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不条理短篇小説

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現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ九」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ九」

まもなく夏休みが終わる。僕は河童だけど人間の学校に通っているので、夏休みもあれば宿題もある。こんなに宿題があるなら夏休みなんていらない。

というのはもちろん嘘で、むしろ人一倍(じゃなくて河童一倍?)この夏休みを「夏休んだ」覚えはある。オリンピックも甲子園もほとんど観て、僕も将来カパリンピックに出場して最高峰の緑メダルを取りたいとまで思いはじめた。そんな大会がもしあればの話だが。

だから夏休みの

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ七」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ七」

近ごろ甲羅のフィット感が悪いので、調整してもらうため久々にスポーツ用品店へ行った。

そもそも僕は、甲羅のフィット感なんて気にするタイプの河童ではなかった。しかし以前、グローブ用オイルを買いにスポーツ用品店を訪れた際、「おい坊主、プロテクター浮いてんぞ。ちょっと見してみ」と人間の店主に声をかけられ、断れぬままに身を任せてみたところ非常に具合が良くなり、初めて「甲羅のズレ」を自覚することになった。

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ六~河童vs家電量販店~」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ六~河童vs家電量販店~」

河童だって音楽が好きだ。文字どおり、音を楽しんでいる。といっても、川のせせらぎとか鈴虫の鳴き声とかじゃなくて、普通に人間の好む音楽を河童も聴く。エミネムとか。NO MUSIC,NO KAPPA LIFE.

ただしイヤホンがすぐ駄目になるので困る。河童は年がら年中濡れているから。むしろ乾いたら死ぬ。特に耳は急所ヘッドソーサーに近い場所だから、乾いたら致命傷だ。

かつてイヤホンを防水加工しようと思

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

僕ら河童は漢字で書くと「河」の「童」ということにいつの間にかなっているが、これも河童がこうむっている風評被害のひとつである。河童だからといって、もちろん「童=子供」ばかりなんてはずはなく、河童にもジジイやババアはいる。最近はむしろそっちのほうが多いくらいで、河童業界もご多分に漏れず高齢化社会なのである。少子化問題が日々深刻さの度合いを増している。

それでも河童に「童」の字が当てられているのは、そ

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