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私を犬の世界へ導いた中学の先生

10年間の肩書きとなった動物看護師の仕事。
この仕事にたどり着くうえで、欠かせない登場人物がいる。それは中学3年生のときの担任教師だ。

進路の決断を迫られていた中3当時、私は少し悩んでいた。成績は悪くはなかったが中の中。周りの流れから市内の公立高校を志望校にしていた。
だが、担任が「志望校に対する私の学力が安心して送り出せるレベルではない」という話をしてきたのだ。

そのとき、私の将来の夢は「盲導犬の訓練士」だった。
だがそれは明確に道が見えた目標ではなく、なれたらいいなあというふんわりした憧れ。
なぜなら私は犬を飼ったこともなく、触れ合うには遠くに住む母の実家に行くくらいしかない。そもそも犬の存在自体が私の中で夢のようなものであり、憧れだったのだ。

中学生というのは、まわりに将来の夢が明確に決まっている子も少なく、ましてや私の中学時代は今に比べて動物業界に対する認知度も人気もなかった。大きな声で私の夢は盲導犬の訓練士ですというには勇気が必要で、私は胸の中で「なれたらいいけどなぁ」を閉じ込めていた。

担任の教師と個別で進路相談をしているとき、ふとしたタイミングでポロリと盲導犬の訓練士になりたいんだと告げた。私の担任は30代くらいの「ウォーリーを探せ」のウォーリーのような背の高いメガネの男性教師だった。

そのウォーリーが「えぇ!そうなの?!」と勢いよく食いついてきた。
メガネの向こうでいつもはタレている目が見開かれキラキラしている。

えぇ〜盲導犬の訓練士って何?どうやってなるの?いいじゃんいいじゃん!えぇ〜気になるなぁ。どっかで見れないのかなあ。

何やら1人で盛り上がっている。ていうか食いついたけど知らないのか。
もともと少し変わっている人だったので、ちょっと引きつつもその時は進路の話を続けて終わった。

後日、先生に呼ばれた私は思いがけない提案を受けた。

盲導犬協会に行ってみよう

は?

どうやら先生は私と話したあと、盲導犬の訓練士にどうやってなるのかを調べたらしい。訓練士は盲導犬協会で働いているということを知り、近くの盲導犬協会が盲導犬や訓練士の仕事についての見学会を行っているので、親も一緒に見に行かないかと提案してきたのだ。

親に話すと驚いた様子だったが、せっかくなので行ってみようということになり、それからしばらくして私と1人の友人、母、先生で盲導犬協会へ出かけた。(ちなみにこの友人は後になって、あまり犬が好きじゃないことをカミングアウトしてきた。先に言ってよ)

テレビや本で見るばかりで実際にはあまり見たことのない盲導犬と訓練士。初めて聞く話。ふわふわと宙に浮いたようであまり実感こそなかったが、見に行った、聞いたことで、憧れでしかなかったその世界が妙にリアルに感じた。

自分でも調べ、盲導犬の訓練士というのはかなり狭き門だということを知った。無理かもしれないと思い、盲導犬の訓練士は諦めてドッグトレーナーになろうと思った。そして、そのためには専門学校に行けばいいということも調べた。

先生からレベルを一つ落とした学校にしないかと言われていて、ずっと抵抗していたが、ドッグトレーナーになるなら少しでも上の学校に行きたいと目指すことに意味がないように思えた。

結果的に私は学力としては少し下だった家政科を受けることにした。「先生、私やっぱり家政科にしようかな」と言ったとき、先生は「いいじゃ〜ん」と言った。軽すぎて相変わらず変な先生だと心から思ったが、それでも感謝していた。

家政科を卒業し、念願の犬の専門学校に入った。専門学校ではドッグトレーナー科だったが、就職となるとトレーナーの道も厳しく、結果として私は動物病院に動物看護師として就職することにした。

専門学校の卒業を目前にした成人の日。
成人式の2次会で先生に再会した。

今はどうしているのかと聞かれた。
私は盲導犬の訓練士ではなくなったことを少し負い目に感じながら、犬の専門学校に進学し、今年卒業して動物病院で働くことが決まっていると告げた。

先生は嬉しそうな顔で「犬の方に進んでるんだ!盲導犬協会一緒に行ったよね!え〜すごいじゃん!」と言ってくれた。

私にとっては一瞬のようなあの1日が、人生において大きな1日だった。
先生がそれを覚えていてくれたことが、ただ嬉しくて、犬の道に進んだ自分を誇らしく思った。

先生のおかげで夢は現実だということを知った。
行動することの意味を知った。
教室では教われないことを教えてもらった。

後悔のない10年を犬たちと過ごした。
今度先生に会えたなら、その10年のことを話したいと思う。

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