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【永久保存版】【映画ネタバレあり】ほぼ全曲語り尽くします!欅坂大辞典 〜五年間の欅の轍と櫻への軌道〜

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10月7日(水)発売の欅坂46のベストアルバム「永遠より長い一瞬 ~あの頃、確かに存在した私たち~」の初回仕様限定盤(豪華版)TYPE-Aに収録された全30曲+Type-B限定収録2曲の計32曲の徹底解説、音楽理論的な角度からの分析を行い、主観で感じた楽曲のお気に入りのポイント等を5年間のグループの歴史と想い出に重ね合わせながら綴っていきたいと思います。今月をもって活動休止を向かえる欅坂46への今までの感謝の気持ちを込めて何か記念に残る記事を書いてまとめてみたいなと思い筆記に至りました。今までにはライブレポをnoteに文字に起こして綴ったり勝手に乃木坂のB面集を仮定して曲解説をしたことはあったけど、自分がこうやって既存のアルバム1枚をまるまるレビューするのは初めての試み。ぜひベスト盤を手にした方は聴きながら、そう出ない方々も1曲1曲隅々まで最後まで読んでみてください。


はじめに

本作「永遠より長い一瞬~あの頃、確かに存在した私たち~」は欅坂46がこれまでに発表してきた全シングル9作品と人気カップリング曲、アルバム曲、新曲、映像作品を完全網羅しているベストアルバム。ベスト盤をリリースするのは坂道グループ史上初となる。この題名は複数ある候補の中からメンバーの投票により決定されたという(日経エンタテイメント2020年11月号菅井友香談)。

また、本作の発売日である10月7日は僕のイチ推しメンバーである1期生の尾関梨香さんのお誕生日なのです。

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"おぜちゃん"こと尾関梨香さん。今年で23歳を迎えられた彼女、学年が僕の一個上というのが信じがたいくらい童顔で小動物感のあるかわいさ。初期の彼女は乃木坂の生田絵梨花さんに雰囲気が似てるとか言われてたらしいです。特技は書道で、毛筆・硬筆ともに特待生。極度の運動音痴でちょっと天然なところ、メンバー想いのやさしい性格がとても魅力的で大好き。自分の誕生日が所属しているグループのベスト盤発売日にも関わらず、ラジオでもトークアプリでもブログでも未だに「私の誕生日にリリースされるんですよー!」みたいに出しゃばる発言が一つも無くて、そういう謙虚な姿勢も推せる。まさに欅の円陣の掛け声、「謙虚(K),優しさ(Y),絆(K)」を凝縮したかのような素晴らしい御方。

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キャプテン(右・菅井友香)とのツーショットも尊い。ゆっかーもおぜちゃんもいつか会いたいな(欅はライブも握手会も行ったことないので生で見たい)。

お誕生日おめでとう!🎉🎊


# 尾関梨香生誕祭


まぁ今回の本題はこれではないので、いつか別枠で推しメンについてひたすら語る記事書いて出そうかな(需要あるかわからないけど)。

以下が本題になります。

〈DISC1〉

一枚目はOvertureを筆頭に歴代シングルをリリース順に並べており、後半は人気アルバム曲、カップリング曲を収録。

M1:Overture

作曲・編曲:渡辺尚 Key=C→E♭

タイトルの通り、アルバムの開始を告げる序曲。サッカーのアンセム感が強いインスト。ライブでは毎回この曲で開演し、1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」の1曲目に収録された。小室哲哉を彷彿とさせるようなⅥm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ(Am→F→G→C)の繰り返し循環コード進行をとっている。中盤のOh~の掛け声からはCキーから3つ上がってE♭キーに転調し、さらなる加速感を生み出し盛り上げに拍車をかける。ライブではファンのコール歓声と共に会場がペンライトにより緑1色に染まる。自分は欅坂46のライブに生で行ったことがないので体験したことは無いが、DVDなど映像を観る限りこの会場の雰囲気が一体となった空気感、光景は圧巻である。

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実はこの音源が3代目のOvertureであり、結成当初僅かな期間に使用された2つの別バージョンがかつて存在した。個人的にこのOvertureが大好きなので、櫻坂46に改名された後にも引き継がれていって欲しいと願っている。


M2:サイレントマジョリティー 

作詞:秋元康
作曲:バグベア
編曲:久下真音
1stシングル(2016.4.6)Key=イントロ1AB:G♯m → 1サビ:G♯ → 2AB:G♯m → 2サビ:G♯ → 間奏C:Fm → 3サビアウトロ:G♯
ストライプインターナショナル『メチャカリ』CMソング

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"モーセの十戒"こと、サビで中央を切り裂くパフォーマンスをするセンター・平手友梨奈 

仮タイトルは「僕らの革命」。グループ結成日である2015年8月21日から8か月後の2016年4月6日に今作をリリースしデビュー。紛れもなくアイドル界・邦楽界に激震を轟かせた歴史的傑作。欅坂46の原点にして頂点、代表曲である。作曲は同グループの4thシングル「不協和音」も提供した2人組音楽ユニット、バグベアによるもの。編曲者の久下真音氏は過去に乃木坂46の人気曲「悲しみの忘れ方」も手掛けている。そもそも楽曲名の「サイレントマジョリティー」とは物言わぬ少数派、積極的な発言行為をしない一般大衆のこと。日本人の習性を的確に表した皮肉な単語にも聞こえる。後にMr.Childrenの桜井和寿は2018年に発売するアルバム「重力と呼吸」を名付けるにあたり、今作を参考にしたという。相反するイメージのある"サイレント"と"マジョリティー"という両単語を組み合わせることにより奥行きを持たせ、リスナーの心に引っ掛けるという仕掛けにインスパイアされて取り入れたと語る(出典:MUSICA2018年11月号)。この曲に関しては"君は君らしく生きてゆく自由があるんだ 大人達に支配されるな"のフレーズに尽きると思う。むしろこれがタイトルでもいいくらいのインパクト。これから社会に出て行く若者や夢見人に対する最高の応援歌。リリース日である2016.4.6は高3のクラス替えの日の2日前で、まさにこの曲と共に高校最後の年が幕を開けたといっても過言ではなかった。当時の自分は今ほどアイドルの曲に対し積極的に興味を持っていた訳ではなく、なんか乃木坂みたいなグループ出てきたな~くらいにしか思っていなかった(本格的にハマるのはこの2年後となる)。ただこの曲を若いうちに出逢えてよかったなと思える喜びは大きい。周りの空気に左右されず"自分"を持つことの大切さを教えてくれたし、何を言われても怯まない強気な心を育ててくれた。

もう一つ、聴き手の心をグッと掴むポイントは、同主調転調を活用しているところ。これは簡単に言うと、同じキーに対してm(マイナー)が付いたり消えたりすること。例えば元々Cキーで明るかった曲が突然Cmキーに転調して暗くなりまたCキーに戻って明るくなる、みたいな感じ。"転調"と聞くとただ単にラスサビでキーが半音上がって盛り上がる展開が思い当たるかもしれないが、この曲がやってる同主調転調ってのはこういう感じでちょっと違う。サイレントマジョリティーの場合、出だしイントロAメロBメロのキーはG♯mで重苦しく荒々しい雰囲気だが、サビでG♯に替わり(転調し)一気に淡く希望に満ち溢れた明るい空気に包まれ解放される。再び2番に入り短調(G♯m)→サビではまた長調(G♯)、間奏で短調(Fm)、ラスサビとアウトロは長調(G♯)と、最終的には清々しく終わる。このキーのひっくり返しが交互に訪れることで聴き飽きない構成になっているし、思春期特有の安定しない心情や辛いことと楽しいことが交互に訪れる紆余曲折した人生そのものを表していると感じる。

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MV終盤にメンバー全員で1列に並ぶシーンは渋谷のさくら通りで撮影。名前が似ている六本木に存在するさくら坂とは全く別の場所。

もう一つ、この「サイレントマジョリティー」という楽曲を語る上で絶対に欠かせない話題がある。2018年11月30日放送のミュージックステーションでのコブクロによるアコースティックバージョンでのカバーである。あの国民的フォークデュオがアイドルのカバー!?誰もが愕然としたし前週の次回予告で「サイレントマジョリティー/コブクロ」の字面を観た時にMステ制作側の打ち間違いなんじゃないかって疑ったほど。ループマシンを駆使しアコギをかき鳴らす小渕さんのテクニックはさすがだなと思ったし、それに合わせ圧倒的歌唱力でカバーする黒田さんにも圧倒された。ちなみに、彼らのテイクではキーを男性音域に近づけるために4つ下げている。どこかでこんな秀逸なコメントを見かけた。「欅坂46が歌うサイレントマジョリティーは等身大の若者の叫びであり、コブクロが歌うサイレントマジョリティーは大人達から若者へ届けるエールである」と。MV撮影地は2018年開業の渋谷ストリームが建設される前の工事現場。カップリングには施設付近を流れる「渋谷川」と題したゆいちゃんず(今泉佑唯・小林由依)によるフォークソングを収録。

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CDジャケット写真も渋谷川にて撮影された。公式YouTubeのMV再生回数は1億5千万回を突破(2020.9時点)し、グループ史上最大である。

君は君らしく生きていく自由があるんだ大人たちに支配されるな 初めからそうあきらめてしまったら僕らは何のために生まれたのか?



