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3.3.バジリスク: 尾:第二の脳

3.3. 尾:第二の脳


 バジリスクの最大の特徴の一つにヘビ状の尾があるが、これは第二の脳が制御している。これは腰の骨の中にある、脊髄が通る管の途中に位置する。正確には自衛のための器官が発達したもので、「防衛器官」と呼ばれる。つまり身体の部位の一つであり、これ自体が別の生き物の如く食事をとったり排泄したりすることはない。


 ヘビの頭に相当する部分の先端にエナメル質の「尾歯」を持ち、これで襲ってきた相手を引き裂いて迎撃する。尾歯は抜けやすく、定期的に生え変わる。ヘビの顎に見える部分には硬骨がないので、牙を突き立てて引き裂くことが主な攻撃方法である。


 防衛器官には「第三の目」と呼ばれる部位がある (10)。明暗や形を認識する程度の視力しかないが、加えて振動感知する器官も併せ持つため、背後から近づくものを素早く察知することができる。何らかの不安要素を感じた場合、バジリスクは防衛器官を地面につけて警戒態勢をとる。長い尾羽はこれを隠すためのものであり、また、どれが防衛器官であるのか分かりにくくするためでもある。防衛器官に属する感覚器官で感知される刺激は、全て第二の脳によって処理することができる。ただし、とっさに防衛する必要がない場合は、情報は頭部の脳へと送られ、本体の感覚器官で詳しい状況を把握するのである。痛覚だけはどんな状況であっても、両方の脳で感じることができると言われている。


 防衛器官に大きな損傷があっても、バジリスク本体への致命傷になることは少なく、それなしでも生存することは可能である (11)。このため、防衛器官はおとりの役目も兼ねるのではないか、とも言われているが、使い捨てにするには余りにも完成された部位であることから、積極的にはこの説は支持されない。


 第二の脳が破壊された場合、尾は独立的な運動機能を失うが、生体維持に支障が出ることはない。大部分の脳細胞を失った場合には、第二の脳は狭小化し、尾の行動支配権は頭部の脳に移る。そうなると防衛器官としての機能は失われ、後は一般的な「尾」として存在することになるのである (12)。
かつてバジリスクは、恐竜の子孫であるのではないかと考えられた。これはステゴサウルスの背骨の化石に、第二の脳の痕跡と類似するものがあったことによる。しかし鳥類がその位置にグリコーゲンを蓄えることがわかると、この説は否定されるようになった (13)。


10)「第三の目」と呼ばれるが、左右に一対存在する。ムカシトカゲの頭頂眼と似ていることから、そう呼ばれるようになった。


11)2011年にアメリカ・カリフォルニア州自然保護研究所で行われた実験によると、防衛器官は軽傷を受けただけならば、通常の肉体と同じように治癒することができる。防衛器官を切除されたバジリスクはそこに属する感覚器官を失ったことになるのだが、意外なことに、急激に生存率が下がることはなかった。切除実験で死亡した個体は、いずれも尾の領域を超えて防衛器官を切り落としたために、内臓の損傷を招き失血死したものばかりであった。


12)一口に「尾」といっても動物によって使用目的は異なるが、第二の脳を失ったバジリスクの尾は、基本的にはバランスをとるためのものである。触覚と痛覚はあるため、不自由がない程度に稼働することはできる。面白いことに、こうしたバジリスクの尾は15%ほど長くなる傾向にあり、体内に収納する機能は弱体化するため、長い尾を揺らして歩く姿は、ヘビが移動する姿に非常に似るのである。


13)グリコーゲン体は神経に栄養を供給するもので、鳥類の祖先である恐竜もそうなのだろうとする考えが主流となった。ただし、バジリスクと同じようにステゴサウルスにも装甲板があることで、やはり第二の脳を持っていた恐竜もいたかもしれないとして、調査を続ける研究者もいる。

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