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1.7. 人魚:利用:食材としての人魚

7. 利用:食材としての人魚

 人魚は医療用、装飾品加工の原料、食料として利用される。


 中国では古くから人魚の肉を乾燥させたもの、または血液や内臓の一部を漢方薬として扱ってきた。人間に比べて長命であること、その容姿の美しさから、人魚を食べてその力を得ようとする考え方は多くの文化に存在するが、公に医療的に人魚を処方することは極めて稀であり、また、偽物も多かったようである。錬金術の分野では、人魚は暗号化され、ひそかに調合薬の一部となっていた (1)。


 髪、皮は水に耐性があり丈夫であるため、様々な分野で使用されたが、中世に入ると特に鱗と合わせて貴族の身の回りの装飾品に加工された。人魚の脂は美容目的で使用されるか、灯りに利用された。魚油よりもにおいが少なく、たいまつに混ぜると嵐でも消えないとして、漁師に重宝されたという。


 観賞魚としては、古代中国の皇帝が庭に美しい紅髪の人魚を飼っていたという伝説がある。17世紀のヨーロッパでは、王族・貴族の間で人魚を飼育するのが密かに流行ったが、これはごく一部の人間にしか開かれていない趣味だった。人魚を隠して飼育する者はいつの時代にも現れるが、前述のとおり人魚は広い飼育場と大量の餌を必要とするため、遅かれ早かれ持て余すことになるのだった。そうした人魚は衰弱して早世するか、または狂暴化して飼い主を襲うこともある(2) 。


 食材としては、特に東南アジアでは、海人型の人魚の幼魚はほぼ魚類の形をしているため、その正体が知られることのないまま、食肉利用されてきた。マーメイド型の人魚は公には食用となった記録はないが、スコットランドで14世紀の大飢饉の折、農夫が捕まえて食べ、骨の形状から人間と勘違いされて裁判になった記録が残っている。


 食肉の面でいえば、種類よりも分布によっての味の違いが著しい。


 寒帯に暮らすのはマーメイド型が多く、保温の意味から脂肪が多くつくが、上半身の脂肪は肉に細かく入り込んでいるために、ほとんどそれそのものが脂のようになっている。したがって肉はとても柔らかく、食味もかなり良いとされる。脂肪は主に、その乳房状の胸筋に蓄えられるが、水中で浮力を得るためであり、心臓の保護も兼ねると考えると、これは当たり前のことであろう。下半身の魚類状の尾部分は移動に酷使するため筋肉質で赤身を帯びている。俗に「人魚の上半身は赤く鶏のモモ肉に似ており、魚の部分はトロのよう」だと称されるがこれは部分が逆に、間違って認識されているのである。


 温帯から熱帯に生息する個体は脂肪が少ない、平坦な体形をしている。強い日光にさらされるため、肌の色が浅黒く、シミ状の模様が現れることがあり、年を取った個体は皺が多くなる。これは、上半身の柔らかい皮膚が、紫外線で硬化することで起こる。小型であるために食用部分は少ない。温度の高い地方の個体の皮下脂肪は独特の臭みを持つため、薬効を期待されて食される。


 日本において、肉を食べると不老不死になるという伝説があるが、これは江戸時代、白米のみを大量に摂取していた都市部において発生したものである。人魚の肉にはビタミンB1をはじめとするビタミン・ミネラルが豊富であるため、脚気予防や健康維持に貢献したためであろうと推測される。


 人魚肉食はあまり一般的ではないが、食肉業者がカニバリズムを彷彿させる容姿を持つ成魚の食用を避け、より魚に近い形の幼魚を高級志向で売り出したことで、健康ブームの折に人気となった。食肉の購入は専門店か、そのネット販売を通じて行うのが、もっとも安全で確実である。幻想動物の食肉を扱う業者は政府から特別な許可を受け、人魚において人間の指紋に相当する尾びれからとった紋と、個体記録番号が消費者に提示される規則となっており、どのような処理を行ったのかわかるようになっている。野生個体は攻撃性があるので捕獲は容易ではなく、寄生虫の心配もあるため、食肉処理には十分な注意が必要となる。


1)錬丹術、錬金術分野の書物には、その文面通りに読んだり調剤したりしても薬効を発しないものが多く、質の悪い疑似科学として扱われがちであった。しかし何人かの研究者達はこれらの中に、暗号などで実際の内容を秘匿されたものがあると考え、正しい材料と方法を検証しようと試みた。今日では、いくつかの暗号の中に人魚の血を表すものがあるとわかっている。


2)現在、人魚の飼育には許可が必要であり、飼育環境の審査、飼育員の精神鑑定、責任者の財力等に至るまで確認されるため、申請から許可が下りるまで5年程かかると言われている。また、許可が下りた後も、定期的な飼育場の監査が課せられ、飼育種によっては公的な研究費の一部を担わなければならない。

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