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『群盗』二幕三場(前半)

第二幕
第三場

ボヘミアの森。
シュピーゲルベルク、ラツマン、盗賊たちの群れ。

ラツマン   マジかよ? いつぶりだよ? 心の兄弟モーリッツ、よく来たな! ボヘミアの森へようこそ! なんかお前、デカくなった? 強くなったんじゃねえ? これが星十字大隊か! すげえ数の新人じゃん、やるなあ!

シュピーゲルベルク   だろ、兄弟? さすが俺だろ? もちろん頼れる奴しかいねえよ! ――信じねえだろうが、神の恵の顕現てやつが俺の味方だ。俺も最初は腹を空かした哀れなクズ野郎だったけどな、「我、杖のみを携えヨルダン河を渡り、ついに七十八人の同胞となれり」だ。大抵はシュヴァーベン地方の破産した商売人、職にあぶれた教師と事務員だな。立派な軍団だろ兄弟、あいつら結構やるぜ、隙あらば周りにいるやつのズボンのボタンを盗むって連中だ、銃を持ってりゃ隣にいても安全だけどな――俺の噂は四十マイル先まで届いてるらしく、自分でも把握しきれねえ。どんな新聞でも開けば狡猾なシュピーゲルベルクの記事にぶち当たる。新聞を取ってたのは単に読みたかったからだ――頭のてっぺんから足の先まで俺のことが書かれてるんだぞ、自分自身が目の前に現れたみてえだった。それどころか俺の上着のボタンまで忘れさせちゃくれねえ。そこで、俺たちは向こうをバカにし腐って、縄をかけて引き回してやった。ちょっと前のことだ、新聞社へ行って、新人の記者の前で嘘を並べ立ててやった。「悪名高いシュピーゲルベルクを見たに違いねえ、あいつの顔はこんなだった」って近所のヤブ医者の人相を記事に書かせた、そしたらどうだ、その医者は捕まって尋問された。怖くなったのと、まあバカだったんだな、やめときゃいいのに! そいつは自白しちまった。「俺があのシュピーゲルベルクだ!」――ヤベーだろ! 俺は役所へ行って自首しかけた。俺の名前がゴロツキのせいで台無しになるところじゃねえか――で、結局、そいつは三ヶ月後に首を括られた。絞首刑台の前を散歩した時は、さすがに嗅ぎタバコを鼻に突っ込まずにはいられなかったな。偽シュピーゲルベルクが栄光に包まれて宙ぶらりんだ――偽シュピーゲルベルクが吊るされてる間に、本物の方は裁判所の役人たちにロバの耳をつけて見せてやったというわけ、くだらねえ話だろ。

