(詩)十年

あの頃を過ごしたキャンパスに
久しぶりに足を運ぶ
そうか
ここで入学を言祝がれてから
もう十年になるのか

友人と語らった学食
独り書に向き合った図書館
空き時間にくつろいだ中庭
人がいなくても
自然にあの頃の場面が浮かぶ
不思議なものだ

あの頃は
夢があった
目標があった
未来への洋洋たる希望があった
十年が経って
その大半は叶わなかった

あの頃の僕が
今の僕を見たら何と言うだろう
夢はどこに行ったのか
なぜ目標を変えたのか
努力を怠ったのかと
怒るだろうか

ならば僕は君に問いたい
なぜ君はその夢を見るのか
何が君にそう思わせたのかと

人は経験から自由になれないと
君の親友になる人は僕に云った
経験だけで教育を語るなと
君の恩師になる人は僕に云った
生徒から学生になったばかりの君が
高校の教科書で世界を知ったかぶりしている君が
考えていることなんてたかが知れているじゃないか

絶望に打ちひしがれたからこそ
出会えた景色があった
見えない刃に突き刺されたからこそ
寄り添える痛みがあった
僕はそうして
うろうろ のろのろ ぐねぐね歩いて
君からすれば見すぼらしいかもしれない
この場所に辿り着いた
だけど僕は
いま見えているこの景色を
それなりに愛おしいと思っている

三十歳の冬が暮れる

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