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『鬼滅の刃』伊黒さん推しに、春時兄様を全力でオススメしたい『明治緋色綺譚』

【レビュアー/和久井香菜子

いきなり全然違う作品のキャラですが、『鬼滅の刃』の柱の一人である伊黒さんが好きです。

とっつきにくい寡黙なキャラで、映画には後ろ姿しか出ませんでしたが、おばみつに胸キュンするファンは多そうですよね。

伊黒さん、女の人が苦手なのに同じく柱の一人である・蜜璃ちゃんのことは狂おしいほど好きで、だけど「自分は彼女にふさわしくない」なんて言ってるあの自己肯定感の低さ。たまらん。たまらんですよ!!

さて大人の女性の心を震わせまくった名作に『深夜のダメ恋図鑑』というのがあります。

この作品には、無神経なくせに自尊心が高くて女を見下していたり、甘く見てたり、ほんとに関わりたくない男性がうじゃうじゃ出てきます。

しかし恐ろしいのは、どれもこれも「ああ……わかる!いるいる」と思わせるところ。たぶん誰もが経験あるんですよね、こういう男性とのやり取り。絶望的です。

そして、そんな男性との付き合いに疲れた女たちがヨロヨロとたどり着くのが伊黒さんなのです。

ヤキモチ焼きなのは困っちゃうけど、「君のかたわらにいることすらはばかられる」なんて……なんか勘違いしてマウントしてくる輩とは大違いじゃないですか!伊黒さん、はばかってないで来て来て!!

とまあ、ほんとに出番の少なかった伊黒さんですが、少女マンガ脳をバリバリ刺激してくれました。

音楽に例えるなら、「僕が君を守ってあげる」的な完璧イケメンを自認するSHINee(復活しましたね!)を聴いた後に、ゴールデンボンバーの「ビビりで非モテ男子だけど一途に君が好き」みたいなウブなのにビリビリ来る感じですかね。

前置きがやたら長くなりましたが、伊黒さんファンに是非読んでいただきたいのが『明治緋色綺譚』です。

この作品は、金持ちのボンボンなのに道楽で便利屋さんをやっている青年津軽と、津軽に遊郭から救い出してもらった少女・鈴子(すずこ)の物語。

主人公の2人がとても聡明なので気持ちよく読める作品です。鈴子は自分の危機をスラリと救ってくれる津軽が大好きなのですが、津軽は年端も行かない鈴子を、恋愛対象としてはまったく考えていません。

これで津軽が鈴子にハアハア言い出したらドンビキなんですが、鈴子の想いにまったく気づかないウブな津軽がとってもよいです。サパサパと謎を解き、クールに賭博で勝利する津軽はかっこよすぎです。

しかし……!

私が伊黒さん推しにオススメしたいのは、津軽ではありません。

鈴子の兄、春時兄様です。

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※春時兄様はちょっと性格が歪んでいるので、
なにやらずっと画策しています。ー『明治緋色綺譚』(リカチ/講談社)4巻より引用

余談ですけど「兄様」って呼び方、いいですよね。「お兄さま」だと、お上品すぎて池田理代子御大かよ!って感じですが、「兄様」だと、親しみもありかつ敬意もある感じ。

そしてこの春時兄様が、すごいんです。病んでるんです。希死念慮が強くて自己肯定感ゼロなんです。そしてめっちゃ一途で、だけど「自分は彼女にふさわしくない」と積極的にはなれないんです。なんですか最高ですよこのオクテ合戦。

なんで自分が彼女にふさわしくないと思ってるかってのは本編を読んでいただくとして、病んでるけどあんまり面倒くさくなくて、一途で、勝手な思い込みもなくて劣情にまみれ無体なことは絶対にしない最高キャラなんです。安心して妄想できます。

少女漫画って、絶対に女の期待を裏切らないのがいいですよね。

春時兄様は初恋をあきらめて、私にすればいいと思います。万事解決。

気がつけば鼻息荒くなって作品の紹介をほとんどしていませんが、まあいいか……。

『明治緋色綺譚』には『明治メランコリア』という続編があり、こちらのほうが伊黒臭が強いです。ということをお伝えしておきますね。