M3:世界には愛しかない

作詞:秋元康
作曲:白戸佑輔
編曲:野中“まさ”雄一
2ndシングル(2016.8.10) Key=G♯(サビのみG)
テレビ東京系ドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』主題歌

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風車のある大草原が印象的なMVは風力発電が盛んに行われている北海道苫前町(札幌からそのままずっと日本海沿いを北上していったところにある町)で撮影

1stシングルから4か月後にリリースされた2ndシングル。乃木坂46、欅坂46、日向坂46の3組坂道グループは原則として1年に3枚のシングルを春・夏・秋に分けて発売しており、今作は欅坂にとっての初の夏シングルである。乃木坂46の人気曲「裸足でSummer(2016.7.27,スピッツの「醒めない」と同日リリース)」と近い時期に発売された。また、日向坂46の前身である"けやき坂46"の1stシングル「ひらがなけやき」が今作カップリングに収録された。何といってもこの曲のポイントは爽やかな青春ソングであること。また、Aメロでポエトリーリーディング(歌詞を旋律に乗せ歌うのではなく詩をそのまま朗読する技法)が使われていることも大きな特徴。1曲の中で1つのミュージカルが行われているのかと錯覚するほど。サウンド的には早速イントロから鳴るピアノの美しい音色と終始かきならされるアコースティックギターの瑞々しい響きの絡み合いがこの爽やかな楽曲を構成している。まるでMVの清々しい自然風景のように心地よい風が吹き抜ける空気感を演出してくれているよう。この曲でフロントメンバーに選ばれた渡邉理佐は後に映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」内で"リップシーン(MV撮影時に口パクで映像とマッチさせること)が上手くいかず泣いた"と話し、尾関梨香は"MV撮影時には雨が降って大変だった"と語る(こち星2020.9.20本人談)。前作「サイレントマジョリティー」のMVが都会のど真ん中で撮影されたのに対し今作の舞台は北海道の大自然。こういった背景も踏まえてメンバーにとって新たな気持ちで挑めた作品になったことだろう。

主題歌としてタイアップがついたドラマ「徳山大五郎を誰が殺したか?」はクラスメイトの何者かにより殺害された担任教師・徳山大五郎の死体を隠しながら過ごすことになった欅坂メンバー演じる女子高生の学校生活を描いたミステリー学園ドラマ(テレビ東京土曜24・2016.7.17-10.2放送)。

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リアルタイムでは観ていなかったものの、2019-2020年末年始に期間限定でテレビ東京公式YouTubeチャンネルにて全12話が投稿され、後追いながら観ることができた。素晴らしすぎる多数の伏線回収、誰が犯人なのか全くわからないドキドキ感、メンバーの個性を活かした役作りなど見応え抜群の作品であった。爽やかな曲調が印象的な楽曲「世界には愛しかない」をこのようなサスペンス的な内容の物語と絡めてくるあたりが本当にすごいしこういったギャップにやられる。

また、サビに入った瞬間キーが半音下がるのもこの曲を語る上では欠かせないポイントの1つ。転調は通常、キーが上がって曲調を盛り上げる展開を誘導するのに活用されがちな作曲手法であるが、それとは逆にABメロに対してサビで落ちる流れを作っている。このような例はJ-POPの楽曲では決して珍しいわけではなく、乃木坂46の「ありがちな恋愛」「急斜面」、ゆずの「Yesterday and Tomorrow」等にも用いられており特有の切ない雰囲気、爽やかさ、一言で言うならば"エモさ"を醸し出しているなぁと感じる。個人的にはこの曲を聴きながら朝ランニングをするのがとても好き。

涙に色があったら 人はもっとやさしくなる 



M4:二人セゾン

作詞:秋元康
作曲:SoichiroK、Nozomu.S
編曲:Soulife
3rdシングル(2016.11.30) Key=G♯

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柔らかい空気に包まれたこの楽曲を象徴しているかのような綺麗な太陽光を活かした自然風景が美しいMVは幕張新都心にて撮影された。

タイトルにある"セゾン(Saison)"とはフランス語で"季節"の意味。 移り変わる季節の美しさや揺れ動く心情の儚さを丁寧に歌い上げたミディアムバラード。艶やかなピアノの音とタイトル"二人セゾン"の歌詞が初っ端から飛び出し、次第にアコギとドラムが加わり楽曲の加速感を加え一気に歌の世界観に引き込まれる。さらには"一緒に過ごした季節よ"の部分でB♭m→Cm→D♭→E♭とルート音が上がっていき、畳みかけるような展開も秀逸。サビではトニックⅠであるG♯のコードが一切登場せず、フワフワとした足取りで落ち着きがない。まるで留まることを知らず常に移り替わる季節を表現しているかのよう。1stシングルから3作連続でキーがG♯で、溌溂とした響きの中にどこかノスタルジーな雰囲気を漂わせるのが特徴。

個人的な話ではあるがこの曲を聴くと2016の秋を思い出す。同時期にリリースされた桑田佳祐ソロ名義シングル「君への手紙」や乃木坂46の橋本奈々未卒業曲「サヨナラの意味」、back numberのヒットシングル「ハッピーエンド」などは本作二人セゾンと切っても切れないセットなイメージ。これらの曲はセンター試験対策の勉強で辛かった時期のことや、当時好きだった子との思い出、北海道日本ハムファイターズが日本一に上り詰めたあの当時の感動なども一緒に真空パックにされていて非常に懐かしい気持ちになれる。あれは紛れもなく青春の1ページだった。

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本楽曲のソロダンスパートを務めた経験のある小池美波は「私の二人セゾンが楽しさや春夏を表現しているなら平手は切なさや秋冬を表現していて、対を成している」と映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」内で語る。偶然にも"秋冬で去っていく"フレーズの通り今年の10月で欅坂46としての活動が休止し、新たなグループ"櫻坂46"として再出発。変わること・変化することそのものが生きることであり、過ぎ行く月日の儚さや切なさが今までとは異なる景色を生み出し、日常を輝かせているのだと、この曲を聴いて思い知らされる。

そういえばMr.Childrenの桜井さんも「HANABI」を作曲した時に"辛いことや楽しいこと、様々な感情を揺れ動かすことによって我々の心も入れ替わって澄んだ新鮮なものに生まれ変わっていくんじゃないかな"みたいな似たこと言ってたなぁ…

一瞬の光が重なって折々の色が四季を作る そのどれかが欠けたって永遠は生まれない



M5:不協和音

作詞:秋元康
作曲・編曲:バグベア
4thシングル (2017.4.5) Key=Dm→ラスサビでD♯m

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MVは神奈川県横浜市中区山下町の山下埠頭で撮影。

これぞこのグループの神髄ともいえる神曲。今作こそが最高傑作だという意見もあればこの曲から欅は完全にダークサイドに堕ちた、セゾンまでの欅が良かったよな、って声もある。どちらにせよグループの方向性を決定付けた確かな楽曲であることには間違いない。既成概念をぶっ壊せと主張する強気な主人公の態度が濃密に描かれており、僕はYesと言わない、僕は嫌だ、恐れたりしない、価値ない、など"~ない"と言い切った否定文が多い上にキーが短調ってこともありとにかく全体像が重たく暗い。ポップな恋愛路線よりの前2作の路線とは打って変わって1st「サイレントマジョリティー」を彷彿とさせる、自分の主張や思い描く"正義"を表明した"僕"の力強い意思が感じられる。まるで"さぁ今から凄い曲が始まりますよ"と言っているかのようなピアノの特徴的なイントロからして聴き応え大。展開としてはイントロからDm→A♯→C(転調後ラスサビはD♯m→B→C♯)の3コードをひたすら繰り返すだけの超シンプルな構成であるが、そのシンプルさゆえに歌詞がより際立って聴こえる。

また、平手友梨奈という一人の少女の人格を変えてしまった一曲でもあると映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」を観賞し感じた。映画内のインタビューにてグループ副キャプテンの守屋茜はセンターを担う平手友梨奈について「セゾンの時から段々ズレていき、不協和音の頃にはもう誰とも話さなくなってしまった」と語っていたシーンがある。平手自身はこの楽曲の収録時、MV撮影時には"曲に対しての気持ちが凄く入ってしまって辛い"と言っており、楽曲の"僕"を演じるにあたって実際に他のメンバーとも距離を置いてコミュニケーションをとろうとはしていなかった。本楽曲で2017年末紅白歌合戦に出演した後には平手本人の口から"一旦グループを離れたい"と告げられた。過激なダンスを表現したり曲の世界観に入り込むための体力、精神力はすでに当時限界を迎えていたのかもしれない。あのシーンは映画を観ていて一番胸が苦しくなった。櫻坂46に改名後、何の曲が引き継がれて何が封印されるだろうか?という問題を最近よく見かけるが、この曲はできればもう観たくないし封印されてもいいと思う。凄まじいメッセージ性が込められた一方でそれを演じる者が重圧を受けてしまった、まさに諸刃の剣のような歌。

