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育児ができず、タバコを吸い、リンゴを食うイブ?! 旧約聖書インスパイアの全く新しい創世記ギャグ漫画『アダムとイブの楽園追放されたけど…』

【レビュアー/本村もも】

こんにちは。みなさんは、旧約聖書のアダムとイブをご存知でしょうか?

アダムとイブは、キリスト教の神が最初に創造をした人間です。ヘビにそそのかされ、禁断の知恵の実(りんご)を食べてしまったことで、自らの創造主である神の怒りを買い、楽園を追放されてしまいました。

今日は、そんなアダムとイブが楽園を追放された後を描いた、宮崎夏次系先生の『アダムとイブの楽園追放されたけど…』をご紹介します。

ギャグ漫画に隠された家族の真理

この作品での追放した神と追放されたイブの関係は、根底には深い愛情があるのにどうしても譲れないものがあり勘当した父と、売り言葉に買い言葉という勢いで家を出て行った娘、という様相です。(アダムは娘婿の立ち位置です)

しかしそれも、ある日イブが赤ん坊を拾い、急に神が「じいじ」となったことがきっかけで、徐々に柔和になっていきます。赤ん坊の名前も、神が「カイン」と名付け、イブもそれに素直に従います。

赤ん坊・カインの登場で神との関係は少し改善されますが、同時にイブには新たな悩みが生まれます。

それは「母になれない」という悩み。

アダムは母性に溢れまくり、器用で、裁縫も料理も、赤ん坊をあやすのも得意。一方のイブは不器用な上に、母乳も出ないし母性もない。

母乳を気合いで出そうと試みるアダムをみて、「母乳まで出されたら、いよいよやることない」と、イブは焦ります。

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『アダムとイブの楽園追放されたけど…』(宮崎夏次系/講談社)1巻より引用

「できない」とやさぐれ、「育て方がわからない」と神に八つ当たりをしながら、最後まで「私やっぱ母親とか無理だわ」「こわいわ」と言いながら、それでも不器用に無骨に、イブはカインやアダム、そして二人目の息子となった阿部る(アベル)、家族へ自分なりの精一杯の愛情を注ぎます。(神はそのせいで、よく襲われます)

タバコも吸うし、りんごもむしゃむしゃ食べるし、破天荒に描かれているイブですが「親になる」ということを、誰よりも真摯に受け止めているのもまた、イブなのです。

器用にそつなく子育てをしているけれど、実は黒歴史を抱えるアダム。

旧約聖書上では、人類最初の殺人の加害者と被害者であるカインとアベルと、同じ名前を持つアダムとイブの2人の息子。

堕天したけれど神のいる楽園を、家と呼ぶルシファー。

イブをそそのかして知恵の実を食べさせたことで、孤独という罰に耐えることになったヘビ。

一貫して流れるギャグテイストな本作には実は、様々な家族の形、真理が隠されていると、私は思っています。

ギャグ漫画で笑いたい人はもちろん、「親とは」「家族とは」と悩んでいる、そんな人にも読んでもらいたい一作です。

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※手前の大きい方が弟の阿部る(アベル)、奥で本を読んでいるのが兄のカイン『アダムとイブの楽園追放されたけど…』(宮崎夏次系/講談社)2巻より引用

一冊で2度美味しい!同時収録の短編もあなどれない『オカリちゃんちのお兄ちゃん』

『アダムとイブの楽園追放されたけど…』はいつもの宮崎夏次系先生の作品よりギャグ要素が強く、少し違った印象を受けますが、私はレビューに書くくらい大大大好きな作品です。

ただ、本作の1巻に同時収録されている短編、『オカリちゃんちのお兄ちゃん』も、あなどれません。

妹のオカリちゃんの前でしか言葉を話さない、学校に行けなくなったお兄ちゃんのお話なのですが、登場する人物は少なく、セリフも説明も多くない、それなのに頭の中に色々な描写や想いが流れ込んできて、胸がいっぱいになる、とても夏次系先生らしい作品。

ぜひぜひこちらの作品も読み比べてみてください。