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06 マテリアルターン


デンマークに留学に来た当初からインターンシップを考えていましたが、既に多くの先人がいらっしゃるような有名な事務所にいくのは違うなと思っていました。そこで、作戦として、日本ではインターン事務所のリサーチはせずに、デンマークに留学行ってから口コミから、知る人ぞ知るような、これから伸びてくる事務所に入るという攻め方を取り、この方が成長する事務所のリズム感を体感できるし、規模がまだ小さめの内は色々まかせてもらえるだろうなと考えたからでした。

さっそくKADKの優秀だったデンマークの友人に今面白い角度から建築を追求している事務所ってどこがある?と質問したところ、
「今だったら、GXNかLendagar GroupかTredje naturじゃない?」
という回答。ほうと思って調べてみると、

GXNは建築事務所3XNのサポ―トするためのR&D部門で、Computation, Material Development, Human Behavior Researchをキーテーマに研究開発する頭脳集団という感じ。
https://gxn.3xn.com/

Lendager Groupは、建築のMaterial Upcyclingから持続可能性な建築を考えるというユニークな切り口でせめる事務所。
https://lendager.com/

Tredje Naturは、人間のみならず、植物を主役にも含めた建築やプロダクト作りを進めている、これも実験色の濃い事務所。
https://www.tredjenatur.dk/en/

デンマークでインターンに応募するときのキホンは、会社の公式のアドレスにポートフォリオを送るよりも、会社の”contact person”に直接連絡をとって、話を進めた方が良いということも教えてもらいました。(この意味でも、日本で海外のインターン探すだけより、留学かワーホリかで現地に滞在しつつインターン探す方が色々とやりやすい)。

KADKの2nd Semesterの間、コペンハーゲンを走り回り、人のツテでGXNとLendager Groupの中の人と繋がることができ、インタビューまでスムーズに進みました。


GXNでは、自身のポーフォリの中から厳選して、コンピュテーション絡みのプロジェクトのみ喋り、

Lendager Groupでは、KADKでやってたココナッツの話をしました。


GXNは、私がインタビューした時点で人員がいっぱいになっていてまた連絡するよということになり、一方Lendager Groupでは、インタビューした日のうちに、案外すんなり採用が決まりました。


、、、インターン決まるまでは、内心これ決まらなくて帰国パターンじゃないか?と焦っていたましたが、インタビューパスして案外ちょろいなとか思っていたら、VISAをstudentからworkに変えるための申請にまたギリギリになってまた焦るみたいな心境で、斯斯然然で、北欧に夏の活気が訪れるデンマークの風と共にLendager Groupで働き始めました。

インターンが始まって初日、会社のあまりな「ゆるさ」にカルチャーショックでした。オフィスがNordhavnの埠頭の端にあってランチを食べる場所の窓からは海と地平に並んだ風力発電のプロペラを眺める。やることやっていて、4時くらいになったら、ボスや中ボスが"Vi ses! (またね!)”とか皆に言って別れ、自転車にのって颯爽と家に帰っていく。日本の事務所の雰囲気とか、KADKのAEEプログラムの煉獄コースで気持ちを準備していた私は、突然に足をすくわれました、え、もう帰っていいの?5時かラワタシハナニシタライイノ?

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KADKのAEEプログラムは思えば、確かにデンマークの学校ではあったものの、その実、他のヨーロッパの国からの留学生も多いのでカルチャーは世界標準でハードワーキンゴリゴリだったのに対してLendagerは9割がデンマーク人の集団。私はこの時はじめてデンマークという国を初体験していました。オフィスを見回すと私より高身長な美男美女しかいないことに気づき(男女比ほぼ一緒)、国のほぼ全員の容姿が整っている環境に放り込まれると、自身の容姿についてああだこうだ考えを巡らす思考が消却されるという現象を体感しました。デンマークの同僚はみなとても優しく、人格者で、つらい話題を一瞬でジョークのネタにするボキャブラリーを標準搭載していて、初日に同じ部署で隣の席のSorenとNathalieとは特にその後も仲良くなり、家にいったりボートに乗ってコペンハーゲンの海をめぐる等しました。

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部署、というわけですが、

Lendager GroupはLendager ARC, UP, TCWのつの会社が合体したグループ企業で、ARCは建築事務所、UPはマテリアル研究開発と販売、TCWは、ビジネスデベロップメントトコンサルタント事務所で、私はLendager Upの所属でした。

Upcyclingにフォーカスし建築設計する。
、、、ちなみにアップサイクルというのは、リサイクルという単語と使い分けられている所がミソです。その基準は素材が何らかのプロセスで再度使用される時に元の状態からの付加価値がついて単位量あたりの価値が増加した場合のリサイクル行為を指します。伺えるように、Lendager Groupは素材の再利用を都市の記憶の現代への接続、、、のような文脈ではなく、経済的に持続可能なビジネスモデルとして説明を試みています。この点は共感する部分でした。設計では、素材のリサイクル率、素材の再利用による付加価値、CO2排出の削減量等を数値化し、素材の再利用が経済、文化、環境の面からメリットがあることを示します。そのためにデザイン行為による価値づけを図り、エンジニアリングによって性能面でもメリットを確保し、マネジメントによって一連のバリューチェーンを支障が出ないように運営します。
プロダクトからビジネスまでやっていることは幅広いのですが、実践が分かりやすい代表的な作品の一つがUpcycle Studioです。

