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あなたの異能はなんですか?バトルと一切無縁の日常系異能力漫画がゆるやかにおもしろい『しょうもないのうりょく』

異能力。

それは、少年漫画の、ことバトル漫画の世界を彩り、決して欠かすことのできないもの。少年に限らず、誰もが一度は「自分に異能力があったら・・」という妄想をしたことがあるのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、そんな異能力が題材の、だけどちょっと少年漫画とは毛色が異なる高野雀先生の漫画『しょうもないのうりょく』です。

異能はバトルのためだけにあらず

この漫画の世界では、人間誰しもが「異能」を持っており、検査によって自分の「異能」を知ることができます。

例えば「話してる相手の嘘の割合がわかる能力」「相手の言ってほしい言葉がわかる能力」、激レアなもので言えば、「不老不死」など…。主人公・星野千里の表向きの異能は、「書類を崩さず置ける能力」、そしてもう一つの隠された異能が「他人の異能がわかる能力」です。一見しょうもない異能しか持たない主人公の、隠された能力が開花したことで、繰り広げられる異能と知能の駆け引き溢れるバトルの数々!!

……といった展開は一切起こりません。そもそも、彼女の「他人の能力がわかる能力」の精度はイマイチなため、彼女はこの力を使うのを趣味程度に留めています。

この漫画は、異能を生かしてバリバリ働く気がない社員たちによる、社員の異能を活用する気がないとある中小企業での、オフィス日常漫画なのです。

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藤原くんはレア異能の持ち主。 ※『しょうもないのうりょく』(高野雀/竹書房)一巻より引用

“低体温のんき漫画“の中に見え隠れする、反骨精神と読者への問い

「どれくらいの人が自分の才能を自覚し、それを生かした人生を送れているのか」ということを、考えたことがある人もいるかもしれません。

「生まれてすぐ、検査でそれがわかれば効率的に人生が送れるのではないか」と。それが現実となっているのが「しょうもないのうりょく」の世界です。

本作でももちろん、異能を生かそうとする人たちはいます。むしろこっちがマジョリティな考え方かもしれません。でも、必ずしも異能を生かすことが幸せなわけではありません。自分の好きなことと異能がまったくつながらない人もいるし、特別な異能がなくても成功する人もいます。人の価値は異能だけではないのです。

高野先生はあとがきで、本作は『あたらしいひふ』『世界は寒い』といった前作とは違う、“低体温のんき漫画“と称しています。

確かに、描かれているのは「書類を崩さず置ける能力」の主人公と、「果物の旬がわかる能力」「さっきまで居た場所がわかる能力」「猫にめちゃくちゃ好かれる能力」など、ゆるい異能を持つ人たちのゆるい日常です。

でも、そんなゆるい毎日を生きるキャラクターたちの中に、「たまたま持って生まれた異能なんかに、自分の人生を決められたくない」という反骨精神が溢れている。

実は、本作も他の高野先生の作品と変わらない、読者に問いを投げかける漫画であると私は感じています。

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※『しょうもないのうりょく』(高野雀/竹書房)一巻より引用

あなたの異能はなんですか?

「異能だけが人間の価値じゃない」と言いつつ、本作を読むとやっぱり自分の異能はなんだろうと考え、ちょっぴり検査を受けてみたい気持ちになります。

人間は常に「私とは?」という問いを持っている生き物なので、本作はそうした気持ちがくすぐられる漫画でもあるのです。

ちなみに、わたしの異能は「日本人の割に、野生動物を見つけるのが上手い」じゃないかなと思っています。本作を読んで、大概の人の異能はしょうもないと知り(?)、これだと確信しました。タンザニアや南アフリカでサファリ(野生動物観察)をした際、視力は人並み以下にも関わらず、車で一瞬前を通り過ぎた藪の中に象の瞳を見つけたり、豆粒にしか見えないほど遠くにいるサイを見つけ驚かれたことがありますし。

でもやっぱり現地のガイドさんには敵わなかったし、残念ながら東京での暮らしでは猫を見つけるくらいしか、力を発揮するところがありません。どちらかといえば犬派のわたしには、なかな生かしきれない異能なのです。それでもなぜだろうか、「そうかこれが人と違う、私の異能なのか」と思う(い込む)とちょっぴり楽しい気持ちになれる。もしかしたらそれくらいがちょうどいい異能の、役割なのかもしれない。あなたも本作を読んで、自分の「しょうもないのうりょく」について考えてみませんか?

WRITTEN by 本村もも
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ

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