僕は嫌だ



M6:風に吹かれても

作詞:秋元康
作曲・編曲:シライシ紗トリ
5thシングル(2017.10.25) Key=Em
ストライプインターナショナル『メチャカリ』CMソング

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1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」の発売3か月後にリリースされた5thシングル。今作からラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」まではオリジナルアルバム未収録となりシングルでしか聴くことができなかったが、本作ベストに初めてアルバムに収録された。

一音目から打たれるバスドラとアコギのハーモニーに乗せて歌われる"枯葉がひらひら空から舞い降りて"、"あの枝で揺れている一枚の葉みたいに"などのフレーズに代表されるように、発売時期の秋に相応しい情景が思い浮かぶロックな一曲。イントロから終始鳴り続くアコースティックギターのEmコードの涼しげな響きがクールで心地よい。実際にAメロでアコギの音は入っていないが、ずっとEmコードをかき鳴らすだけでカバーして弾ける。少ない種類のコードで演奏できることが多くの欅坂の楽曲に見られる特徴であるが、この曲は特にその傾向が顕著に表れた例だと言える。超単純なコード展開であるが、唯一アクセントのかかる場面がある。サビの終わりの"なるようにしかならないし~"の部分、C→Bm→Eで締める流れ。普通、Emがキーの曲はトニックのEmかGで終えるのが筋であるが、あえてEという不安定な響きで終わっているところが独特な余韻を残していて非常に特徴的。本作を提供したシライシ紗トリ氏は2018年レコード大賞受賞曲である乃木坂46の「シンクロニシティ」も手掛けた最強作曲家。

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人生は風まかせだと歌い上げる歌詞には優しさを感じるし、何度も曲中で叫ばれる"That's the way"という掛け声には励まされる。決して悲観的にはならずに、ありのままの現状を受け入れて一緒に前を向いていこうと語りかけてくれているようなメッセージ性が読み取れるのがこの曲の強さ。

北海道日本ハムファイターズの淺間大基選手は本楽曲を登場曲に採用している(2020.10.7時点)。

(※追記 2020.10.10現在、一軍合流した際に登場曲を日向坂46の「アザトカワイイ」に変更していることを確認した。)

アレコレと考えてもなるようにしかならないし…



M7:ガラスを割れ!

作詞:秋元康
作曲:前迫潤哉、Yasutaka.Ishio
編曲:APAZZI
6thシングル(2018.3.7) Key=C♯m
NTTドコモ『ドコモの学割』『ハピチャン』CMソング

名曲。自分はこの曲で本格的な欅坂46のファンになった。忘れもしないあの夜。2018年3月某日。インフルエンザに罹り体調が悪く、寝込んでいる時に何気なくYouTubeでミスチルの動画を観ている時にふと流れてきた、あのドコモの広告。

ビビッと全身に電撃が走ったかのような衝撃だった。体温が上がった。空気を切り裂くような歪んだ迫力満点のギターの音、キャッチーで耳馴染みの良いメロディーに乗せて"目の前のガラスを割れ!"と少女たちが叫ぶ力強いフレーズ、何もかもが新鮮だった。"僕"にとっての邪魔ものや不安心、痛み、苦しみなどあらゆる"敵"からの解放を求め障壁を破壊しようと主張する強い態度がとにかくカッコいい、最強のロックチューン。"夢見るなら愚かになれ 傷つかなくちゃ本物じゃないよ"のフレーズはサイレントマジョリティーの"夢を見ることは時には孤独にもなるよ 誰もいない道を進むんだ"の歌詞とも呼応している。

サイレントマジョリティーの頃、集団の中にいた"僕"は不協和音で調和だけでは何も生まれないと諭し、今作では自分は自分らしく生きていこうと全ての抑圧に抵抗、突破し前に前に進んでいこうという勢いが感じられる。実際にサビでのダンスはそのような姿勢を表現した、全員がまとまって前に進んでいくという立体的なダンスが見られる。また、スタンドマイクを使用したこの曲ならではの特徴的なパフォーマンスも見どころ。

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2020.7.16に行われた配信ライブ「欅坂46Live Online,but with YOU!」では無観客の公演会場の特性を活かし、アリーナを全面使いMVを再現したかのような圧巻のライブパフォーマンスが見どころであった。映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」ではこの曲の大迫力の音のライブ映像が最初に流れてきて一気に鳥肌が立った。センターステージで踊り狂った平手友梨奈が曲の終わりと同時に床へ落下するというアクシデントの場面もしっかり収められており、とてもハラハラした気持ちで観ていた。欅坂46というグループの凄さを確認した楽曲だった。

また、オリックス・バファローズの田嶋大樹投手は本楽曲と「エキセントリック」を2018年度の登場曲にしていた。彼は長濱ねる(卒業生)推しで、グローブに「欅」の文字の刺繍を入れていたことがあるほどの熱血なファン。(現在はどうか不明)。

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やりたいことやってみせろよ お前はもっと自由でいい 騒げ!



M8:アンビバレント

作詞:秋元康
作曲・編曲:浦島健太、TETTA
7thシングル(2018.8.15) Key=Fm、ABメロはD♯m、ラスサビはF♯m
ローソン『スピードくじ』CMソング
永谷園『永谷園×欅坂46「お茶づけで会いましょう」』CMソング

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バレットタイム(高速の撮影をあえてゆっくりとスピードを落とし再生させる技法)を活用し、視覚的にも新鮮な要素を取り入れたMVは千葉県・かずさアカデミアホールにて収録。

欅坂46最後の夏シングル。ヒット曲「ガラスを割れ!」とCDでのラストシングル「黒い羊」の間に挟まれる時期にリリースされ、あまり話題に上がってこない本楽曲であるが、音楽的には非常に面白い作品。「ファンク的な要素を取り入れたヒップホップ調のエレクトロJ-POP」といった印象で聴いていて楽しくなれる。今まで出逢ったことのない、新しい音像だった。Aメロではラップとも解釈できる何層にも連なる大量の押韻(シーズン、リーズン、必要多分、ロマンス)が行われているし、サビでは、否定しない、構わない、しょうがない、聴く耳持たない、まるでない、愛せない、など"~ない"の否定形で畳みかける連続パンチを放つ。メロが変わるごとに転調し、ABメロではキーがD♯mだったものがサビでは全音上がりFm、さらにはラスサビで半音上がりF♯mまでいくという常に全力猛ダッシュで坂を上り続けているようなイメージ。色々な調が歌中で登場する模様はMVのカラフルな演出とも相まって楽曲に濃厚な彩りを加えているよう。ちなみにイントロとサビはFm→G♯m→D♯→C♯の繰り返し循環コード進行で弾ける。

そもそもタイトルの「アンビバレント(名・ambivalence)」とは心理学用語で一種の矛盾心理、"両価性=相反する感情の交差、同一対象に対して矛盾する感情や評価を同時に抱いている精神状態"と定義される。-出典:weblio英和辞典

よく言う、好きな人や推しを"食べちゃいたいくらい可愛がりたい"なんて気持ちは愛情を与えることと危害を加える事の真逆な両面を持ち合わせており、一種の両価性と判断できる。また、思春期には親から自立したい気持ちが強く芽生える一方で親元から離れることの不安も同時に感じてしまう。これも一種のアンビバレンスな心理状態。本楽曲内で歌われているのは"一人になりたい なりたくない"、"孤独なまま生きていきたい だけど一人じゃ生きられない"など、「孤独」をテーマに描かれている。個人的に人生における"孤独との向き合い方"は生きていく上ではとても難しく繊細なテーマであると考えているので深く共感した。他人に干渉されず一人で生きていくことができたらどんなに楽だろうか…と妄想するものの、いや、現実ではそんなこと絶対に不可能である。こういった心理状態は誰しも一度は経験したことがあるはず。だからこの楽曲に代表されるように"孤独と周りとの関わり方"を上手く捉え描く欅坂46の楽曲は不安定な若者の心に強く刺さるのだと感じる。

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MVが白い衣装での撮影のため、心なしか同年春に発売された乃木坂46のシンクロニシティっぽさも感じられる。

願望は二律背反




M9:黒い羊

作詞:秋元康
作曲・編曲:ナスカ
8thシングル(2019.2.27) Key=C♯m(ラスサビでDm)
イオンカード『U-25 新生活キャンペーン』篇CMソング

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欅坂46名義での最後のCDシングル(ラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」は配信限定発売)今作に収録されたカップリング曲「君に話しておきたいこと」「抱きしめてやる」はけやき坂46名義での最後の楽曲となった。MVはセンター平手友梨奈を中心に他者との共存・対立でもがき苦しむ姿を抱きしめ合ったり突き放したりする振り付けが圧巻である。ちなみに発売日の2019.2.27はback numberの「HAPPY BIRTHDAY」のリリースと同じ。

欅坂史上、最もメッセージ性の強い超名曲。「不協和音」では周りに馴染むことについて強い否定の主張が見られたが、今作では"孤独でいる事、自分を貫き通すことを強く肯定"した楽曲になっている。以前は組織の不満やを歌うことによる反抗心が見られたが、"白い羊なんて僕は絶対なりたくないんだ そうなった瞬間に僕は僕じゃなくなってしまうよ"のフレーズに代表されるように、今作では周囲に染まれない(染まらない)僕を自分自身で認め、どんな環境でも自分を持ち続けるという強い姿勢が感じられる。言うなれば、今までとは異なる主人公"僕"の描かれ方がされている。