ラツマン   (笑う)変わんねえな。

シュピーゲルベルク   これが俺だからな、見ての通り、身体も精神も変わってねえよ、バアーカ! まだウケる話があんだよ、最近シチリアの修道院でやらかしたんだ。こっちへ来る途中で、たまたまその修道院に行き当たってな、もう日暮だっていうのに、あの日はまだ一発もぶっ放してなかった――わかんだろ、一日一つくらいはデッケエことしたいじゃん? ――テッペンまでに一発デッケエ花火を打ち上げてやろう、悪魔の片耳くらいもいでやろうぜ! ってノリなわけ。で、真夜中まで俺たちはじっとしてた。ネズミのコソつく音も聞こえない。明かりが消えていく。俺たちは考えた、修道女たちも眠ったに違いねえ。で、グリムのやつを選んで連れてった。ほかの奴らは門の前に待たせる。「口笛の合図が聞こえるまでは出てくんなよ」――門番をとっ捕まえて、鍵を手に入れて、女中の寝てるとこに忍び込む、うまいこと服を盗んで門の向こうに放ってやるって計画だ。俺たちは部屋から部屋へ次々に移動して、修道女の服をポンポン投げ出していった。院長のだってお構いなしだ――いよいよ合図を出す、仲間が外からワーワー騒いで突撃開始、修道女の部屋から部屋へまっしぐら。最後の審判かよって有様だ――ハハハハ! ――あの大収穫はお前も見るべきだったな、真っ暗な中、哀れな獲物が手探りで服を探すんだぜ、とっくに悪魔が盗んでったってのに。俺たちはものすごい勢いで飛び込む。女の方は大慌てで腰にシーツを巻く。猫みてえに暖炉の中へ隠れる。泳げんじゃねえのってくらいおしっこ漏れ漏れのやつもいたな。泣くわ叫ぶわでとっちらかってよ、最後には失楽園のイブみてえななりしたババアまで出てきた――知ってんだろ、兄弟、俺はこの世でババアと蜘蛛が一番嫌いなんだ、ちょっと考えてみろよ、こげ茶でシワシワ、モジャモジャ毛の生えた怪物みてえなババアがグルグル踊り狂って、処女の操にかけてドーノコーノと喚くんだぜ――悪魔にでも喰われろって! 肘鉄を食らわせてやって、何本か残ってる乱食歯を直腸の中まで叩っ込んでやろうかと思った――さっさとキメるぞ! 銀器でもお宝でも金でもかっぱらってずらかろうか、ってところだったが――あいつらは俺の考えがわかってた――いいか、修道院から持ち出したブツは千ターラーくらいにはなったし、あいつらは女たちに土産を残してきた。向こう九ヶ月は気が気じゃねえだろうな。

ラツマン   (床を踏みならして)俺も混ざりたかったな!

シュピーゲルベルク   どうよ? これでも自由で気ままな人生じゃねえと言えるか? 俺たちはみんな力が漲ってる、強い、それに体も丈夫だ、一時間ごとに膨張していく勢いだ――俺って、磁石かなんかじゃねえのかな、地上のあっちこっちにいるワルが、鉄とか鋼みてえにみんな集まってくるんだ。

ラツマン   スゲエじゃん、なんか特別な能力とかあるんじゃねえか! 教えろよ、どんな能力を使うんだよ――

シュピーゲルベルク   能力? 能力とかじゃねえよ――頭を使うんだよ! 応用的判断力ってやつだ、そりゃ、麦を食っただけで自然と一緒に入ってくるようなもんじゃねえけどさ――つまり、マトモな人間なんかそこら辺の柳の木を削ったって作れるわけ、でもな、悪党を作るには知恵を絞らなきゃなんねえ――しかもこういうのにはある種の民族的才能ってやつがあんだよ、グラウビュンダーに行ってみろ、あそこの奴らはヤバイぞ。

ラツマン   兄弟! イタリアなんかそういう奴の巣窟だって聞いたけどな。

シュピーゲルベルク   それな! そう言うことだ! 誰だって権利を奪われちゃならねえ、イタリア人は男を見せてるぜ、ドイツも今の調子で前進したら、道半ばってところだ、聖書なんか投票で追っ払っちまえば、ドイツにだってまだいいことは起こるんだ。――でもな、実際は土地柄なんかあんま関係ねえ、天才なんかどこでも生まれる。で、その先は、つまり、兄弟――野生のリンゴをパラダイスに植えたって、永遠にパイナップルにはなれないんだぜ――もう一つ言いたいことがあったんだけどな――えーと、俺、何の話をしてたんだっけ? 

ラツマン   頭の使い方の話だろ!

シュピーゲルベルク   そうそう、それだ、頭の使い方って話だ。ある街に行ったとするだろ、まずは浮浪者を取り締まってる役人、夜の見廻り、刑務官のところへ行って、よく世話になってるやつの話を聞く。で、そいつのあてがついたら――喫茶店、売春宿、居酒屋に張り込んで探りを入れる。「最近物価が下がってどうの」「増税反対がこうの」「繁華街を取り締まる警察制度の改革がなんたら」とくっちゃべってるやつ、政府の悪口を言ってるやつ、骨相学に反対してるやつとかだな。兄弟! ここがキモなんだ! 風紀が穴の空いた虫歯みてえにグラグラしてんなら、あとは鉗子を突っ込みゃいい――それに、そうだな、もっと手っ取り早い方法もある。大通りでパンパンの財布を落っことして、そこら辺に隠れる。拾うやつがいないかこっそり観察する――で、探したり喚いたり後ろから追っかけて行って、すれ違う時に聞いてみるんだ、「お兄さん、もしかして財布とか拾いませんでした?」「あ、さっき拾いましたよ!」ときたら――チッこれは失敗だな、でももし首を振って「いやあ、見てないなあ、お気の毒ですが――」ときたら(ジャンプして)兄弟! 大勝利だ、兄弟! ランプの火を消しな、狡猾なディオゲネス! ――そいつがカモだ。

