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#112 『君はそれ、自分で確かめたんか?』

本日は、WOWOW相談役の佐久間曻二さんの「松下幸之助さんから学んだこと」についてのお話です。佐久間さんは、WOWOWの代表として、当時債務超過状態にあった会社を再建したことで有名です。また、WOWOWの代表をする以前は、松下電器(現パナソニック)で経営企画室長、取締役、副社長を務めてきた方であります。

松下といえば、創業者である松下幸之助さんがまず思い浮かぶかと思います。今回のお話は、佐久間さんが松下時代に、幸之助さんとのやりとりで学んだことについて語られています。

「君はそれ、自分で確かめたんか?」松下さんが佐久間さんに問いかけた言葉から、松下さんは現場を大事にする経営者であることがわかります。また、佐久間さんの物怖じしない仕事に対する姿勢や自信が伝わりました。自分がすべきこと、やるべきことが何かを理解した上で、信念や目的を持って行動することの重要性を感じることができました。

"ある時、松下幸之助さんが新聞広告に出ていた某ミシン会社の貸借対照表を見て、現金を非常に多く保有していることに驚かれ、その理由を調べるように指示がありました。調査をしたところ、その会社では、消費者が購入したいミシンを積み立てで販売する「予約販売制度」を取っていたことが分かりました。私はその報告書を上司に渡して用件を済ませたつもりでいましたが、幸之助さんは私に直接説明に来るように言われました。"
"幸之助さんはその予約制度を松下でもやりたいと考えておられていましたが、私は一通りの報告をした後で「やるべきではありません」と結論を述べました。幸之助さんはじっと話を聞いておられましたが「君はそれ、自分で確かめたんか?」と言われました。つまり、調査会社にやらせたのではなく、自分の目と耳と足で確かめたのかと。"
"私が「全部自分で確認しております」と答えたところ、「そうか、それは結構や。ところで君、そのミシン会社は一流やろ。その一流会社がやってることを、うちがやったらなぜあかんのや」とおっしゃいました。私は「一流会社がやっているからいいとというのではありません。この制度を採用することが一流会社として本当にふさわしいものかどうかで判断してください」と述べました。すると幸之助さんは「よし、分かった。やめとこう」と即断されたのです。"
"驚いたのはこちらです。普通なら「後は我われで預かるから」というふうになるものでしょう。幸之助さんがそうでなかったのは、実際に現場で見てきた者に対する信頼と、もう一つは経営者としての「勘」ではないかと思います。"
"その予約制度は顧客との契約を巡るトラブルが多く、新聞沙汰になっていたことがよくありました。松下としては消費者に対して少しでもご迷惑を掛けるようなことはやるべきではないし、ミシンの普及が進んで価格が下がればその制度自体が成り立たなくなる。長い目で見れば決してよい制度ではないということを感じられ、さっと決断を下されたのでしょう。"
"私が自分で現場を歩き、自分で確かめて結論を出したのが、信用を得る根拠になったということです。現場には宝物が落ちているといわれますが、絶えず現場を確かめることの大切さをこの時、身をもって知りました。"
"また当時から私の根本にあったのは、社長や上司を間違わせなくない、会社として正しい判断をしていただきたいという思いでした。自分が提言することは会社にとって正しい、と自信を持って言えるかどうか。それでなければ本当の意味で仕事をしているとは言えないでしょう。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/04/22 『君はそれ、自分で確かめたんか?』
佐久間曻二 WOWOW相談役
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※Image by succo from Pixabay