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「パテなどでつくろう!」の衝撃!!『超戦士ガンダム野郎』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/澤村晋作】

唐突ですが、私の夢はビルを丸ごと買い取って屋上に実物大ガンダムの上半身を設置することです。

さて、みなさんは、その昔あった『コミックボンボン』という雑誌をご存じでしょうか?今は休刊してしまったのですが、かつて人気を誇った児童漫画誌です。中でも特に大好きだった作品がこの『超戦士(ハイパーせんし)ガンダム野郎(ボーイ)』!

80年代前半、世はまさにSDガンダム全盛期。『機動戦士ガンダム』の登場メカ(MS)たちに極端なディフォルメをかけ、可愛らしさとカッコよさを同居させたそれは、少年たちの心をわしづかみにしました。

ガシャポン戦士やカードダスといったグッズが一世を風靡し持ってない少年など一人もいないのではというくらいでした。

その中で、ホビーの王様だったのがBB戦士に元祖SDガンダムといったガンダムのプラモ、いわゆるガンプラです。

主人公の少年・天地大河がそのガンプラをシミュレーター上で操り、ガンプラを悪用する者たちと戦うのが本作です。

おや?

ガンプラをシミュレーターで戦わせるといえば、かの有名なパーフェクトガンダムや武者ガンダムを生み出し、ボンボンの発行部数を15万部から50万部まで押し上げた伝説の作品、『プラモ狂四郎』を思い出した方も多いかもしれません。

それを連想するのも自然なことで、本作は、直接的な続編でこそありませんが原作・作画ともに、同制作陣であり、いわば精神的続編と言えます。(狂四郎も少し本作に関わってきます)

そんな本作ですが、いくつかの特徴を上げる事ができます。

1・プラモ描写の正確さ

BB戦士と元祖SDガンダムはどちらも同じSDガンダムを扱っているプラモなのですが、双方の造形にクセがあり、たとえ元が同じ デザイン画でもかなり違って見えます。

本作ではその違いをはっきり描いており、SDガンダムの代表的存在である武者頑駄無ひとつとっても、BB戦士と元祖SDガンダムではまったく別物に見えます。このリアリティが少年たちの心を掴みました。

2・改造

二つ目の特徴ですが、こういったリアリティに加え、実際のプラモを組み替えて生み出す「改造戦士」が好評を博しました。本作の影響で改造を始めた人もきっと多いはずです。

改造戦士は、既存のプラモの組み換えで簡単に作れるもののほかに、大規模な改造が必要なものも多数いたのですが、『コミックボンボン』 本誌にその作例が載っていました。

そこに添えられていたパワーワードが「パテなどでつくろう」です。(パテ=主に家財の補修などに使う接合剤)

実際に、パテを扱ったことがある人ならわかると思いますが、これは接着剤と粘土の間のようなもので扱いがとても難しく、まず思った形を作るのが困難です。熟練の技が必要で、ふつう小学生に勧めるようなものではありません。でも、それをやるのが『コミックボンボン』 です。

何しろ本作の敵は、プラモを溶かす接着剤の溶液で攻撃してきたり、プラモに仕込んだバッテリーで熱した金属線で斬り裂いてくるなど異常にリアリティがある上に、容赦がありません。

SDガンダムやプラモを悪用しようとするそれらの強敵に対し、大河の属するG研と呼ばれる研究会では、日々プラモの改造の腕を磨き、改造戦士や完全オリジナルのガンプラを生み出して対抗します。

そんなG研は、当時の少年たちの憧れでした。みんな、大河たちのように1から自分だけのガンプラを作れるようになりたかった。だから、思いっきり背伸びした改造手法の紹介が心に刺さったのです。

まとめ

以上のように、子どもをナメず、真剣に向き合っている所が本作の大きな魅力です。

作中に登場するG研ビル屋上の巨大なガンダムの上半身は、G研の象徴であると同時に、読者(ガンダム野郎)たちの魂の象徴でもありました。大好きなガンダムに見守られながらプラモの腕を磨いていく、そんな少年 たちの夢が詰まった作品といえるでしょう。

本作は、一時期は絶版で入手が難しい作品でしたが、現在では新装版として復刊され、電子書籍版も出ています。手に入れやすくなった今がチャンスです。

ぜひ、みなさんも手に取っていただいて、一緒にガンダム野郎になりましょう。

そして、パテなどで改造戦士を作りましょう!!


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