⑮ 日常生活における論証の構造と「序論・本論・結論」との関係性

皆さんは今までの学校生活の中で、レポートや小論文などの論理的な表現を求められたときに「『序論・本論・結論』の3構成でまとめなさい」などと指示されてきたのではないでしょうか。
これは、あまりにも乱暴な指示だと言えるでしょう。きっと、皆さんはどのように書いたらよいのか迷ったことでしょう。
⑬において、我々は日常生活における論証においては、その場や目的に応じて「3つの構造」を駆使していると述べました。表現したい内容とそれに応じた構造が異なるのに、一律に「『序論・本論・結論』の3構成でまとめなさい」という指示はあり得ません。
例えば、論証の最初の段階の構造(以降、この構造をa構造と言います)で表現するタイプの表現(文字表現では文種と言います)は、一般的に「説明文・解説文・生活文・感想文」などと呼ばれています。これは、表現すべき対象についての考察にとどまる表現です。
つなぎの段階の構造(以降、この構造をb構造と言います)で表現するタイプの表現は、「意見文・主張文・提案文」などと呼ばれています。これは、表現すべき対象についての考察を基にして自分の意見や主張を展開する表現です。ただし、この表現の対象は日常生活の中でも常識的な範囲のものとなります。この範囲では、「理由づけ」が社会的常識として皆が共通に理解していることになりますので、それが省略されて表現されることになります。
そして、最終段階の構造(以降、この構造をc構造と言います)で表現するタイプの表現は、「論説文・評論文・論文」などと呼ばれています。これは、つなぎの段階と同じように、表現すべき対象についての考察を基にして自分の意見や主張を展開する表現です。ただし、表現の対象が専門的なものとなってきます。ですから、その専門的な分野の「理由づけ」を明確に位置づける必要があるのです。これがなければ、「データ」と「主張」が飛躍しすぎてしまって何を言っているのかわからない表現となってしまうのです。

そもそも「序論・本論・結論」とはどのような構造なのでしょうか。小和田仁氏は「序論は文章の初めに位置する冒頭であり、本論は、文章の中核を形成する展開の部分、結論は、終わりに位置する結びの部分となる。文章全体の論理の展開に着目したものである」(『国語教育研究大辞典』明治図書による)と論じ、市川孝氏は「序で問を紹介、本論では答えを支える議論を展開、結びでその議論をまとめ、序の問と結びの答をアウンの呼吸で結びつける」(『文章表現法』明治書院のよる)と論じています。
「序論・本論・結論」とは、その構成要素が「論理の展開」の関係性でつながっていると考えられます。しかし、「序論」「結論」についてはそれぞれ「問いを紹介」したり「結論」を示したりするというように具体的にイメージできますが、「本論」については「議論を展開」するというように具体的にどうすることなのかが見えてきません。
このマガジンでは、「『議論を展開』する」ことを「『論証』する」ことと定義します(この「論証」とは「理由づけ」の省略のないc構造のものです)。よって、「序論・本論・結論」と日常生活における論証の構造(c構造)の関係は以下のようになります。

<序論>(論証する対象について述べる部分)    
<本論> 根拠となる具体的な事実
        ↓ *帰納
     判断・考察(データ)
        ↓     根拠となる具体的な事実
        ↓        ↓ *帰納
        ↓ ←←←← 判断・考察(理由づけ)
        ↓ *演繹
 <結論>  主 張 

つまり、本論とは、帰納的な思考を用いて対象について考察する部分(「データ」)とその考察されたものを「理由づけ」を基に演繹的に思考していく部分から成り立っているものであると言えます。とても一言で「本論」などと表現できるようなものではないのです。
皆さんは、きっとこれからも「論説文・評論文・論文」などを表現する場合に「『序論・本論・結論』の3構成でまとめなさい」と言われることでしょう。そのような際は、このc構造との関係性を思い出して表現していくことが大切となります。

しかし、前述したように、日本においてはどのような論理的表現においても「序論・本論・結論」という構成が求められています(「序論・本論・結論」信仰が厚いと言ってもよいでしょう)。しかし、「序論・本論・結論」という構成と、a構造で表現する「説明文・解説文・生活文・感想文」及びb構造で表現する「意見文・主張文・提案文」とは対応しないのです。つまり、これらの文種は「序論・本論・結論」という構造では表現できないものとなるのです。
これからは、日常生活における論証の部分的な表現であると言える「説明文・解説文・生活文・感想文」や「意見文・主張文・提案文」を表現していくために、新たな構成の構築が必要となってくることになります。
この構成について、⑯以降で考えていくこととします。

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