マイナーコードを軸に展開していく欅坂的王道ダークソングであるが、アウトロが長調のFコードでしっかりと終わるところに一縷の希望の光が見えるような気がする。最初は暗いけど最後は明るめに締めるアレンジにはミスチルの「花‐Memento-Mori‐」っぽさを感じる。

完全にプライベートな話であるが、この曲は冴えない高校2~3年の自分に当てはめて聴いてしまう。他クラスには親友と呼べる仲の友人はそこそこいたものの、文理コース選択を完全に誤ってしまった(諸事情あり)ためにクラスの雰囲気に馴染めず、気軽に話せる仲の良い人がいなかった。僕は学校祭も体育祭も参加せず完全に浮いた存在でおそらくクラスメイトから"厄介者"扱いされていた。それでも自分は自分なりの居心地よい学校生活を模索しながら過ごし、何とか高校を卒業したし思い描いていた将来を実現すべく念願の第一志望大学に進学できた。当時同じクラスにいた専門学校、就職志望のクラスメイト達が白い羊ならば当時の僕は完全に黒い羊だったのだ。まるで自分のことを歌ってくれているかのようで本グループのシングル曲で一番好き。

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僕はいつだってここで悪目立ちしてよう



M10:誰がその鐘を鳴らすのか?

作詞:秋元康
作曲・編曲:辻村有記、伊藤賢
配信限定シングル(2020.8.21) Key=D
イオンカード『わたしの道』篇CMソング

欅坂46名義の最後のシングル曲。メンバー内では通称、"誰鐘(だれかね)"として浸透されているらしい。今年3月よりイオンカードのcmで新曲として流れていたが、2020.7.16に行われた配信ライブ「欅坂46Live Online,but with YOU!」にて初解禁された。ライブ終盤にキャプテン・菅井友香による"本作品をラストシングルとし、グループの活動を休止させる"という内容のmcがあった後に当公演最後の曲として披露。音源は結成5年目の2020年8月21日に配信限定で発売、今作ベストをもって初のCD化となった。

サビではガラスを割れの再来か?とも思える非常に歪んだエレキギターの尖った音や唸るベースなど、強い刺激的なサウンドが耳に刺さる。一方で、Aメロや曲終盤にはピアノとメンバーの歌唱のみになるバラード調のパートが存在し二人セゾンのようなメロディアスで優艶な雰囲気も味わえる。これはロックバラードに分類していいのだろうか。イントロとラスサビ前には2ndシングル「世界には愛しかない」を彷彿とさせる小林由依によるポエトリーリーディングが挿入されており、まるで歴代欅坂46全シングル曲を凝縮したかのような一曲に仕上がっている。ちなみに、ライブバージョンはアウトロが少し長い。

曲名にもある"鐘を鳴らす"という行為、これは個人的に"煩悩を打ち砕くもの"や"孤独や悩みからの救済"を比喩的に表現しているのではないかと解釈する。今まで数多くの楽曲で大人達への反逆や周囲に左右されず自由を求める"僕"を主観的に描いてきているが、そんな楽曲内の主人公を今度は客観的に見てみよう、としたのが今作であると考えられる。今まで大人たちの支配からの脱却、自由を求めての孤独という道を選んできた"僕"であるが、じゃあそんな"僕"をどのように救済させてやるのか?というのが一種の本楽曲の世界観のテーマなんじゃないかなとも思う。これはある意味これまでの"僕"そのものに対する成仏であり魂の浄化である。グループを締めくくる集大成に相応しい楽曲。

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映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」のエンディングテーマに起用(「太陽は見上げる人を選ばない」とのW主題歌)された。また、映画内の全国ツアー2019のダイジェストシーンでは本楽曲のライブバージョンで使用されている長いアウトロ部分のインストゥルメンタルVer.が流れる。CDシングルとして発売されていないため、インスト音源は公表されていない。

配信リリースのラストシングルということもあってなのか、公式では"1st配信シングル"だったり単に"ラストシングル"と表記される。"9thシングル"という表記は何故かどこにも見られない。クラシック界隈では9作目を出すと謎の死を遂げるという言い伝えがあったり、その都市伝説の影響からかiPhone9が出ていないなど"9番目の作品"にまつわる不可解な風習がこの世にはあるらしい。皮肉にも実質9作目のこのシングルを最後に欅坂46としての活動が終了してしまうのである。詳しく知りたい方は「第九の呪い 都市伝説」で検索を。

僕たちの鐘はいつ鳴るんだろう?



M11:W-KEYAKIZAKAの詩

作詞:秋元康
作曲:前迫潤哉、Yasutaka.Ishio
編曲:佐々木裕
4thシングル『不協和音』収録曲(2017.4.5) Key=E→ラスサビでF

「欅坂46」とそのアンダーグループ「けやき坂46」のテーマソング。ブラスバンドアレンジが特徴的なマーチ(行進曲)のように皆で足並み揃えて前進していくような曲調がポップで愉快な気持ちになれる。"調和だけでは危険だと"荒々しく歌う表題曲「不協和音」とは正反対に、仲間との絆の大切さについて歌った穏やかなナンバー。漢字・ひらがな全メンバーが参加し歌唱している。ライブでも"欅&けやき坂組"として全員参加する。けやき坂46が日向坂46として活動開始することになる事実上の結成日である2019年2月11日以降、欅坂46はグループ単独でライブを行うことになり、本楽曲は唯一KEYAKIZAKAを名乗ることができる漢字欅が引き継いで歌っていくことになった。以降は2期生おもてなし会と3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE(大阪公演のみ)でしか披露していない。今後欅坂46は新グループ「櫻坂46」と活動し開始し、KEYAKIZAKAと名乗ることができるグループはなくなってしまう。この曲の行方は一体どうなってしまうのだろうか…

偶然にも、本楽曲の"ある日僕の周りには"のメロディーと日向坂46のデビューシングル「キュン」の"君のその仕草に萌えちゃって"の部分、お互いのサビの出だしのメロディーが一致している。また、楽曲のキーは2曲ともE、ラスサビで半音上がりFにいくという転調の展開も同じである。

欅坂 けやき坂 絆っていいね 坂組だ



M12:月曜日の朝、スカートを切られた

作詞:秋元康
作曲:饗庭純
編曲:若田部誠
1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』リード曲 (2017.7.19) Key=Dm

1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」のリード曲。キーはDm、コード進行は単調でシンプルな不協和音を彷彿とさせるダークな印象。校則と課題が特に厳しく理不尽なことで説教され、特別友達が多いわけでもなくむしろクラスでは若干浮いた存在でまるで監獄のような3年間の高校時代を過ごしてきた自分にとってはこの曲にとても深く共感した。"あと何年だろうここから出るには…大人になるため嘘に慣れろ!"のフレーズ。この曲が発表されたのは自分が大学一年の夏であるが、高校時代に出逢っていたらどうなっていたのだろうか。。。

"努力は報われますよ 人間は平等ですよ 幸せじゃない大人に説得力あるものか"など、大人達への反抗心を巧みに描いた歌詞が強烈

あんたは私の何を知る?



M13:危なっかしい計画

作詞:秋元康
作曲:ナスカ
編曲:佐々木裕
1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』初回仕様限定盤TYPE-A・B収録曲 (2017.7.19) Key=Em(サビのみE)

欅坂のライブにおける主砲的盛り上がり定番曲。とにかく歌のテンポが速く、歌詞も追いつかないほど。言うなればサザンでいう所の勝手にシンドバッドポジションで、ほとんどのライブで披露されている。アップテンポなリズムに乗せてみんなでタオルを回したり上げたりするのが定例となっている。完全に個人的な解釈だが、歌詞は学校内では真面目に振舞っている学生がプライベートでは超パリピ陽キャに生まれ変わり、本当の自分はこっち側の人間なのだ!と主張しているような思春期にありがちな性格の両面性を絶妙に描いた曲だと思っている。

本楽曲で活用されている音楽理論的な特徴としては、サイレントマジョリティーと同様に同主調転調が活用されていること。サビだけEメジャーキー(長調)で明るく、それ以外はEm(短調)となりクールに見せつける。まるでこの曲の主人公の、学校内での陰キャ的な一面(短調)とプライベートでの陽キャ的一面(長調)が交互に登場しているのを表現しているかのよう。イントロからAメロまでは常にEmを軸に、Em→G→A→Bとルート音が上がっていく。BメロではA→B→C→Dと綺麗にルート音が上昇していくコード進行になり、限界を迎えたところでサビに到達、Eコードを放ち爆発する。もはや聴く芸術作品である。

ライブパフォーマンス的にも音楽的にも非常に面白い作品。櫻坂46のライブでも披露され続けてほしいと願う。

いつもと違うもう一人の自分になろう



M14:避雷針

作詞:秋元康
作曲:ナスカ
編曲:野中“まさ”雄一
5thシングル「風に吹かれても」初回仕様限定盤TYPE-Cカップリング曲(2017.10.25) Key=Cm,(二番以降はC♯m)
興和『三次元マスク』CMソング

