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「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」観劇後の喪失感を、「貞本エヴァ」に立ち還り補完せよ『新世紀エヴァンゲリオン』


【レビュアー/松山洋

*本記事の中に『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のネタバレ要素は一切ありませんのでご安心ください。

ついに公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観て万感たる思いと充足感を迎えられたチルドレンの皆様に、このタイミングだからこそ、漫画版『新世紀エヴァンゲリオン』(貞本義行/KADOKAWA)をお勧めしたい。

1995年に放送されたテレビアニメ版よりも早く漫画連載がスタートして1995年2月から完結する2013年まで(休載含む)およそ18年ほどの長寿作品だったため意外と皆さん「あー、途中までは読んだけど最後までは読んでない」という方も多いのではないでしょうか。

『新世紀エヴァンゲリオン』という物語を貞本義行のセンスで独自にまとめあげた(いわゆる「貞本エヴァ」は)単行本全14巻という非常に読みやすいボリュームになっています。

そしてこの漫画版は著者である貞本義行によって大幅な改良がなされていることが特色であり魅力になっているのです。

(2000年当時の私は、オリジナルゲームソフト「.hack」シリーズのキャラクターデザインの仕事を貞本義行さんにお願いしていたこともあって、頻繁にガイナックスに常駐していました。その頃に直接、貞本さんから聞いたことなども含めてどういった意図や戦略があったのかを作品の魅力と共に私なりにまとめてみます)

まず漫画版は貞本さんの手によって漫画として非常に読みやすく心地よいエンターテインメント作品となっています。要するにアニメ版とは設定も性格も展開も少しずつ(時には大きく)異なる点があります。

順に紹介していきましょう。

「貞本エヴァ」の魅力① シンジくんの性格がアニメと違って明るくていい子

たぶんこれに一番驚くと思います。漫画版のシンジくんはちゃんと少年漫画の主人公然としていて喜怒哀楽がハッキリしています。アニメ版の鬱展開には視聴者の多くがモヤモヤしたと思いますが漫画版は(そういった展開が全くないわけではありませんが)比較的納得のいく形で表現されています。

「それはそうなるだろう」と読者が思えるような展開時には落ち込むし、きっかけをもってキチンと立ち上がる少年漫画の主人公といった感じです。

この部分は貞本さん自身が「なるだけ漫画の主人公として共感してもらえるように」と意図的に変えた部分だったようです。

「貞本エヴァ」の魅力② 「前歯全部へし折ってやる!」とか言う

漫画版のシンジくんが渚カヲルに激昂して放ったセリフがこれですよ。いくら性格がアニメ版よりも前向きとはいえ「こんなこと言うんだ」と読者にも衝撃を与えました。

なんならこのシーンだけでも読んで欲しい。

「貞本エヴァ」の魅力③ 鈴原トウジはエヴァ初号機によって殺される

アニメ版でもショッキングだったエピソードを覚えていますか?エヴァ三号機(使徒)との闘いの中でダミープラグによって制御不能となった初号機がパイロット(トウジ)ごとエントリープラグを握りつぶすというあのシーン。

アニメ版ではトウジはなんとか一命をとりとめたものの片足を失ってしまいます。

しかし漫画版ではトウジは死にます

エヴァ初号機によって殺されたという展開です。

ここだけはアニメ以上にショックです。が、漫画的には大きなターニングポイントともなる場所なので納得がいきます。

(余談ですが、これは実はアニメ版でもトウジは死ぬ予定だったけど当時のテレビ東京のプロデューサーから「子どもが死ぬのはやめて」という指導が入ったため変更になったという話があります。だから漫画版では当初の予定通りの表現に戻したということだと思います)

「貞本エヴァ」の魅力④ 渚カヲルがちゃんと同世代の少年として描かれる

アニメ版では実はたった一話(第弐拾四話「最後のシ者」)しか登場していない渚カヲルは超然とした存在として描かれていましたが、漫画版では結構早めに物語に登場する上にシンジくんの同級生として等身大の14歳同士の友情が描かれています。

そりゃ喧嘩だってしますし(その結果の「前歯全部へし折ってやる!」というシンジくんのセリフに繋がる)仲直りしたりして友情を育んだ後に例のシーンに繋がるのでよりショックで効果的な演出となっています。

「貞本エヴァ」の魅力⑤ 碇ゲンドウがシンジに向けた愛憎表現

アニメ版以上にハッキリとゲンドウが息子であるシンジに対して愛憎表現をあらわにしたり言葉にしています。

妻であるユイを愛していたゲンドウ自身がシンジが生まれたことでユイの愛情を独り占めされたと思っていたことなどが漫画版ではセリフとして登場します。

このへんの感情はアニメ版では一切触れられなかったので読めば読むほど納得します。

「貞本エヴァ」の魅力⑥ 殺されそうになるアスカをシンジが助ける

旧劇場版で襲来した量産型エヴァとアスカとの闘い。アニメ版ではアスカも奮闘しますが結局は量産型エヴァにやられてしまいます。

しかし漫画版ではそんなアスカのピンチに対してシンジが初号機自身に語りかけて動かなかったはずのエヴァを動かして助けに入ります。

もう完全にこの展開は少年漫画ですよ。燃えます。

「貞本エヴァ」の魅力⑦ 16歳の真希波マリが登場する

このへんを掘り下げるとネタバレになりかねないのでやんわりと表現しますが、実は「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」と繋がっています。

だから逆に言うと「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観た後でも漫画版の最終14巻のこのエピソードは読まなければならないのです!

読めばわかります!読まないとたぶんわかりません!

「じゃあ14巻のそこのところだけ読むか」と思われるかもしれませんが、今回の記事で上で述べたように漫画版にはアニメ版とは違った魅力と答えが隠されているのでもう1巻からまとめて読んでください。

下にリンクも貼ってあるので電子版を手っ取り早く入手しましょう。

あらためまして、全てのチルドレンへ。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観てある種の喪失感を抱いているかもしれませんが「エヴァ」の隙間は「エヴァ」でしか埋まりませんよ。

今こそ読もう!漫画版「貞本エヴァ」!