が分かりやすい。

 三つ目はジェネラリスト育成をやめること。一斉採用して教育し、どの部門でも使える人材を育成するやり方はなかなか無くならない。企業の仕事の仕組みがジェネラリストが携わる前提になっているからだ。変にスペシャリストが来れば浮くし、そもそもスペシャリストがやるような仕事が無い。少数の専門家よりも多くの凡人の方が実務の役に立つのは日本だけの話ではないだろうが、どこにもスペシャリストがいないのが日本企業の特徴だ。

 四つ目は雇用を過度に守らないこと。日本の特徴的な仕組みとしてあるのが、雇用者は被雇用者を頸にできないことだ。もちろんどんな場合でも頸に出来ないのでは無いが、その仕事要らなくなったからさようならというわけには絶対にいかない。これでは流動性など実現するはずもない。

 五つ目が年功給与制度をやめること。年功序列を正々堂々とうたっている企業は流石に減ったと思うが、給与制度は案外保守的なままで、年齢や年次が上がれば給与も上るという企業はお多くある。必ずしも成果給制度がベストではないと思うが、仕事の成果を給与に反映しにくいのはジェネラリスト集団だからだ。つまり、企業全体や大きな部門での目標値は明確でも、職場職場での、しかも個々人の目標値は取ってつけたような形式的なものが多い。

 ここで挙げた五つは代表例のようなもので、実際の課題はまだまだある。しかもこの五つだけでも違いが有機的に絡み合っていて解すことが出来ない。つまり、一つずつ着手することが出来ないから一気に変える必要がある。日本全体でだ。
 そんなことは出来ないから、少し変えてはうやむやにを繰り返すだけで、核心部分は一向に変わらない。

 というわけで、とにかく昇給は毎年の僅かなベースアップに頼らざるをえないことになる。このベースアップは昇給根拠が無いに等しいから、労働者にとっても企業にとっても、何かの落とし所を見つけるだけのために長い時間を掛けることになる。こうしたことを無駄と呼んではいけないのだろう。みんな一生懸命やっているのだから。

おわり

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