カバーで多くを語るのは野暮。すべての人に送るデザインの本だから。 #勝てるデザイン 座談会
どうも! デザイナーの前田高志です。3月17日(水)、僕の初めての著書『勝てるデザイン』(幻冬舎)が発売されるまで、いよいよ1週間を切りました。
今回は、その出版を記念した座談会の第3弾をお届けします。今回のテーマは「装丁」。本のデザインについてです。
装丁を担当してくれたのは、 『メモの魔力』や『お金2.0』といった数々のベストセラーの装丁を手がけた、戸倉巌さんです。僕の直談判に応えて、今回引き受けてくれました。
先に言っちゃうと、この記事は『勝てるデザイン』のカバーの話だけしているんですけど、それだけめちゃくちゃ内容が濃い。ここまで一冊の本のカバーについてだけ語っている記事って、ないんじゃないかな?
デザイナー必見! 本が好きな人も、そうでもない人も……まぁ結局、すべての人に読んでほしい! この記事を読んだら、本の表紙を見る目が変わる。本屋に行って、表紙を見ることさえ楽しくなるはず。A5判(210×148mm)1ページに秘められた思いを語り尽くす座談会の始まりです。
【全4回に分けてお届けします】
1.「語れるテーマなんてない」と思っていた僕が、本を出版するまで。
2.タイトルは、本の印籠。見つけた答えは著者の中に。
3.カバーで多くを語るのは野暮。すべての人に送るデザインの本だから。
4.誰がデザインを語ってもいい。デザインはみんなのもの 。
オーダーの瞬間に「勝てる」と直感しました
前田:改めて見てもこの表紙、ホントすごいです。タイトルが“ドン”、著者名が“ドン”。戸倉さん、さすがだなぁと思いました。どうやってここに着地したんですか?
前田高志
株式会社NASU、『勝てるデザイン』著者
戸倉:どうやってと言われても難しいなぁ(笑)。今回は、最初に聞いたときから、これしかないと思ってたんだよね。
戸倉巌
トサカデザイン、『勝てるデザイン』装丁
片野:ほぼ初校から変わってないですからね。僕は今回、装丁をお願いするなら戸倉さんが合うだろうと、前田さんにも推薦させてもらいました。ただ、デザイナーさんが著者だと、自分で装丁をやりたいという方もいるので、前田さんには意向を確認しました。
片野貴司
株式会社幻冬舎、『勝てるデザイン』編集
前田:そうでしたね。やりたくない、とまでは思わなかったです。でも、自分のことは自分で見えにくいし、僕のことを客観的に見てもらった方が良いものになるだろうなって。戸倉さんを推薦された瞬間、「キタ!」って思いました。実は、自分の著書の装丁をお願いするなら絶対に戸倉さんにお願いしたいと前々から思っていたんです。
浜田:装丁は、戸倉さんにお願いできたらいなと我々の中で話があったタイミングで、戸倉さんには「前田デザイン室(主宰するクリエイターコミュニティ)」の定例会のゲストにも来ていただきました。
浜田綾
株式会社NASU
『勝てるデザイン』編集協力
前田:そうそう! 去年の3月ね。仕事でご一緒したことはあったから、そのご縁で「ゲストお願いします!」って頼んで。定例会の中で直談判したら断りにくいだろう、っていう作戦でした(笑)。
戸倉:そうだったんだ(笑)。そんな作戦がなくても喜んで受けましたよ。
片野:確約をいただいたので、スムーズに依頼ができました(笑)。戸倉さんには、本のタイトルが決まったタイミングで、依頼内容をまとめたメモを送りました。まだ帯の文章は仮案の状態でしたけどね。
コンセプトは「シンプル×インパクト」。この本は、良い意味で雑多で楽しさがある本なので、装丁はシンプルに、でもインパクトがある。“王道”のデザインにしてほしいとお願いしました。写真を使うとしても、著者の写真くらいかなと思って、サンプルイメージも添付しました。
(戸倉さんへのオーダーのメモ)
前田:このメモ、初めて見ました。こんなふうにオーダーしてくれていたんですね。