ラツマン   お前、いつの間にかシロートの域を越えてんじゃん。

シュピーゲルベルク   ったりめえだろ! 俺は一度だってその手の才能を疑ったことはねえよ――で、狙ったエモノは網にかかってる、それを引き上げるのがまた、一仕事だ。――聞いてるかおい? 俺がどうやったかって言うとな。足跡を捕まえたらカモの野郎にピタッとひっついてやるんだ、イガイガみてえに。で兄弟の盃を交わす! ただし、てめえのおごりだ! もちろん痛い出費にはなる。でもな、そんなのは気にすんな――続きはこうだ、そいつをギャンブルに引き込む。で、だらしねえ奴らの仲間にしちまう。喧嘩と犯罪に巻き込む、最後は血も肉も金も良心も評判も全部破産させてやれ、ついでに忠告だ、体も心も投げ出してかからねえと、人間、なんもできやしねえ――信じてねーな、兄弟! 俺は実際、何度もやってきた。カタギのやつほど、一度巣から追い出されたらあとは悪魔の言いなりだ――手はかからねえよ、ヤリマンビッチが一足飛びで貞淑なお嬢様になるみてえなもんだ――おい、聞いたか! なんか爆発したんじゃねえか? 

ラツマン   雷かなんかだろ、で、続きはなんだよ!

シュピーゲルベルク   そうだな、例えば、もっと手っ取り早い方法もある。カモの住処をぶんどってやるんだ。シャツの一枚だって残さねえ。そうすりゃ向こうからこっちを頼ってくる――こう言うのは得意中の得意だ、だろ、兄弟――あそこの、あかっちゃけた顔をしたやつに聞いてこいよ――クソヤベエからな! うまいこと罠にかけてやったんだ――あいつの前に四十ドゥカーテンぶら下げて、雇い主の鍵を取って来たらこれをやるぞ――想像してみろ! あのバカ野郎がどうしたと思う? 悪魔に攫われるところだったぜ! なんとビックリ、本当に鍵を持って来やがった! 「さっきのお金をください」――「わかってんのか?」と俺は言った。「この鍵を交番に届けて、早速、日当たりのいい絞首刑台を予約してもいいんだぞ?」――あのバカ野郎が! お前にも見せてやりたかったな、目ん玉ひんむいて、ずぶ濡れのプードルみてえにガタガタ震え出しやがった――「お天道様に免じて、許してください! 俺、俺――」「俺がなんだ? てめえ、今すぐ着替えろ、俺と一緒に悪魔の軍門に下るか?」「本当ですか、心から喜んで参ります!」――アハハハハハ! なっさけねえ奴だろ、ネズミを獲るならベーコンで釣らねえとな――笑ってやれよ、ラツマン! ハハハ!

ラツマン   ハハ、確かにな、認める。この教訓は金の飾り文字で頭ん中の黒板に書いておくわ。お前に勧誘させるんだ、サタンも自分の手下がよくわかってるな。

シュピーゲルベルク   だろ、兄弟? それにな、十人くらい調達してやれば、悪魔だって俺のことは解放してしてくれんじゃねえかと思ってよ――どこの出版社だって十冊買えば一冊はオマケしてくれるもんだ、悪魔だけがユダヤの発明品ってわきゃねえだろ? ラツマン! 火薬の臭いだ――

