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消えていく世界 [オンキヨーブランドの破綻を聞いて]

 とうとう現実になってしまった。

オンキョーホームエンターテイメントが破産申告

 オンキヨーホームエンターテイメントが大阪地方裁判所に対し破産手続開始の申立てを行い、同日、同裁判所から破産手続開始決定を受けたという。

 気にはなっていたが、この日本でよもやそんなことはないだろうと信じようとしている自分がいた。

 20億円や30億円というと、個人の感覚では高額と思うかもしれないが、名の知れた企業が動かすお金という意味では大した金額ではない。問題は金額の大小ではなく、事業を継続しても債務超過の解消が出来ないという点だ。お金に変えられる手持ちの事業の売却も行っていた。

・オンキヨースポーツ株式会社の売却
・デジタルライフ事業を国内ファンドへの EBO による売却
・e-onkyo ビジネスの新設子会社設立とフランス企業への売却
・オンキヨー株式会社の国内ファンドへの MBO での売却

 従って、ハイレゾ音楽のダンロード販売をしているe-onkyoや製品販売を行っているONKYO DIRECTは業務を継続している。

オンキヨーホームエンターテイメントとは

 分かりにくいし、私も十分に把握出来ているとは言えないのだが、破産申告したのはオンキョーホームエンターテイメントという会社。
 同社はこれまでに行われた買収や事業再編によってONKYOブランド以外にもパイオニア・ブランドの製造販売も行っていた。
 分かりにくいので拝借になるが、2020年のこちらの記事に下のような図が掲載されている。

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『なぜオンキヨーは自ら建築士事務所をつくったのか? 背景と将来展望を社長に訊く』(PHILE WEB、2020/09/28)より転載

 この図のうち、今回破産申告したのはオンキョーホームエンターテイメント株式会社。販売事業のオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンはオンキヨーマーケティングに称号変更変更していたが、このオンキヨーマーケティングと上図のオンキヨーサウンドは今年3月にすでに経営破綻している。

ONKYOとPioneerのホームAVはどうなるか

 こちらは私が現在ホームシアターで使用しているPioneerのAVアンプ。

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パイオニア SC-LX801

 本日(2022年5月14日)時点ではまだホームページがあり製品説明を見ることが出来る。
 マニアックで趣味的な話になるが、パワフルでクール・ドライなパイオニアサウンドが好きでこのアンプを買って使っていた。
 しかし、パイオニアのホームAV事業はパイオニア自体の経営危機に伴って、2015年にはすでにオンキヨーに事業譲渡されていた。以後、パイオニアブランドのAVアンプはオンキヨーが手掛けていたことになる。
 そして、今回、オンキヨーブランドとパイオニアブランドのホームAV機器を扱うオンキョーホームエンターテイメントが破綻するに至ったのだ。

つまり、こういうことだ。

 AV機器ブランドとしてのオンキヨーブランドの歴史は1946年9月の誕生から75年7か月の歴史に幕を閉じることとなり、同じくAV機器ブランドとしてのパイオニアブランドの歴史も1938年(昭和13年)の誕生から84年の歴史に幕を閉じることとなった。(Wikipedia)


修理はどうなるか

 では、オンキョーホームエンターテイメントの破綻により、現在使用しているパイオニア・ブランドのAV機器の修理はどうなるか。
 パイオニアのサポートページを見ると修理の依頼はオンキヨーホームエンターテイメント株式会社にご依頼くださいと書かれている。

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 そこでリンクをたどると次のような画面になる。

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 別のページにはこう書かれている。

日頃から弊社製品をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
「重要なお知らせ」「IRニュース」にてお知らせしましたとおり、
オンキヨーマーケティング株式会社はそのすべての事業活動を停止し、
破産手続開始の申立てに向けて準備を進めることとなりました。
事業停止に伴い、これまでにお送りいただいた、お問い合わせや修理依頼のメールに対してのご返信が一切できない状態となります。
多大なるご不便ご迷惑をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。

 今年2月の時点ですでに掲載されていた可能性があるので、知っている人には何をいまさらということだろう。

そもそもオーディオ機器は・・・

 オンキヨーやパイオニアがオーディオやビジュアル機器で立ち行かなくなったのは時代の成り行きといえばそれまでだが、技術の発展に伴って音質や画質は昔に比べて格段に向上しているから、考えようによってはこうしたAV機器事業が活躍出来るとも取れる。
 しかし、こうした技術発展によってむしろ、そこそこ良い音質が手軽に楽しめるようになった。スマートフォンの普及によって、そのそこそこ良い音質の音楽を持ち運べるようになった。

 上質で良い音質の音楽はハイエンドのオーディー機器でないと再生出来ないことは現在でも変わらないが、でかくて電力を食って、しかも部屋を専有する邪魔なオーディオ機器はマニアでなければ鬱陶しいものでしかない。
 その点、スマホとちょっと良いイヤホンやヘッドフォンがあれば、十分に良い音質の音楽が楽しめるのが現在だ。

 ハイレゾ音源やそれを再生出来る機器も、小型でポータブルならば欲しいと思われるが、部屋で大音量で音楽を楽しむというのは誰も望んでいない(マニア以外は)。それはホームシアターも同じだろう。映画館に行けば見れる映画を家で見る必要はないし、スマホやタブレットの画面でも十分楽しめる。そんな時代だ。

デジタル化と未来

 思えば、音楽の分野ではとうの昔にデジタル化が進んでいた。
 デジタル化による技術の発展は、ダイナミックレンジが広がってより高品質なものを提供出来るようになるのと同時に、そこまでの高音質を求めない普通の人々にとっては、そこそこの音質が安く手に入ることになる。
 つまり技術の発展によって一般に提供される単価が下がることになるので、金額的な事業規模が縮小することになる。事業規模を維持もしくは広げるためには、内容的にも地域的にも事業範囲を広げる必要が出てくる。
 ネット動画やネット販売で分かるように、超薄利多売が容易に実現出来るのがデジタル化の良いところではあるが、マーケットを専有出来たものだけが継続して行ける。

 趣味の領域はマーケットの端っこにあるものだ。
 コンシューマーと呼ばれるような、言わばマスを対象として販売戦略は趣味製品には合わない。
 だから、オーディオ機器のように趣味の製品は、多くの人に良質なオーディオ機器を安く届ける、といったような考え方では駄目な時代になっているということだろう。
 海外のオーディオブランドを見ると、超高額なスピーカーやアンプがごろごろしている。つまり趣味製品とはそういうものだ。手頃な高級品なんてあるはずもないのが本当の趣味品じゃないか。数売れないものは高くなって当然だろう。

 デフレに慣れてしまい、世界の物価潮流から取り残された日本では、高額な趣味製品を作ろうという企画は通るはずもなく、オーディオ機器もきっとそうなんだろう。
 ソニーやパナソニックなどは、儲からないちょいハイエンド機器はからはとっくに撤退している(それで買える製品がなくなって私は困ったが)。

 デジタル化によって趣味品が作られなくなったり、手に入れにくくなるのだとすれば、私たちは大切な何かを知らずに失うことになるのかもしれない。でも、それでも多くの人は満足なのだ。
 アナログ・レコードにあった空気感がCDになって切り捨てられたように。

おわり


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