見出し画像

不健康のプラセボ効果

 病は気からという。
 病気は気持ち次第で良くも悪くもなるという諺だ。
 似た話でプラセボ効果というのがある。この薬はよく効くと言って偽薬を与えるとそれなりの効能を発揮してしまうという現象だ。あるいは効能のある成分が入っていても効かないと思って飲むと効能が十分に発揮されない現象だ。

 薬の効果が、その薬の成分ではなく飲む側の受け止めて変化するということは、逆に考えれば、極端な話、病気そのものが気のせいだと言えないか。

 そう言えば最近は何かと気になることが多い。胸の辺りが少し痛いだけで、重大な心臓病ではないか、心臓が止まるのではないかと気になりだし、実際に動悸がしてきた感じがして苦しくなる。しかしスマートウォッチの心拍数を見るとほぼ安静時の脈拍数を示しており、今度はスマートウォッチが壊れているか正確ではないのだという思いに至る。
 あるいは、胃のあたりが急に痛くなると、胃カメラ検査をしたばかりでも胃がんでは無いかと疑う。できものが出来れば皮膚がんを疑う。
 運動後に一旦脈拍が落ち着いたと思っていたら、少し動いただけで脈拍が跳ね上がる(気がする)なんてこともある。

 度々病院に駆け込んでも異常は見つからず、その後何事も無い日常がしばらく続く。もちろん再び何らかの不安要素を見つけ出しては、また焦りだす。この繰り返しだ。

 若いうちは全くそんな事は無かった。
 思い返すと、毎年の検診で少しずつ要観察の指摘が出始めた頃から私の不安症が出始めた気がする。
 仕事でのストレスは感じにくい方だと思っていたが、若い頃よりは責任ある行動・言動が求められるのは世の常であるから、ストレスもあるのだろう。
 もっとも、人間は永久機関ではないのだから、誰しも年を重ねれば劣化してくるものだ。赤ちゃんと同じようなふわふわもちもちの肌をしている中年はいない。頭も体も、体の中を流れる何かもその流れそのものも、みんな劣化して然るべきであり、検診結果は年相応と言っても良い。

 年齢に応じた変化が身体に生じることで、それを病気と感じるのだとしたら、それ程不健康なことは無い。そうした病気は要するに気のせいに過ぎないのであるから、何でもないと思い込めれば何でもないが、不安に思えば思うほど症状がリアルに感じるようになるものだ。
 そうだ。きっと、そうなんだ。
 深刻に考えるから深刻な症状があるように感じてしまうのであるから、深刻に考えなければ良いのだ。


 しかし、体調が良くなり身体が軽快に動くようになったときに限って健康診断の時期がやってくるもの。これ以上進行すれば薬を飲む必要がありますねなんて脅されると、再び世界が灰色に見えてくる。
 あー、嫌な世の中だ。

おわり
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?