戸倉:うん。メモを見た瞬間に「イケる」「勝てる」と直感しました(笑)。送ってもらったサンプルイメージが、アートディレクターの江島任さんの著書『手をつかえ』でね。あの本をデザインしたのは、僕の師匠の師匠。ちなみに、江島さんも僕の師匠の師匠の師匠で、要は「ひいおじいちゃん」にあたるんです。本の狙い、装丁のコンセプトは、まさに僕の得意分野だなと思いました。
前田:帯を除くと、カバーにはタイトルと著者名しかない。タイトルはともかく、僕が言うのもなんですけど、著者名はパッと見ても「これ、誰?」って思う人がほとんどじゃないかっていう(笑)。
戸倉:まぁそれでいいと思ったんだよね。僕がメモを受け取って、まず決めたのが、カバーは文字だけで組むこと。前田さんの名前も大きくしようと。何でかって言うと、それくらい堂々としている方が、メッセージが伝わると思ったから。名前がはっきり出ている方が、「この著者がこのタイトルのメッセージを伝えようとしている」ことがはっきり打ち出せるんですよね。
前田:はぁ、なるほど……。
戸倉:『勝てるデザイン』って、言葉としてはちょっと抽象的じゃないですか。ともすると、漠然としたテーマのビジネス書に受け止められてしまうかもしれない。でも、著者名をタイトルと同じくらいデカく打ち出していると、「この著者のパーソナルな考えが覗ける本」という印象が強くなって、一気にエッジが効いてくる。知名度なんて関係なく、これまで前田さんのしてきた仕事を考えれば、「前田高志」の名前は堂々と出していい。きっと前田さんもビビらないだろうと思いました(笑)。
前田:そう言ってもらえて、嬉しいです。正直に言うと、最初に見たときは「おぉ、名前デカっ!」とは思いました(笑)。
一同:(笑)。
前田:でも、今となってはこれ以外あり得ないです。客観的な目線で、この本にとって最高のデザインをしてもらったと確信しています。
デザイナーがピンとくる仕掛け
片野:戸倉さんから最初にいただいた案は、実は2案ありました。文字の色が違ったんです。一つが紺、もう一つが黒の案でした。
戸倉:うん、カラーバリエーションとしてはこの2案しか選択肢になかったです。
(最初の装丁案)
片野:個人的には、初見のときから紺の案かなって思いました。僕は昔剣道やっていたんですけど、有段者が立っている姿の凄み、あの凛とした強さを感じたんですよね。白も映えて見えました。
戸倉:黒案でも成立はするんですけど、ちょっと印象が強すぎる気はしていました。紺色は、誠実さを感じられますし、青系の色は前向きなイメージもあるので、この本にもマッチすると思いました。最終的には、より清々しい青になりましたね。
(最終案は右の清々しい青みがかった紺に。)
戸倉:あとは、デザインがシンプルすぎても、前田さんらしくないかなと思って、ちょっと加工を施しました。
前田:タイトルと著者名に凹みがある、デボス加工を施したんですよね。このさりげない加工がめちゃくちゃ好みです。
(凹状のデボス加工)
戸倉:少し大きめの本ですし、自分が買う立場だったときに、どういう仕掛けがあったら手を伸ばしちゃうだろうっていう視点でも考えました。前田さんらしさを全面に出そうとすると、「面白さ」がキーワードとしては浮かぶので、クラフト紙とかも選択肢としてはアリなんです。ただ、そうなるとマニアックすぎて、この本の趣旨に沿わない。色々考えた結果、デボスがちょうどいいという結論に至りました。
片野:実は、最初の色校正のときは、手違いで凹みが逆に凸になって、エンボスで出てきちゃったんですよね(苦笑)。
(凸状のエンボス加工)
戸倉:そうそう。エンボスも実際に触ってみると悪くはないかなとは思ったんですけど。
(ピンポーン)
戸倉:あっ、ちょっとすみません。たぶん、ちょうど再色校が届いたっぽいです。
一同:(笑)。
片野:僕のところには、さっき届いたんですけど、昔、書店員だったせいか、ちょっと気にしちゃうことがあって。エンボスだと凸状になっているところをお子さんが面白がってカリカリひっかいちゃうので、汚れやすいんですよね。
前田:えっ、そうなんですか? ちなみに、デザイナーも加工があれば絶対触りますよ。
戸倉:ですよね。僕も今、早速触っちゃいました(笑)。
前田:(笑)。
やっぱりデボスの方が良くないですか?
