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2.9.マンドラゴラ: 利用

9. 利用


 近年、古代から重宝されてきたマンドラゴラを、ただ廃棄するのは資材の無駄であるとして、帰化種を商業的に利用しようとする動きが見られるようになった。しかしながら、帰化した野生のマンドラゴラでは、含まれる成分の状態が安定せず、薬品として利用するには向かない。このため、いくつかの利用法が、今までにない分野で提唱されている。


 マンドラゴラは根に、ユーグレナ藻(ミドリムシ)に含まれることで知られる、パラミロンを大量に含有する。さらに多数のビタミン群とミネラル、アミノ酸と不飽和脂肪酸を含むため、食糧危機への大きな貢献が期待されている。しかしながら、効率よく有害物質を除去することが難しく、食材そのものの形を保つことは現段階ではできない。このため、いくつかの食品会社は栄養補助食品としてのサプリメントを販売に向けて開発中である。大量生産に向けて、マンドラゴラの養殖方法が模索されている。


 また、マンドラゴラをそのまま食材にできないか、という考えもある。マンドラゴラは生息地域によって持つ有害物質を変えることで知られている。そして、その傾向を分析することで、食用可能なセイヨウマンドラゴラを生産する研究が、中国の四川省太歳研究基地で進められている(27) 。


 国内での食品加工の例では、愛知県・豊田市の周囲で、加工品が販売されたことがある。水溶性のアルカロイドを含むマンドラゴラを選別し、葉や根の内側の柔らかい部分を調理するのである。山に自生する帰化マンドラゴラを、山菜のあく抜きを手本に無毒化したもので、村おこしの一環として好評を博した。マンドラゴラの葉はほのかに苦みが残るが、加熱すると甘みがでて柔らかく、比較的食べやすい。根の部分は加熱するとごぼうとサツマイモの中間のような食感になるが、すじが多いので、繊維へ垂直に刃を入れて線維を断絶するとよい。ほとんど毒を含まない厳重に管理・検査されたマンドラゴラを使用した場合でのみ、このように葉と根を直接調理できる。安全面を特に考慮するならば、でんぷんそのものを取り出して無毒化した方が良い。マンドラゴラのでんぷんは濃いオレンジ色になるため工夫が必要だが、味には癖がないので、様々な料理に活用することができる(28) 。


 これらは一時的に販売された一例であり、恒常的には食品としてはおろか、マンドラゴラを売買すること自体、認可されないことが多い。しかしながら、化学物質やでんぷんを取り出した後のマンドラゴラは、有害物質を含まないため、特殊な技術や機材がなくても安全に利用できる素材として着目され、繊維を紙、糸、布へ加工する試みが広がりつつある。かつてマンドラゴラは一部の人間に利用されるだけの幻想植物であったが、世界中で帰化した現在において、幅広い分野での異なる利用方法が見直されている。


27)「太歳」は中国の地中に住む多眼の肉塊の妖怪である。シセンマンドラゴラは完全地中型の、水分を特に多く保持する多肉植物で、これは現地では昔から食用にされてきた。毒を抜くために乾燥させてから水に戻すと、寒天状の食感となる。多少えぐみがあり、肉と花椒で煮込む以外に、菓子の材料にすることもある。高級食材。


28)調理例として、マンドラゴラの天ぷら、香味野菜と肉を混ぜて焼いた味噌、マンドラゴラの五平餅(本来は米を半殺しにして焼いたものに、甘みのあるクルミ味噌を塗ったもの)、葛切りなどが提供された。

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