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#21 究極の二択


「あなーただーけみつーめてる」

私がこの曲を初めて聴いたのは小学生の時だった。

今も国民に愛されて映画化されているアニメ「SLAM DUNK(スラムダンク)」のエンディング曲、大黒摩季の「あなただけ見つめてる」。

先日、3カ月ぶりに1人カラオケに行った私は、迷うことなくこの曲を歌った。

ここで私はスラムダンクのアニメーションが流れるほうではなく、大黒摩季のライブ映像Ver.をいつも選択する。

そこには今とさほど変わらないルックスの大黒摩季が、ホットパンツにウエスタンブーツ姿で、ステージ上を走り回りながら歌っている。

私はいつもこのライブ映像をみるたびに、若い頃に叶わなかった「小さな夢」を思い出すのだ。




私が大学生の頃、ホットパンツが流行っていた。
その頃は浜崎あゆみや倖田來未などのギャル路線が全盛期。
ホットパンツやミニスカートをはくのがギャルの象徴だった。

私はその当時、ギャルになりたかった。
なぜギャルにこだわっていたかというと、当時好きだった殿方が「色白ギャルが好き」といつも言っていたからだ。

そしてなぜギャルになれなかったかというと、足がとにかく太かった。
ミニスカートもホットパンツも、私のガンダムのような足を露わにしてしまう。別にギャルが全員ショート丈のボトムスを履いてたかというと、そういうわけではなかったのだが、あの頃私はホットパンツに執着していた。

待ちゆくギャルはホットパンツと足の間に数センチの隙間がある。なのに私が同じものをはくと、隙間はおろか生地が食い込む始末。
うっ血する前に脱がなきゃと、試着室で焦って脱いだ苦い過去は数えきれない。

成長しすぎた私の太ももは、中学生時代バレーボール部に所属していたときに仕上がった。低姿勢の構えの練習により、太ももの筋肉が競輪選手のように発達してしまったのだ。

当時ギャル服が立ち並んでいた、今は無き「天神コア」のお店の試着室で、私はその日、5着目のホットパンツを履いた。
ホットパンツから四角い足がギチギチに生えている。

ため息をつきながら、私はレシーブの構えを必死で練習したあの日々を恨んだ。




「愛のハイテンションーーーーーー」

大画面に映る大黒摩季が観客に向けてマイクを向け、ピークに盛り上がっている。

かっこいいなあ。ホットパンツにウエスタンブーツなんて、私が履いたら最も足が太く見えるコンビだよ。生まれ変わったら絶対にはいてやる。

そんなことを思いながら画面に映る大黒摩季の動きに合わせてステップを踏みながら歌う。

「あなたーがそう、のぞむーからあ」

この歌は「彼氏好みの女の子になるための努力」や「好きな男性へ愛を叫ぶ」といった歌詞で構成されている。

歌いながら、20年前の切ない片想いをほんのちょっとだけ思い出した。

なれなかったギャル、はけなかったホットパンツ。
結局その時はお付き合いできなかった殿方。

私の中学生時代の青春そのものだったバレーボールは、私のギャルになる夢を全部かっさらってしまった。

しかしここで「失ったものだけを考えるのは癪だ」と感じた私は、椎名林檎の「本能」を予約する。

失ったものはスレンダーな太もも、じゃああの時代に私が得たものは?

・・・あった、強靭メンタルだ。

私が周りから一番言われる褒め言葉(と信じたい)は「メンタル強っ!!」なのだ。

中学時代のバレー部の顧問は、元春高バレーの優勝校のキャプテンだった。練習中に気分が悪くなって嘔吐しても情け容赦なく「全力疾走しろ!」と怒鳴られていた。今の時代だったら完全アウトなほどの厳しい指導が常だったのである。

そのおかげで私は、たいていのトラブルはかすり傷程度にしか思わない。

「吐きながらインターバルを走ってたあの頃よりマシだ」

この強靭メンタルがあるからこそ、心折れずに営業職を8年も続けていられるのだと思う。うんうん。失ったものだけじゃない。得たものだって、ちゃんとあるじゃあないか。

しかし私の脳はすぐに意地悪な比較を思いつく。

鋼メンタルのガンダム足 or 豆腐メンタルのスレンダー足

生まれ変わったらどっちが良い?と質問されると、意外と究極の二択になる。

現世で「鋼メンタルのガンダム足」を生きる私にとって、やっぱり悩んでしまう事実が、悲しくもある。


大画面には、ナース姿の椎名林檎が拳でガラスを割るシーンが映っていた。








































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