5thシングル「風に吹かれても」Type-Cのカップリング曲として収録された。作曲は「エキセントリック」「危なっかしい計画」「黒い羊」「角を曲がる」等を手掛けた天才作曲ユニット・ナスカによる。

マイナーコードの薄暗さ、涼しげな響きが光る超名曲。コードは39種類が使用されており、転調、進行、メロディー展開、どれもがかなり複雑に作られている。初めて聴いた時は決して聴き馴染みの良い曲とは思えず、不思議な音像の違和感を感じた。最初はCmを軸に展開していき、サビで半音上がりC♯mになる。ガラスを割れや黒い羊といい、欅坂46はキーをC♯mでクールな音色を表現する曲が多いなと思わされる。

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ちなみに欅坂46・日向坂46の音楽ゲームアプリ「ユニゾンエアー」では本楽曲が最高難易度となっており、フルコンボ達成が非常に難しい。

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ライブでは雨のシーンや落雷の音が鳴り響く演出が見られる。歌詞を読み解いていくと究極の愛の歌であることが分かる。悲しみ=落雷から"君"を守る避雷針と自ら称し、励ますでも応援するでもなく、ただ"君"の隣でそっと見守り続けるのだ。こんな湾曲した表現の"君と僕"の構図は初めて見たし、今後現れることはないだろう。

いつだってそばで立っててやるよ 悪意からの避雷針



M15:もう森へ帰ろうか?

作詞:秋元康
作曲・編曲:河原健介
6thシングル「ガラスを割れ!」カップリング曲(2018.3.7) Key=A♯


通称「もう森」。6thシングル「ガラスを割れ!」の全タイプ共通収録となったカップリング曲。完全に自分の解釈であるがタイトル通りに読み解くと、①都会の喧騒と対照的に描いた閑静な田舎の町での暮らし、また歌詞を深く読み解いていくと②幼い頃に思い描いていた大人の世界(社会)とその現実の心理的乖離という2つの意味が考察できる。

楽曲内で登場する単語「街、土も緑もない狭い土地、鉄やコンクリート、想像してた世界、僕たちが信じていた世界」からは①味気ない人間関係で悩み苦しみ都会の喧騒の中で生きることへの諦め、②子どもの頃期待し思い描いていた華やかな大人の世界と異なった色の無い現実への悲観 という二つの意味合いが読み取れる。また、「あの森、輝いている故郷、ユートピア」という単語からは①慌しい都会での暮らしから抜け出して生まれ育った故郷に戻りたい気持ち、②無垢だった少年・少女時代に戻りたい気持ち という二つの意味が込められていると思う。今の自分の立ち位置からの現実逃避したいという心情が読み取れる。"森と街"、自分が本当に憧れていた場所は一体どこなんだ?という問いかけに考えさせられる。

メロディー的にはとても綺麗で大人しめな上品なサウンドだなといった印象。サビはトニック並行調マイナーコードのGmから始まり暗い印象を受けるが、歌中にはふんだんにトニックA♯が鳴っておりとても落ち着いた楽曲に仕上がっている。

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MVは茨城県水戸市の芦山浄水場跡地で撮影され、"大量生産されるアイドル"をテーマに描いている不気味な作風。

僕たちのユートピアは現実逃避だった



M16:Student Dance

作詞:秋元康
作曲・編曲:SaSA
7thシングル「アンビバレント」カップリング曲(2018.8.15) Key=Bm

7thシングル「アンビバレント」の共通収録カップリング曲。普段は教師に支配された空間である学校に真夜中に忍び込み好き放題暴れまわり、自由を主張する生徒=Studentを描いた曲。

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先日の配信ライブ「欅坂46Live Online ,but with YOU!」では暗い教室を模した舞台上で椅子を叩き壊したりプリントを撒き散らしたり黒板への落書きなど大胆かつ細部にまでこだわった演出が見られ、無観客ならではのアレンジであった。

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余談であるが2020年7月16日の夜、同じ学科の同級生と共に大学に食料を持って侵入し、配信ライブをゼミ室のパソコンで観ていた。まさにリアル・スチューデント・ダンスなるものを体験した一夜であった。

ここから先はStudent Dance 見つからないでSecret Place



M17:Nobody

作詞:秋元康
作曲:Dr.Kay、Gold Driver、BonoBono
編曲:APAZZI
8thシングル「黒い羊」初回仕様限定盤TYPE-Aカップリング曲 (2019.2.27)Key=Am
永谷園『梅干し茶漬け』CMソング

しなやかで端麗なダンスが見応えの8thシングル「黒い羊」Type-A収録のカップリング曲。踊っているメンバー全員が赤いスーツに身を包み、カッコいいというよりは美しい、非常に女性らしい楽曲に仕上がっている。

Am7,Dm7,FM7,E7の四種類のコードだけでひたすら回す単調な楽曲で、バックでこのコード進行を何順も繰り返すエレキギターの音が特徴。

"誰も本当の自分なんてわかってくれやしないんだ"というメッセージ性を放つ否定的な楽曲であるが、永谷園のお茶漬けのcmソングに起用された経緯を持つというのが面白い。

誰もいないよ こんなアタシのことなんか知るわけがない



〈DISC2〉

二枚目はカップリング曲とアルバム曲、そして初音源化となる「10月のプールに飛び込んだ」「砂塵」「コンセントレーション」の3曲を収録している。

M1:手を繋いで帰ろうか

作詞:秋元康
作曲・編曲:Akira Sunset
1stシングル「サイレントマジョリティー」カップリング曲(2016.4.6) Key=D
テーマパークハウステンボスCMソング

1stシングル「サイレントマジョリティー」全タイプ共通収録のカップリング曲。作曲は乃木坂46の「気づいたら片想い」「今、話したい誰かがいる」「ハルジオンが咲く頃」「いつかできるから今日できる」等ヒット曲を多数手掛けた巨匠、Akira Sunset氏によるもの。アコースティックギターの音が主体で鳴り響く爽やかなアイドルポップスソング。男女の甘酸っぱい恋愛を描いたラブソングの歌詞とは正反対のサスペンス風なMVが見どころ。

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ぽっかりとあいたハート何で穴埋めする? 街角でキスをしよう



M2:キミガイナイ

作詞:秋元康
作曲:SoichiroK、Nozomu.S
編曲:Soulife、後藤勇一郎
1stシングル「サイレントマジョリティー」通常盤カップリング曲(2016.4.6)Key=F

タイトルがカタカナ表記なのがポイント。多分「君がいない」だとしっとり系の失恋バラード曲に感じてたと思う。実際には欅坂46の楽曲に度々登場する"僕"が孤独になったきっかけの歌だと思う。この歌を筆頭に悲観的な歌詞の曲が多くなってきたイメージ。物理的な孤独状態を本来の"独り"と見なすのではなく、他者に相手にされない心理的孤独感の虚しさが歌われている。この曲の歌詞を踏まえて僕個人が思う"孤独な人"とは、無理やりにでも多数でいる事で安堵感を感じている者、上辺だけの付き合いで一人でいる状況を紛らわせている者、また、8thシングルでいう所の"白い羊を演じている者"だと解釈している。

サビではポリリズムが活用されている。「1,2,1,2,1,2,1,2,...」のリズムと「タタタ・タタタ・タタタ・タタタ...」の2つのリズムパターンが交じり、独特のビートを生み出している。曲の締めはドミナントコードのCadd9で終わらせるという不思議な浮遊感を余韻に残し曲が終わる。これはMr.Childrenの「しるし」やサザンオールスターズの「いとしのエリー」のアウトロでも活用されている技法。

本当の孤独は誰もいないことじゃなく 誰かがいるはずなのに一人にされてるこの状況



M3:語るなら未来を・・・

作詞:秋元康
作曲:PENGUINS PROJECT
編曲:佐々木望
2ndシングル「世界には愛しかない」初回仕様限定盤TYPE-A・B・Cカップリング曲 (2016.8.10) Key=C♯m

2ndシングル「世界には愛しかない」全タイプ共通収録のカップリング曲。通称"カタミラ"。ライブで最高に盛り上がる。表題曲の燦燦とした明るさはなく薄暗く湿っぽい雰囲気を放っており、後悔や未練、過去の苦しみややるせない現状を歌っている。一方で後ろめたい気持ちや後悔は抱いているものの希望を持って前を見据え未来を見ようよ、という前向きなメッセージ性も微かに読み取れる。

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楽曲のキーはC♯mで、薄暗いC♯mのコードを軸に展開していく。早速出だしの1番Aメロ、C♯m→E→F♯→A→G♯というミスチルのSINGLESも驚きの複雑なマイナーコードとメジャーコードの畳みかけが見られる。Bメロはいきなりトニック並行調メジャーコードのEの全音下、Dから始まるという驚異の浮遊感。また、1番2番のサビのメロディーと全く同じなのにコード進行が異なるラスサビ入る手前のパートも聴きどころ。"手に入れたのは脆い現実と飾られた嘘のレッテル"の部分。"脆い"のフレーズの所でまさにその単語を表現しているかのようなCaugコードの不気味な響きが一瞬挿入され、"現実と"の部分ではA♯m7-5の複雑な音の絡み合いが見られる。非常に音楽的に緻密に作成された楽曲だなと感じ取れる。

