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運命の出会い。その瞬間だけを描く『その時の彼女が今の妻です』は恋する瞬間特化型恋愛漫画

出会いの瞬間にこそドラマがあると改めて感じさせる傑作短編集

『その時の彼女が今の妻です』というタイトルそのままに、23組+αの夫婦になる男女の瞬間を各話10ページにも満たないほどで読ませるオムニバス作品。

この作品、実はめちゃくちゃ新しい読み味で、とんでもなく面白いんです。

そののち結婚する二人の瞬間は想像通りのドキドキキュンキュン展開のものもあれば、「こんな出会い!?」といういわゆるどんでん返し展開もあり、その短編を読んでいるだけでもめちゃくちゃ面白いのです!

「運命の出会い」のその後を妄想する楽しさ

ですが……この作品の凄いところは「読み終わった後」にあるんです。

例えばこんな一話があります。自分が一番おいしいと思っているラーメン屋。そんなお店の隣の席でラーメンを食べている美人の女性が小さな刻みネギをテーブルにこぼしてしまう。それを恥ずかしそうに悩みながらも手でつかみさっと口に放り込む瞬間を見てしまった。

うんうん、わかる、ネギひとつも取りこぼしたくないよね~なんて思ってその光景を見ていた彼も、ついつい刻みネギをこぼしてしまう。すると結構遠くまで飛んでしまい、隣の女性の近くまでいってしまう。そんなネギを自分が落としてしまったものと勘違いしてしまい口に運んでしまう彼女。

そんな彼女……とのやり取りを見てニヤッとしていた店員の女性が今の妻です。

その展開に「隣の席の彼女じゃないんかーい!」と突っ込んでしまうほど、読んでいる時も楽しいのですが、それ以上に読み終わった後に、ふとこの話を思い出して「あの彼とあの店員の彼女が結婚するまでの話」をついつい想像して色々考えてしまうのが楽しすぎるのです!!

音井れこ丸先生の過去のヒット作とのコラボ話も収録

どの話も本当に「ある瞬間の切り取り方」を、読者が色々と考えられる余裕を多く残しながら描かれています。そして、それらがいくつもの自分自身の物語に勝手になっていってしまうのです。

想像力があって、クリエイティブにも精通した人が同人誌を描いたりする気持ちは、もしかするとこんな気持ちなのかもしれません。

そんな素敵な気持ちになれる体験を読者の誰にでもにさせてしまう。この作品はそんな一冊なのです。

ちなみに最後にはおまけとして著者・音井れこ丸先生のヒット作『おじさんとマシュマロ』の二人の「その時の彼女が今の妻です」が収録されているという嬉しいサービスも!

全一巻モノは時期を逃すとなかなか読む機会が無くなってしまうので、もし気になったらぜひ読んでみてください。

WRITTEN by 栗俣 力也
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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