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『ヒストリエ』究極のネタバレ→歴史書みながら展開大予想!

ヒストリエの第11巻が、2019年7月23日に発売されました。

ついにでてきたパウサニアス。史実によると、彼の役割はフィリッポス2世の暗殺です。ということは、次巻でフィリッポスが死んで、ついにアレクサンドロスが東方遠征に……。いきなりネタバレ???ですが、詳しくは後述します。

『ヒストリエ』最大の魅力は、史実とフィクションの絶妙なブレンドにあり

『ヒストリエ』は言わずと知れた、現在連載されている漫画の最高傑作。ただ、連載のスピードがやたら遅く、長いマケドニアの歴史を描き終えるにあと何十年必要なんだろう……と読者をヤキモキさせている大作です。

現状を簡単に説明すると、連載16年目でまだアレクサンドロス3世(以下、アレクサンドロス)が東方遠征を始めていない。

つまり、有名なイッソスの戦い(映画『アレキサンダー』にもなった有名な戦い)、アルベラの戦い(ガウガメラの戦いとも言います。)の気配もまだ……というか、そもそもアケメネス朝ペルシャの王・ダレイオスも登場していません。

しかし、マケドニアがギリシアを統一したカイロネイアの戦いが第10巻で描かれたのですが、これがまた震えるほど素晴らしい。だから何年待たされても、我々読者を惹きつける魅力が本作にあります。

この『ヒストリエ』の素晴らしさは、フィクションとノンフィクション(史実)との紡ぎ目の美しさです。史実の歴史観を尊重してギリギリまで壊さないないようにしながら、最大限の壮大なストーリー(フィクション)がつくりあげられています。

おそらくですが、作者の岩明均さんは史実をかなり丹念に調査されています。そして、これは確信を持って言えるのですが、日本におけるマケドニア、アレクサンドロス研究の第一人者である歴史学者・森谷公俊氏(もりたに/きみとし 帝京大学文学部教授)の一連の著作を読まれています。

森谷氏はアレクサンドロス関連の著作をたくさん上梓(じょうし)されているのですが、もし『ヒストリエ』の世界観を史実から追いたい方、または先が気になってしかたがない! という方には、ちくま学芸文庫刊行の森谷公俊氏著作の『アレクサンドロスとオリュンピアス―大王の母、光輝と波乱の生涯』と読むことをおススメします。 

この本、もともと『王妃オリュンピアス―アレクサンドロス大王の母』(ちくま新書)として1998年に出版。その後、2003年からの『ヒストリエ』の連載開始とともに、両書の内容が近いことが話題になり、この新書自体がおもしろいことも再発見され、一時期、amazonマーケットプレイスでは中古価格が爆騰したという伝説の一冊です。

その後、筑摩書房がこの本の価値を再認識したようで、改めてちくま学芸文庫から出版しなおしたのが、この『アレクサンドロスとオリュンピアス―大王の母、光輝と波乱の生涯』です。

この本を読むと、オリュンピアスの寝室に蛇がいたこと等、『ヒストリエ』内で描かれるディテールがこんなに史実に沿っていたのか、と驚かされます。

また逆に、史実でない岩明さんのオリジナリティがどこに組み込まれているのかもよくわかり、ただでさえ半端なくおもしろい『ヒストリエ』をさらに10倍楽しめます。

そして、『ヒストリエ』のこれからの展開もある程度、目星をつけることができます。……で、冒頭の話に戻ります。

史実によると、警備兵パウサニアスはフィリッポス2世(以下、フィリッポス)を暗殺し、後を継いだアレクサンドロスは東方遠征に出発。

オリュンピアスについては、第11巻でエウリュディケの暗殺を企(くわだ)てて、逆にフィリッポスに暗殺されかかっていますが、史実ではもともとスピリチュアルな性格で、蛇と一緒に寝たりしてたところをフィリッポスに「キモい」と思われ、母国に追放されます。そして、フィリッポスの死後、マケドニアに戻り、自分の血統を守るためエウリュディケとその子を殺害します。