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MVでの近未来的なステージでのパフォーマンスがとにかくカッコいい。

もう失った未来なんか語るな ほんの一部でしかないんだ



M4:大人は信じてくれない

作詞:秋元康
作曲・編曲:Masayoshi Kawabata
3rdシングル「二人セゾン」カップリング曲(2016.11.30)Key=Bm

3rdシングル「二人セゾン」全タイプ共通収録のカップリング曲。イントロから憂鬱な空気感を漂わせており、前曲「語るなら未来を…」と同様に爽やかな表題曲とのギャップに惹かれる。後に1stアルバムのリード曲「月曜日の朝、スカートを切られた」にも通じていく大人達への反抗、社会への絶望を描いている。この曲における"大人"とは立場の強いもの、上司、先輩、先生、支配者(甲)とその不当な扱いを受ける者、部下、後輩、生徒、地位の低いもの(乙)の叫びという上が下を踏みにじる社会の構図を描いていると解釈している。初めて聴いた時は、いじめを受けている被害者側生徒から見て見ぬふりをしてほったらかしな担任教師へ対する憎しみを歌っているものだと思っていた。

これは完全に僕個人の意見・解釈であるが、今春からの新学期に大学生達が置かれたやるせない状況に対して不服を唱えた一曲であるとも解釈する。小中高では休校措置が解除された中でも一向にオンライン授業を貫き通す大学の体制。ここ最近のニュースでも度々見かける、予想していたキャンパスライフ、当たり前の日常が遅れなくなった生徒、友達ができない新入生の不満、悲鳴が歌われているような気がした。

今作は2016年に発売された楽曲であるが、歌中のフレーズ"孤独でいる"、"絶望の淵"、"(大人に対しての)自分が子供の頃を忘れているんだ"の歌詞は2020年コロナ禍を生きる大学生に重ねて聴いてしまう。

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ラスサビに入る手前の"僕が 僕がいなくなったって…誰にも…"のフレーズではEm7→F♯7→GM7→Asus4→A→Bmというコード進行を張り、階段を駆け上がっていくかのような上昇コード進行が見られる。

この記事を書く際に初めてこの曲のMVを観た(そもそもMVが存在することすら知らなかった)が、夜の車両基地にて蒸気機関車を背景に撮影、キレキレのヘッドバンキングのパフォーマンスが見られ、これは本当にアイドルの楽曲なのか?と非常に困惑したし感動した。2020.7.16に行われた配信ライブ「欅坂46Live Online ,but with YOU!」ではグループ最年少メンバーの山﨑天がセンターを務め、大きな話題を呼んだ。

時代の片隅で僕は殺されてるんだ



M5:制服と太陽

作詞:秋元康
作曲・編曲:aokado
3rdシングル「二人セゾン」初回仕様限定盤TYPE-Aカップリング曲(2016.11.30)Key=E

3rdシングル「二人セゾン」Type-Aに収録されたカップリング曲。人気曲であるがMVは存在しない。3rdシングル共通収録の前曲「大人は信じてくれない」がダークな曲だったのに対して、今作は表題曲「二人セゾン」とも非常によくマッチした、暖かく柔らかいサウンドが聴きどころのミディアムバラード。"メロディーが良い"に尽きる。イントロの透明感あるピアノの綺麗な音色から早速うっとりするし、涙が溢れそうになる。坂道グループの楽曲に多く見られる"美しいピアノの音色"ってのは聴く人を虜にさせる魔法がかかっているんじゃないかと思わされる。また、サビの終わりに安定かつセブンス特有のオシャレ和音を持ってくるF♯m7→B7→Eのコード進行。それに乗せて言い切る"運命が選び始める"のフレーズはもはや聴く芸術作品(n回目)。歌詞は"誰にも左右されず自由に生きなさい、いずれ運命が道を決めてくれるから。"という現状肯定型の励ましソング。

Bメロの"迷うことなくどこを目指しているんだろう 希望"というフレーズがあってからのサビに入るという展開、ここではF♯m→G♯m→Am→B7とルート音が上昇していくコード進行が見られ、まるで希望に満ち溢れた未来へ羽ばたこうとする主人公を描いているかのよう。サビはいきなり安定したトニックのEメジャーコードをガツンとぶつけ、AメロBメロではやや短調寄りだった雰囲気を一気に明るく晴らしている。

余談であるが、もともと高校卒業後は専門学校志望だった僕が高3の夏にいきなり大学進学を志した時に担任教師から案の定否定的な意見を言われたエピソードを思い出す。2016年の秋、ちょうどこの曲が出た時期とセンター試験への対策勉強をしていた当時の自分に重ね合わせて聴いてしまう。サビのフレーズは当時の自分を座右の銘にしたいくらいである。

生き方なんて誰からも指導されなくたって運命が選び始める



M6:エキセントリック

作詞:秋元康
作曲:ナスカ
編曲:the Third
4thシングル「不協和音」通常盤カップリング曲(2017.4.5)Key=A♯m→ラスサビでBm
日本テレビ系ドラマ『残酷な観客達』主題歌

不協和音とともに4thシングル表題曲の候補だった1曲。最終的には通常版のみ収録のカップリング曲になった。タイトルの「エキセントリック(eccentric)」とは、普通ではない様子を形容する言葉。サビで歌われる"I am eccentric 変わり者でいい"や、"カメレオンみたいに同じ色に染まれない"のフレーズからはどんな環境にいても自分を持ってていいんだよ、常にあるがままの自分でいいのだ、という現状肯定、一種の励ましの意味合いが込められている。これは後に8thシングル「黒い羊」で歌われる"白い羊になんて絶対なりたくないんだ"という表現にも現れていると思うし、Mr.Childrenの大ヒット曲「Tomorrow never knows」の"少しくらいはみ出したっていいさ 夢を描こう"とも共通している気がする。人生においてあるがままの心で何事にも怯まず行動することは実際難しいが、周囲から少し浮いた存在に思われつつも"自分は少し変わった奴なんだ=I am eccentric"と開き直ってみると案外楽に生きられるのかなと思う。また、"キレイな川に魚はいないとしたり顔して誰かは言うけどそんな汚い川なら僕は絶対泳ぎたくはない"のフレーズも特に秀逸な一節で、"僕"がイヤなものははっきりとイヤと言いたい、自分の芯は絶対に曲げないぞという強気な精神が感じられる。

音楽的には、クラブジャズ風のシティポップソングでAメロでは早口のラップが挿入されている。イントロはAメロ以降の風変わりな曲調からは想像しがたいくらい極上で洗練されたピアノの旋律。

「ガラスを割れ!」の項目でも記述したが、オリックス・バファローズの田島大樹選手(投手)は、2018年の登場曲に本楽曲を採用している。

2020.7.16に行われた配信ライブ「欅坂46Live Online ,but with YOU!」では"土生(はぶ)ちゃん"こと土生瑞穂がセンターを務めた。メンバー最高身長の彼女が先頭に立つパフォーマンスには圧倒された。

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抑圧からの解放、自由を求める姿を踊り狂い表現するパフォーマンスは圧巻である。

I am eccentric 変わり者でいい



M7:太陽は見上げる人を選ばない

作詞:秋元康
作曲・編曲:池澤聡
1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』初回仕様限定盤TYPE-A収録曲(2017.7.19) Key=A♯

超名曲。作曲・編曲はけやき坂46の「ハッピーオーラ」を手掛けた池澤聡氏。両曲とも爽やかな曲調で、曲中に度々挿入される雫が落ちる音は2曲とも同じアレンジとなっている。神々しい光を感じられるピアノのイントロから始まり、本楽曲ではマイナーコードが1個も無く、使用されている全てのコードがメジャーコードと、非常に明るい作風に仕上がっている。A♯(B♭)とD♯(E♭)とFの3コードだけで構成される。これは欅坂46に限らず、J-POP全般においてとても珍しい例。否定的な叫びが多かった欅坂46の楽曲であるが、この曲では"人類は皆平等に太陽という希望の光に照らされる権利があり、お互いに讃えあい前を向いて進んでいこう"という未来志向なメッセージが込められている。また本楽曲にはセンターが存在せず、平等性を提示した歌詞をそのまま物語るかのように全員が主役になり、魅せる。

どこを切り取っても後ろめたさはなく、常にポジティブなサウンドと歌詞である。

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2020.7.16に行われた配信ライブ「欅坂46Live Online ,but with YOU!」では一曲目に歌われ、欅坂の終焉と新グループの期待を予感させる感動的な演出であった。また、映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」では「誰がその鐘を鳴らすのか?」と共にW主題歌としてエンディングテーマに起用された。2020.10.17NHKの音楽番組「SONGS」には欅坂46として最後のTV出演が決定しており、ラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」とともに本楽曲を披露する。欅坂46のテーマソングの一曲とも捉えられる。

太陽はどんな時もこの空見上げる人を選ばない



M8:東京タワーはどこから見える?

