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これは、恋愛疑似体験の究極形。書店員イチオシの「次にくるマンガ大賞」ノミネート作『恋する(おとめ)の作り方』

【レビュアー/栗俣力也】 

今年の「次にくるマンガ大賞」はコミックス部門『【推しの子】』、Webマンガ部門『怪獣8号」がそれぞれ1位、続く2位以下の上位も王道が強く他のランキング企画に近しいタイトルになった。これは次マンのランキングにしては珍しいものだ。

いままで他では出てこないようなタイトルが上位に入るなど独特なランキングを作る事が多かった次マン、しかし今年はそんな要素は身を潜めている。
 
この状況に賛否あるようだがこれこそ次マンの完全読者投票というシステムの醍醐味であり面白さ。「しっかりと作り込んだストーリーものを好んで読んでいる。」そんな読者の心情がはっきりとでた結果だと個人的には思う。
 
そんな「次にくるマンガ大賞」のノミネート作の中でTOP10位に入らなかったが個人的に一押しだった作品を紹介したい。
 
昨今、恋愛を扱う漫画の傾向は大きく変わってきている。

最近のヒット作は過去多かった恋になるまでの時間を描いたものではなく「二人で一緒にまったりと過ごす時間」や、横入りするライバル役などの登場人物を作らず「恋をする2人だけの時間」を描いたのが望まれ、読まれている。

また決して「男女」に固執することなく同性、それこそ人間同士である事すらも意味を感じない、私にとってのあなたがあなたであればそれでいいという「究極のあなたと私もの」というべき作品がその中でも今年は特に好まれている。
 
『Angel Beats!』『Charlotte』の麻枝准さんの今年発表の小説「猫狩り族の長」はまさにそんな時代を代表する1作だと感じている。
 
今回紹介する『恋する(おとめ)の作り方』もそんな作品のひとつだ。
 
『変則系クアドラングル』、『名前のない怪物』などの万丈梓の最新作である本作は、コスメが大好きな主人公(男子)がメイクをしたすぎるという理由で幼なじみの友達(男子)に頼み込み、メイクをする事から物語が始まる。

もともと体系が細かったのに加え、主人公が身に着けていたテクニックを駆使。メイクを施した幼なじみはとんでもない美少女の見た目を手に入れてしまったのだ。
 
幼なじみでいつも一緒だったはずの2人が、中学ではそれぞれ付き合う友達のタイプが変わりいわゆる陽キャと陰キャにわかれなかなか話す機会がなくなっていっていた。

クラスの中心にいる主人公を幼なじみはいつしか学校で避けるようになった。

そんな関係を寂しく思っていたのは主人公だけでなく実は避けるような行動を取っていた幼なじみも同じだった。

彼は美少女の見た目になった自分に対して顔を赤くして目を背けるなどあからさまに反応を見せる主人公を見て嬉しくなり、この姿なら一緒にいられるかもしれないと女装の姿で学校に登校し始める事を決意する。
 
この物語は2人の日常とそれぞれの内心を描く形で物語が進んでいく。

お互いがお互いをどのように想い、どんな内心でどんな行動を取っていくのか。

そしてその先にある2人の関係は…。
 
私はこんな子いなよと思うヒロインものが大好きだ。ラブコメや恋愛漫画にリアリティを求めて読んでいない。

恋愛感情は100人いれば100通り。あなたに恋をしている私から見えている「あなた」は、他の誰かから見えるその他大勢の1人でしかない「あなた」とは全く違っていて当たり前なのだ。きっとその見えるものは実際よりも可愛さやカッコ良さが事実の100%増しかもしれない。

しかしそれが語り部にとって前途した「私が大好きなあなた」であるならばそこに描かれているものに嘘は無いのだ。
 
だからこそ読者は語り部となる登場人物と一緒に恋をする事が出来る。

そんな恋愛疑似体験の究極の形のひとつがこの「恋する(おとめ)の作り方」だと私は思う。
 
気になった方は1巻だけでも、1話だけでもまずは読んでみて欲しい。

絶対損はしないから。