そうです。そのままいけばエウリュディケは死にます(ちなみに、のちにオリュンピアスも殺されます。その実行犯も何気に登場しています)。

ただ、それは史実通りにいけば、であって、『ヒストリエ』全般に敷かれている伏線をつぶさに見ると、そのまま進むとは思えません。

第11巻でもいくつか謎があります。【注意! 以下、第11巻読んだ方が対象です】

11巻の伏線に注目すると……

まず、フィリッポスはなぜオリュンピアスに、拷問した暗殺実行犯を見せつけたのか。

オリュンピアスを本気で暗殺するつもりなら何も言わなければいいのに、実行犯を見せつけて「お前がオレを殺そうとしたのを、オレは知っている」と言外にオリュンピアスに伝えたのはなぜか。

結局、オリュンピアスは自分が暗殺されることを予想し、自分の息のかかった兵士を馬車に紛れ込ませることで暗殺を逃れました。

さらなる謎が、暗殺実行部隊のひとりにパウサニアスが入っていること。パウサニアスが暗殺するのはオリュンピアスでなくフィリッポスのはずだろと。

このパウサニアスは、作中では顔がアレクサンドロスそっくりで、それを見たオリュンピアスが「なるほど……いろいろいと考えるな王も……」と意味深なことをいう場面が第11巻の最終ページでした。

これは普通に考えて、オリュンピアス暗殺が未遂になることまでフィリッポスは読んでいる。

オリュンピアスと「アレクサンドロスと同じ顔を持つ」パウサニアスを、それぞれの故郷の近くで追放した。いや逃がした、と考えるのが自然なのか……と。

さらに展開を予想。正解は2年後⁉

以上を踏まえながら、ここからの展開を予想するに―――当然パウサニアスの役割・存在意義がキーとなりそうです。

すると、彼の顔の傷の意味、また、その傷をつけたライオンが何を暗示しているのかがポイントとなりそうです。

が……、う~ん、まったくわかりません!

アレクサンドロス3世は史実によると“獅子王”と呼ばれていたそうなので、こっちが本物のアレクサンドロスを名乗り始める?……と妄想が止まりません。

だいたい史実のとおり、フィリッポスが暗殺されるかどうかも私は疑っています。

これは史実でも作中でもそうなのですが、フィリッポスは自分の国・マケドニアが大きくなりすぎて統制がとれなくなることに危機感を持っていました。カリスマ性と実力を備えた息子アレクサンドロスがガンガン領土を広げるのを、あまり良しとしていなかったのです。

そうなったら考えられるのが分割統治。(時系列はかなりずれるのですが)史実によると、マケドニアはアレクサンドロスが遠征先で死去した後、モメにモメて、結局3つの国に分裂します。その国とは、

アンティゴノス朝マケドニア
セレウコス朝シリア
プトレマイオス朝エジプト

の三国。この最初の国の名に注目です。「アンティゴノス」。これ、作中でフィリッポス2世が商人のふりをしていた時に使っていた名前ですよね?

もしかして、フィリッポスは自分が暗殺されたことにしたうえで、商人“アンティゴノス”に戻って下野(げや 官職をやめて民間に下ること)。その後、国の一部を取り返して新生マケドニアとして統治した……という方向になるのかもしれません。

その前段階として、オリュンピアスとアレクサンドロスそっくりのパウサニアスを利用したと。

つまり、流れとしては、

①オリュンピアスとパウサニアスが故郷で独立・武装蜂起

②本物のアレクサンドロスが留守中にマケドニアでクーデター

③パウサニアスがアレクサンドロスを名乗ってマケドニアを統治しはじめる

④パウサニアスの正体を知っている人達も残っており国は大混乱

このようにフィリッポスがしむけた……なんていう展開もこの作品ならありうると思います(史実によるとアンティゴノス将軍はフィリッポスと同い年で隻眼だったとか)。

まぁ、以上は完全に私の妄想ですが、また何度も第1巻から読んで伏線を丹念に拾いながらこの妄想の妥当性を考察したいと思います。

それではまた次巻が出るころ、2年後(?)に答え合わせレビューでお会いしましょう。

WRITTEN by 山田 義久
※2019年に「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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