作詞:秋元康
作曲:本田光史郎
編曲:APAZZI
1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』初回仕様限定盤TYPE-A収録曲(2017.7.19)Key=Fm,(サビのみG♯m)

バキバキの四つ打ちEDMロックナンバー。デジタルでダークでオシャレでカッコいいサウンドが印象的といったところ。乃木坂46の「他の星から」と非常にアレンジが似ており、歌中にどちらも東京都内の地名が登場すること、また曲序盤のキーも同じFmから入るので、勝手に双子の曲だと思い込んでいる。意味を読み解くのはかなり難解。勝手な解釈だが、大好きだった人と別れた後の主人公の寂し気な心情を描いている。"君"といた"僕"の過去は間違いなく存在していたが、その2人での想い出を思い出そうとすると勝手に自分の補正がかかる。"過去は美化されるもの"という。何が真実で何が虚構だったのか分からなくなり、これから先の未来は何を指標に歩んで行けば良いのだろうか…と途方に暮れる切ない様子を映し出している。切ない"過去"と孤独な"現状"、そしてその先の全く分からない"未来"を歌った曲が欅坂には多いなと思わされる。

心なしか"君のいないこんな世界想像よりも退屈だった"と歌う「キミガイナイ」の世界観と繋がっているような気がする。

ここからは見えなかった愛が今浮かんだ 幻みたいに



M9:君をもう探さない

作詞:秋元康
作曲:片桐周太郎
編曲:若田部誠
1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』初回仕様限定盤TYPE-B収録曲(2017.7.19) Key=Dm

この曲が本作ベストアルバムに収録されたことが本当に嬉しい。全国ツアーなどライブではよく披露されるが、MVは作成されていない。1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」Type-Bのみに収録された。メロディー展開とかアレンジがすごく乃木坂46の「僕の衝動」っぽくて綺麗。Bメロ最後に"本気を見せろよ"と、思わず歌ってしまいそうになるほどである。

この楽曲内で登場する"君"を恋人と解釈すると難解になるが、"君=過去の自分"と置き換えることで違った側面から読み取れる。"人はいつも汚れて誰も逞しくなるんだ"や、"あの日のような子供じゃないんだ 目覚めろ!"などのフレーズからは大人になった自分が昔の弱い自分に問いかけている言葉のようにも聞こえる。言わば過去の自分とはおさらばしたい=探さない、という主人公の強い決意表明が見られる楽曲である。曲の最後"一人だって生きられる 生きたくない"には「アンビバレント」的な二律背反な不安定な主人公の気持ちが読み取れる。

Dmの重々しい空気感と共に展開していくクールな楽曲であるが、アウトロの最後のコードだけメジャーのDコードになっており、とても爽やかで耳に残る。聴き終わった後の余韻がかなり独特。

知らないうちに大人になってた 鏡の自分絶望して君は逃げ出したんだろう?



M10:I'm out

作詞:秋元康
作曲・編曲:湊貴大
7thシングル「アンビバレント」初回仕様限定盤TYPE-Aカップリング曲(2018.8.15)Key=D♯(ラスサビでEに転調)

7thシングル「アンビバレント」のType-Aのみ収録されたカップリング曲。タイトルの"I'm out"とは、直訳すると"私は外にいる"って意味になるけど、この曲で歌われていることは"やめておく"とか"結構です"みたいな、拒絶・否定の意味合いが強い言葉で使われている。逆境に置かれた主人公が困難な問題、課題、敵に対して勇猛果敢に立ち向かう決意が感じられる曲。

"Blues 悲しみの色は青だって聞いたよ あの空よりも燻んだ青色"というフレーズは個人的に特にお気に入りな一節で、空の色は青一色ではなく、人それぞれが見たその時の心情に応じて色は複雑化していく、と歌っているのではないかと捉えている。複雑な人間の心模様を自然風景と照らし合わせた秀逸な表現である。欅坂46の楽曲はシンプルな上に尖った言葉が用いられていることが多いが、このように歌詞に奥行を持たせた表現が稀に見られて面白い。

イントロとサビはともにマイナーコードCmで始まるのにも関わらず全く暗い印象はなく、むしろキラキラしたサウンドが曲全体に満遍なく振りかけられている光り輝いているような明るい音色のアレンジが聴いていて心地良い。

噛んでたガムを金網につけ向こうの景色見れなくしたよ



M11:10月のプールに飛び込んだ

作詞:秋元康
作曲:BASEMINT
ローソン『欅坂46×ローソンスピードくじ』キャンペーンソング
イオンカード『あなたらしさ・その先へ』篇CMソング
メチャカリ『Color Bomb』篇CMソング
初CD音源化(2020.10.7)Key=A♯

新曲。2019年末に発売されるはずだった幻の9thシングル表題曲。非シングルにしてローソン、イオンカード、メチャカリと大手3企業のcmタイアップをとるという異例の快挙を成し遂げた。昨年下半期はこれらのcmがテレビから流れていたこともあり、お茶の間では比較的浸透している曲であろう。2020.9.15放送のラジオ番組「レコメン!(文化放送)」で本ベストアルバム発売に先駆けてフル音源が解禁された。映画「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46」では今作のMV収録シーンが収められている。本楽曲のセンターポジションに抜擢された平手友梨奈は「自分にはこの曲が表現できない」という理由からMV撮影現場に姿を現すことがなく、撮影時期の台風接近など天候条件の悪化なども考慮し作成されることなく結果的に発売が延期、中止となる。そんなお蔵入りとなったMVの舞台は異国感漂う海岸と草原の丘。ちょうど今から1年前の時期、2019年秋に撮影された。まるでピクニックのように野外にテーブルやイス、皿が置かれていてメンバーは各自花束を手に持ち、特徴のあるスーツや制服を着ていた。丘の上に無数に立てられた支柱にはパーティー会場や運動会でよく見かける三角形の旗が吊るされていた。ほんの一瞬であるが映画トレイラーで撮影リハーサルのワンシーンを観ることができる。

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https://youtu.be/2d0aREJwL7A

また、2020.9.19に投稿されたキャプテン菅井友香のブログにもこの撮影のオフショットと思しき1枚が確認出来る。彼女は本楽曲の"自由になることを躊躇うな"というメッセージ性を自らが表現すべく、実際に当時髪をショートカットにしていた(日経エンタテイメント2020年11月号本人談)。

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https://www.keyakizaka46.com/s/k46o/diary/detail/35640?ima=0000&cd=member

ダンスは比較的穏やかな曲調とは対照的にかなり激しめ。撮影に参加しなかった平手友梨奈以外のメンバーだけで撮り終えた、なんて噂もあるので完成版がいつか表に出てくる機会があればぜひ観てみたい。

楽曲自体はもう欅坂46の最高傑作なんじゃないかってくらい素晴らしい。もう本当に素晴らしい。この曲を聴くために自分は今まで欅坂を応援してきた、と言っても過言ではないくらいの名曲。なんと言っても美しすぎるピアノの音色とメロディー。暴力的な美メロの透明感。イントロは綺麗なピアノの音色から始まり、次第に豪勢なストリングスが絡み始め壮麗さを増してゆく。Aメロはエレキギターのアルペジオから構成されるカノンコード風のゆったりとした展開にうっとりするし、BメロはⅣ→Ⅴ→Ⅰ(D♯→F→A♯)の3コードで安定させ、しっかりと落ち着つかせる。サビはいきなりトニックⅠでガツンとぶつけに行くんじゃなくてあえて穏やかなサブドミナントⅣ(D♯M7)の響きで柔らかくアプローチ。しかもここで聴くべきポイントなのはサビの出だしが"ターンタータ・ターンタータ"のリズム(通称・ミスチル譜割 by杉山勝彦談)になっていること。このリズムに乗せて、あまりガンガン行かない柔らかなサブドミナントⅣの和音をサビの頭に持ってくることで何が起こるかというと、非常にキャッチ―で耳に残りやすい旋律と化すのである。実際にMr.Childrenのシングル曲「innocent world」「Any」でも全く同じ手法が活用されており、常にリスナーを聴き飽きさせることなく加速感を維持しつつスムーズに旋律を紡ぐことができる。

この曲の歌詞の凄いところは、3rdシングル「二人セゾン」で"移り変わる春夏秋冬の景色の美しさ"や"共に過ごした季節の中で感じた人生観"を歌っていたのに対し、"季節なんか関係ないのが僕の生き方だ"と言い切っちゃっているところ。4年の月日を経てある意味成長を遂げた主人公"僕"のスタンスに非常に感動してしまった。また、以前までの楽曲は組織の中で浮いた存在で孤独を選んだり、"僕"にとっての邪魔者は排除したり、目の前の悩みをガラスに見立てそれらを破壊していくなど、多くの強気な過激派反抗行動が描かれてきた。しかし今作はただ"寒い10月のプールに飛び込み水飛沫を上げる"だけなのだ。とにかく"自由"を強く主張し"周囲の環境に合わせない自分の行動を肯定"している。今までとは若干角度を変えた欅坂的アゲインスト精神が垣間見える一曲となっている。曲をどこで切り取っても全部聴きどころ。