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BIGの8houseをご存知の方であれば、あの集合住宅のすぐ北側にこのSOHO集合住宅は位置しています。ファサードのガラス、躯体のコンクリート、内装の木材はそれぞれ建築廃材から作られています。

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廃ガラスを現代のデンマークの環境基準に適応させるためのシュミレーションを行い、結果2つのペアガラスを重ねたようなガラスファサード部分。

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床の木材や巾木などはデンマークで発生した廃木材が利用されています。

他にも、この記事のサムネイルの建物はResource Rawsと呼ばれる集合住宅プロジェクトでファサードの煉瓦のアップサイクルが特徴です。Archdailyにもいくつかのプロジェクトが掲載されているのお時間があれば見てみるとインスピレーションがあるかも。

Lendager Groupのブックもあります↑

以上のような建築設計をメインで行うのはLendager ARCのアーキテクトの方々の仕事です。私のいたLendager Upは何をしていたかというと、以上のような建築廃材のマーケットを作るために色んなことをします。廃棄予定の建物のオーナーと連絡したり、量を確認したり、運送方法を考えることから、材料を使ってどんなプロダクトを作るか考えたり、ARCの人と一緒に建築のディテールを考えたり、現場監理をしたりします。UPの中で役割分担があるのですが、私は特にResource Mappingと社内で呼ぶ廃棄予定のビルの素材のリサーチ、解析、クライアントへの資料作りがメイン業務で、このお仕事、対象がコペンハーゲンやオーフス等のデンマーク国内のみならず、ノルウェーやスウェーデンといった国外の場合もあるので、敷地に直接赴く必要がある時は半分海外旅行みたいなものなのオフィスから出られて楽しいものです。Resource Mappingをしていない時や隙間時間には、ghのコンポーネントを作って提供したり、モックアップづくりを手伝ったり、建築設計とモデリングしたりしていました。

Lendager Groupの掲げるコンセプト自体は明瞭ですが、実務に移す際には色々と障壁が多いもので、そこを真正面から真面目にやっている実態を内部から観察していて「そういうアプローチやっていいんだ!」という驚きがありました。私事ですが、以前のノートにも書いたように最初はデザイン経営工学でデザインマネジメントを学ぶところからアカデミックキャリアが始まり、建築とコンピュテーションに場をうつして、デンマークに来てから持続可能性とは?と考えていたのですが、Lendager Groupの実践の中で私が今までつらつらとやってきたことと知恵がひとつのミッションの元に収束してきて、多分このへんが自分が登るべき山かな思い始めるような感覚。Upcycling、マテリアルの循環系の構築、Circular EconomyとArchitectureの間。。。。

持続可能性の中でも、とくにマテリアルという重みのある世界の産業をハックする妙に取りつかれ私の心にはマテリアルターン(素材革命)がやってきていました。

この分野を極めなければ!という思いで、同僚が5時にtak for i dag!と帰宅する中、私はオフィスに籠ってプロジェクトの関連資料を読み込んだり、休日も個人的に興味のある人や企業にインタビューとかしていたら1年はあっという間に経過し。

インターンシップの期間は、1年と2か月。
最後の2か月は日本の東京オリンピックのためのデンマークパビリオンのコンペでLendager Groupが勝利したことで設計することになり、Lendager Groupの名前が日本進出が期待されたのですが、コロナの影響で3月下旬現在オリンピックが延期になりそうで、日の目を見るのは来年になりそう。一度は、ボスのAndersとデザインリーダーのChristianと一緒に日本訪問してクライアントにあって話たり東京23区を一緒に散策して適当に案内をしたもので、母国で実現したらエモーショナルだなと思っていましたが、予想できない事態は起こるものです。

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デンマークで2年間を過ごしての日本帰国、あとは修士設計と就職の流れ。
実際のところ、デンマークに帰って働きたいという気持ちより、日本で試したいという思いが、気づけば留学前より強くなっていました。
理由のうちの1つは、どうも私が目指すマテリアルサイクルのビジョンを実現するためには、インターナショナルな建築事務所のような態度とは異なり、建築産業のローカルな話とグローバルな話を横断しながらデザイン以外の話もする必要があって、この議論を進める前提としてベースとなる「場」を設定する必要があって、考えた末、やはり自分の問題意識や考え方の原点は日本に帰着するよなあと思ったからです。
日本を出て働くことも楽しいのでやりたいですが、まずは母国からだろう、という気持ちになり、私は日本「から」がんばろうと思ったのでした。

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