ラツマン   ヤベエな! 俺もさっきから臭うと思ってた。――気をつけろ、近くで何かおっぱじまったぞ! ――だからな、俺も言っただろ、モーリッツ、お前が集めた新人とくれば、団長も歓迎する――ま、あっちも度胸のあるやつを揃えてるけどな。

シュピーゲルベルク   なんだよ、俺のやつらは一味違うぞ! ――どーよ――

ラツマン   まあ、な! いいウデ持ってんだろ――でもなあ、言っとくが、うちの団長は評判だ、真面目なカタギの奴らも誘惑されちまってんの。

シュピーゲルベルク   んなわけねーだろ。

ラツマン   ところが、だ! あいつら、団長の下で働くのは恥ずかしくねえってさ。団長は俺たちと違って盗むための殺しはしねえ――金なんか問題にもなんねえ、足りるだけあればいいんだってよ。アガリの三分の一は当然、団長のものだろ、それを孤児とか、学費に困ってる将来有望な若いのとかにやっちまう。それだけじゃねえ、地方貴族なんかが自分とこの百姓を牛か馬みてえにこき使ってんのを見ると、そいつから金を絞りとる。金の縁取りのついた服を着たやつが法律を悪用したり正義の目を欺いたりすれば、一発食らわせる。他にもそう言うやつを捕まえたら――わかんだろ! 団長は本領を発揮する。全身の筋肉が復讐の女神フリアみてえになんだよ!

シュピーゲルベルク   ヘエエ! フウン!

ラツマン   最近だと飲み屋での話だ、レーゲンスブルクのリッチな伯爵がここらを通るって話を聞いてな、そいつがなんと、弁護士に偽造させて百万だかの訴訟に勝ったらしい。団長はテーブルについて、カードをめくってた。――「今何人いる?」――急に立ち上がって聞いてきた。下唇を噛んでるのが見えた。団長がガチギレした時の癖だ。俺は言った「いんのは五人だけだ!」、「十分だ!」団長が答えた。女将に目配せして金をテーブルに置いた。ワインには口もつけなかった――俺たちは通りに出た。その間じゅう、団長はひとっことも口をきかなかった。端によって一人でズンズン先へ行っちまう。たまにこう聞いてくる、「何か気がつくものはねえか」それからこう指示した「床に耳をつけろ」。ついに伯爵のお出ましだ、馬車はデッカイ荷物を運んでた、伯爵の隣には弁護士が座ってた、手前には騎兵、横には護衛が二人――あれは見ものだったぞ、団長が二連発の拳銃を手に俺たちのところから馬車に飛び移りやがった! 「止まれ!」って叫んだあの声はヤバかったな――停めようとしなかった御者は台の上から真っ逆さまだ。伯爵は馬車の中から無茶苦茶に撃ちまくる。護衛は逃げ出した――「テメェ、有り金全部置いてけオラァ!」雷みてえに怒鳴ってよ――伯爵は斧でぶった切られた雄牛みてえにドカッと倒れた――「おい、テメェかクソ野郎、正義を汚した野郎はよォ!」――弁護士は歯をガチガチ言わせて震えてやんの――わき腹にナイフがブスっと刺さったのなんか、ワイン畑に杭を打ったみてえだったぜ。――「俺の役目はここまでだ!」、団長は叫んだ、それで誇らしげに俺らの方を向いて「略奪はお前らの仕事だ」で、森の中に消えて行った――

シュピーゲルベルク   ハーン! なるほどなあ! 兄弟、さっき言ったことだけどな、ここだけの話だ、団長には言うなよ。わかったな?

ラツマン   ハイハイ、わかってるって。

シュピーゲルベルク   団長はああ言うやつだからな! 気まぐれだし。わかってるよな。

ラツマン   わかった、わかってるって。

シュヴァルツが息急き切って。

ラツマン   誰だ? 何があった? 森にお客さんか?

シュヴァルツ   急げ、急げ! 他のやつらはどこだ? ――何やってんだ! 突っ立ってくっちゃべってる場合かよ! 知らねえのか――なんも知らねえのか? ――だってよ、ローラーが――

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