運営側は8thシングル「黒い羊」までのダーク路線を払拭し、本作9thからポップス路線に転向しようと試みたがそれは叶うことなく1期生の多数の卒業が絡みグループの勢いは減衰、崩壊に向かっていくことになる。この楽曲が9枚目シングルとして発売される世界線を見てみたかった…


最後にもう一度言いますが、この歌は紛れもない神曲であり最高傑作です。

季節なんて関係ないのが僕の生き方だ



M12:砂塵

作詞:秋元康
作曲:TAKU TANAKA、LINDY
ヤクルト『Tough-Man Refresh(タフマン リフレッシュ)』CMソング
初CD音源化(2020.10.7)Key=C

新曲。幻の9thシングル「10月のプールに飛び込んだ」のカップリング曲とされる。歌唱メンバーは石森虹花と新2期生以外の全員が参加。2020.9.20放送の欅坂46レギュラーラジオ番組「欅坂46こちら有楽町星空放送局(ニッポン放送)」で本ベストアルバム発売に先駆けてフル音源が解禁された。2019年の夏にテレビでヤクルト『タフマンリフレッシュ』のcmソングとして流れまくっていた本曲がついに1年以上の月日を経てようやくフル音源CD化。ファンの中では前曲「10月のプールに飛び込んだ」と共に、お蔵入り?いつになったら音源解禁されるんだ?などと幻の楽曲として語られていた。

昨年夏には大学の同級生とタフマンリフレッシュ巡りと称してヤクルトの自動販売機を炎天下の中自転車を漕いで探し回ったなんて思い出が残っている。

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自分が探索した限りだと、札幌市内にはJR札幌駅構内にしかないことが分かった。

このcmバージョン、聴いて分かる通り本作に収められたオリジナル音源とキーとアレンジが全く異なる。cmバージョンではキーがAだったがCに上がり、荒々しくクールでロックなテイストだった雰囲気はバラード調に変化し妖艶でフワッとしたアレンジに変更されている。キーが3つも違うともはや違う曲である。"砂塵"というよりかはまるで櫻坂の開幕を予感させる"花吹雪"ともいうべき雰囲気。Twitter内では「あのcmの砂塵が良かった」「予想していたのと全く違う」などと否定的な意見も見られた。もちろん昨年cmで使用された音源が今後日の目を浴びる機会があるならばそれに越したことはないが、個人的には本作に収録されたこちらの音源の方が好みである。

Aメロでのエレキギターをかき鳴らした音に単調なメロディーを乗せる歌い方は"いつまでうだうだしてるんだ~どうすべきは知ってるんだ~"と歌ってしまいたいほどMr.Childrenの「靴ひも」とリズムが似ている。ノリノリになれる四つ打ちのリズムとクリアなエレキギターの音に時々打ち込みのデジタルサウンドが絡み合い、爽やかなロックバンド的なサウンドに仕上がっている。"もっと君を知りたいと思うきっかけは恋だったのか?"や、"君をずっと思い続ける"、"初めて話した君の遠くのイメージと違った気さくなその微笑みに勝手に惹かれたんだ"などのフレーズに代表されるように、この楽曲の本質はラブソングである。落ち着かない心・曖昧な気持ち=砂塵と表現していると解釈できる。ただひたすら"君"を待ち続け、想い続ける"僕"の姿勢が見られる。このように不器用な主人公が他者に恋心を抱き、"君"を必要とする"僕"の気持ちの変化・成長が見られるパターンとして、乃木坂46の「君の名は希望」に通じるものを感じる。

また180°見方を変え、新たに櫻坂46として再スタートを切るこのグループ自身を歌った楽曲であるという解釈もできる。「砂塵だけが舞っていた、今までの蜃気楼=これまでの欅坂46としての活動」であり、「今目の前にいる君となら本当に始まりそうだ、未来の向こう側、あっちへ歩いていきたい=新グループとしての希望に満ち溢れた再始動」である。"君と僕"を描いた純粋なラブソングであり、現在の欅坂から届けるファンに対する歌だという2つの見方ができるのが面白い。

余談ではあるが、2015年5月29日にMr.Childrenの「REFLECTION」のプロモーションcmが公式YouTubeチャンネルにアップされたときに、以前ライブで披露されていた楽曲「幻聴」について、そのアレンジがとてもロックで新しいMr.Childrenを予感させるものとして語られていたのに対し「あれ、幻聴ってこんな感じだったっけ?」「幻聴打ち込みサウンド多め?」などと多くのファンが呟いていたのを思い出す。

楽曲のアレンジというものはその歌の表情を決定付ける大切な要素であるが、メロディーと歌詞が申し分ないクオリティであればある程度多方に受け入れられるものだと認識した。

砂塵だけが舞ってたけど 漸く止んだよ



M13:コンセントレーション

作詞:秋元康
作曲:?
初CD音源化(2020.10.7)Key=C♯

未発表新曲。幻の9thシングル「10月のプールに飛び込んだ」のカップリング(アンダー)曲とされる。歌唱メンバーは9thシングル非選抜の石森虹花・尾関梨香・小池美波・齋藤冬優花・長沢菜々香・松平璃子・山﨑天の7人。2020.9.27放送の欅坂46レギュラーラジオ番組「欅坂46こちら有楽町星空放送局(ニッポン放送)」で本ベストアルバム発売に先駆けてフル音源が解禁された。タイトルの「コンセントレーション(concentration)」とは、"集中力"という意味。軽快なリズムに乗せて英詩が多く使用されていることが特徴。メンバー最年少の山﨑天は本楽曲収録時にボイストレーニングの先生から英語の発音が上手いと褒められたらしい(こち星2020.9.27小池美波談)。

コンセントレーション 愛は集中力のことだ



おまけ(Type-Bの新曲2曲について)

Type-B DISC2

12.カレイドスコープ

作詞:秋元康
作曲:?
初CD音源化(2020.10.7)Key=D

未発表新曲。2020.9.22放送のラジオ番組「レコメン!(文化放送)」で本ベストアルバム発売に先駆けてフル音源が解禁された。歌唱メンバーは上村莉菜・原田葵・井上梨名・武元唯衣・藤吉夏鈴・森田ひかるの6人。見えないもの、遠くにあるもの、手につかめないもの、移り変わる人間の心情を"カレイドスコープ"に喩えて描いた失恋ソング。タイトルの意味は"万華鏡"。まさに万華鏡のようにキラキラ輝き、「バスルームトラベル」を彷彿とさせるフワフワした音色が心地よい。クリスマスシーズンにも似合いそう。"カレイドスコープ~"のフレーズはレレミレミファ♯ミレ~と3音内に収まっており、非常にキャッチ―なメロディーである。ガラスを割れ!や不協和音のようなダークな曲もできる一方でこういうTHE・アイドル的な可愛らしい曲も歌えるのが他のグループには無い欅坂の武器。曲調はレトロな雰囲気で90年代J-POP感も漂う。

人の気持ちはいつもカレイドスコープ



13.Deadline

作詞:秋元康
作曲:?
初CD音源化(2020.10.7)Key=G♯

未発表新曲。2020.9.29放送のラジオ番組「レコメン!(文化放送)」で本ベストアルバム発売に先駆けてフル音源が解禁された。タイトルのdeadlineは"締め切り"とか"最終期限"という意味。歌唱メンバーは菅井友香・守屋茜・渡邉理佐・田村保乃・松田里奈の5人。ユニット「青空とMARRY」のM=志田愛佳が卒業して新たに田村保乃=Hが加入したので、いうなれば今回のユニット名は「青空とHARRY」というのが相応しいかも。事実上欅坂46最後の楽曲といってもいいかもしれない。「時には休もうか、それからまた立ち上がれ、絶対立ち止まらない」などのフレーズからは、"キャラバンは休止することもある(グループは活動休止する)が、それでも形を変え(改名し)前に前に進んでいくんだぞと決意表明が見られ、希望を感じる歌詞が好印象。イントロから坂道グループのトレードマークである三角形を刻んでいるかのような三拍子のワルツのリズムに乗せG♯→C♯の繰り返しのコード進行が鳴らされるのが本楽曲の顔。まるで荒野を切り拓いていく勇敢な戦士達を描いたRPGのBGMにも聴こえる。今までJ-POPではあまり聴いたことのない完全新感覚のポップで明るい曲調

キャラバンに終わりはない



最後に

本記事を執筆するにあたり、先月半ばから欅坂46の歴代楽曲達を何度も聴き返してコードを確認したり歌詞カードを読み漁ったりして復習した。本当に素晴らしい名曲ばかりだなと再認識した。自分自身欅坂46の楽曲に助けられたことが何度もあったし、"歌詞に共感する"という点ではこの世の中に存在する全歌手、全アーティストの中ではトップクラス。これほど自分の気持ちを代弁してくれる音楽はないし、今後も現れないと思っている。本格的にこのグループのファンになって3年弱だけど、青春を共に過ごしたと言っても過言ではない大好きな人たち、音楽たち。櫻坂46にグループ名を改名しても第一にメンバーが皆幸せであって欲しいなと願っているし、また多くの人に響く楽曲とパフォーマンスに期待したい。

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櫻坂の未来に幸あれ!



出典(写真を使用させていただいたサイト)












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