マガジンのカバー画像

不条理短篇小説

115
現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

短篇小説「ガチ勢とその後続」

短篇小説「ガチ勢とその後続」

 あるコンサート会場の入場口に、開演前の行列ができていた。その先頭に並んでいる第一の集団は、もちろんガチ勢であった。

 ガチ勢のうしろには、マジ勢が陣取っていた。ガチ勢とマジ勢は、どちらがよりガチのファンで、どちらがよりマジのファンかで言い争っていた。結果、ガチ勢のほうがよりガチで、マジ勢のほうがよりマジであるということに決した。なんの意味もない議論であった。

 マジ勢の後方には、スキ勢が続い

もっとみる
短篇小説「話半分の男」

短篇小説「話半分の男」

 私と話半分の男の出会いは奇妙なものだった。ある日私が近所を散歩していると、蓋のない側溝に気をつけの姿勢で、仰向けに寝そべっている男が目に入った。その中年男性は、冬なのに半袖半ズボンを着用していた。私はなるべく目を合わせないように、その脇を通り過ぎようとした。だが見て見ぬふりを貫くというのは、思いのほか難しいものだ。

「いやマラソン大会の途中で、小川に流されてしまってね」

 男が唐突に、訊かれ

もっとみる