戸倉:うん、そうですね。今デボスも触ってみて、エンボスは主張が強すぎたなって感じがしました。デボスならデザイナーが触ったときに「ちょっと気が利いてるな」って思ってもらえる気がします。
浜田:そうそう、デザイナーの方に向けた仕掛けと言えば、カバーを外して、表紙もぜひ見ていただきたいですよね。
前田:これは絶対見てほしい! 僕のこだわりです。
浜田:前田さんが、これまで描いたラフスケッチが載っているんですよね。
前田:そう。僕はずっと入れたいと言っていて、片野さんの了承も得て、戸倉さんにもお願いしたんですけど。率直にこのアイデアをどう思いました?
戸倉:前田さんがずっと「やりたい!」と言っていたので、絶対入れたいんだろうなとは察していました(笑)。
いや、僕も面白いアイデアだと思いましたよ。前田さんの本だからできることだなって。それに、手書きのラフスケッチを見たいデザイナーも多いはずなんですよね。
前田:それ、めちゃくちゃわかります。食い入るように見ちゃう。デザイナーあるあるですよね。
戸倉:インターネットがない時代は、デザインの専門書で見るしかなかったんですよ。名だたるデザイナーの小さなラフスケッチをじーっと見て、「これ、どうやって色指定しているのかな?」とか想像して。
戸倉:だから、デザイナーにとって、ラフスケッチはお宝なんです。本の装丁としても可愛らしいし、前田さんらしさも引き立ちます。王道を行くカバーのデザインと、デボスや表紙のラフスケッチがうまくマッチして、ビジネス書でありながら、デザイナーが手にとってもピンと来る装丁にできたんじゃないかと思います。
メジャー感の正体
前田:もし僕が自分で装丁していたら、きっと変に恥ずかしがって、デザイン書っぽくしちゃったと思います。
戸倉:片野さんがタイトルを決めるうえで悩ましかったと言っていましたけど、「デザイン」という言葉はくせ者なんですよ。タイトルについているだけで、デザインの専門書に寄った印象になってしまう。
そうなるとデザイナー界隈の人にしか読まれない。もっともデザイン書のほとんどが、デザイナーをターゲットにしているから、読み手を意識するならその装丁は正解なんです。でも、『勝てるデザイン』はそうじゃない。確かにデザインの本ではあるけど、デザイナー以外の人もターゲットにした本ですよね。
片野:はい。最初に戸倉さんに依頼したメモで「王道」のデザインをお願いしたのは、まさにそういう理由からです。
戸倉:『勝てるデザイン』というタイトルから、デザインの本だと言い切っているし、中面でもデザインのことはたくさん語られている。読めば意図は伝わるから、カバーまで何かデザインして主張するのは野暮だ
と思いました。
前田:はぁ〜、なるほど。戸倉さんのデザインって不思議な力があるんですよね。マニアックになりそうなテーマも、戸倉さんの手に掛かると、きちんとマスにウケる、“メジャー感”があるデザインになるんです。どうやったらそのメジャー感が出せるんだろうって。
戸倉:ちょっと話が飛んじゃうんだけど、僕、パートナーに「あなたの好きなお店って、OLさんが好きそうなお店ですよね」と言われるんですよ。
前田:(笑)。
それどういうことですか?
戸倉:OLさんって流行に敏感なイメージがあるじゃないですか。つまり、僕は、デザイナー目線というより、いち生活者として流行に反応しているタイプなんだと思うんです。
その時代時代でマスの流行がありますよね。僕は、それを察知する感覚を大事にしています。だから、自分の経験則をもとにした感覚に従うと、そんなに間違いはないというか。ちょっと強気に思われるかもしれないけど、「自分はこう思うので、一般的にもこういう印象を持ってもらえるんじゃないでしょうか」っていうデザインの提案をさせてもらっています。
前田:いわば戸倉さんが培ってきている感覚こそが、メジャー感の正体なんですね。
戸倉:そうかもしれないです。もちろん、最後は編集者がその本の性格や売り方に合わせて決めるので、フィードバックを受けたら柔軟に対応しますよ。今回もダメなら考え直そうとは思っていたものの、最初に提案した案が、僕はベストだと確信していました。だから、自分の感性に従った今回のデザインがハマったのは素直に嬉しかったですね。
前田:タイトルもカバーも、絶対に自分では思いつかなかったのは間違いないです。これが間もなく書店に並ぶと思うと緊張もありますけど、めちゃくちゃ楽しみです。
僕にとって、本を出すのは念願である一方で、新しいスタートラインでもあります。たくさんの人にこの本を読んでもらった先に、デザインというものがもっと身近な存在になってほしいと思っているんです。
(続く)
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