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意外と知らない日本の死因第一位って?元看護師で元風俗嬢の異色漫画家がその目で見た妊娠・出産のリアル『透明なゆりかご』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/小禄卓也

今回は、5月13日に発売されてから、結構な書店にて売り切れが出てきている新刊についてレビューしたい。その作品が、沖田×華(おきたばっか)さんの『透明なゆりかご』だ。

この漫画を読んではじめて知ったのだが、「90年代の日本の死因第一位は、アウス(人工妊娠中絶)」だったという。調べてみると、たしかに1995年から1999年にかけての人工妊娠中絶件数は約33万件ほどで、90年代後半の死因第一位と言われていたがんの約27万件よりも6万件ほど高い。

沖田さんご自身も、インタビューで90年代後半を「"できちゃった結婚"がとても流行っていた」と語っているほか、96年に「援助交際」、97年に「失楽園」がそれぞれ流行語大賞として選ばれるなど、社会的に「性への解放」が加速していた時代だったのかもしれない。

そして、『透明なゆりかご』である。この漫画には、沖田さんが看護師見習い時代に立ち会ったさまざまな「妊娠・中絶・出産」のあり方を描くことで、ドラマやテレビで流れる『妊娠・出産=幸せ』というステレオタイプな物語に物申したいというメッセージが込められている。

とてもおとなしそうな女の子が中絶しにきていたり、高校生の女の子が自宅で産んでしまった子を産婦人科医院の前に捨てて行ったりと、子を宿した女性が悩み苦しむ描写が生々しい。それでいて、彼女の画のタッチがそうさせているのか、重苦しい話題なのに淡々と物語は進んでいく。

漫画から読み取れる沖田さんのスタンスは、「妊娠・出産=幸せ」とひと括りにして語ることができないそれぞれの物語に対して極力主観で語らないようにしているように感じられる。

そして、沖田さんは、どこかで女性の持つ母性を信じている。不倫の子を産み、授乳中に窒息死させてしまった女性にも、子どもを捨てた女子高生にさえも、彼女たちの行動がすべて「極限状態の中で自分の子供を想って取ったもの」であってほしいと願う。

沖田さん自身のこうしたスタンスが、産婦人科医院の生々しい現場ですら後味すっきりの爽やかな描写へと変える。

『透明なゆりかご』は、妊娠や出産、中絶を女性の目線で描いた漫画である。

だからこそ、この漫画は男性が読むべきものなのではないかと思う。

むしろ、学校の道徳の授業で取り上げてもらいたいくらいだ。産婦人科で日々巻き起こっている出来事を知ることで、少しは妊娠すること・させることの重みを理解するのではないだろうか。

なお、タイトルにもある沖田さんの元風俗嬢というキャリアは本作とは一切関係ない。

それでもこのレビュータイトルに「元風俗嬢」を入れたのは、僕がこの漫画に出会ったきっかけが、沖田さんのインタビュー記事に「元風俗嬢」というキーワードが入っていたから。

とてもよこしまな動機ではあったものの、過去のさまざまな経歴をあっけらかんと話す沖田さんに興味を持った。一冊の本が人生を変えるとはよく言われる言葉だが、ぼくは『透明なゆりかご』に出会えたことに本当に感謝している。