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旅と酒場と男と女 ~福岡の屋台ですれ違い~

福岡は本当に美味いものが多い。
「ラーメン」に「博多うどん」、「もつ鍋」に「水炊き」。
「鉄鍋餃子」に「皮焼き」、「明太子」、「胡麻さば」。
福岡の大好物を挙げればキリがない。

そして忘れてはならない「屋台グルメ」。
博多名物の「屋台グルメ」は、福岡に行ったらやっぱり経験しておきたい。
大通りに複数の屋台が集まっている様は、博多ならではの光景だ。


俺たちが酒場で一杯呑って帰るように、博多の人たちはみんな屋台で一杯呑って帰るもんだと思っていた。
だからこそ、初めて福岡を訪れたときの夜に中洲の屋台を訪れて驚いた。
日本人客がほとんどいなかったのだ。

一軒目で話をしたのは、台湾から来たというチンさん。
二軒目で乾杯したのは、中国から来たリンさん。
三軒目は韓国のジアンさん。

お店の方以外、日本人と出会うことがない。
もう何年も前から、中洲の屋台は観光地化して、訪れる人の9割ぐらいは外国人らしい。
この状況を否定するつもりはない。これはこれでいいんだよ。
普段交わることのない方々と、こうして肩を寄せあい飲むチャンスはなかなかないもんだし。
ただ、現地の人たちと屋台で語らうことを想像していた俺としては、なんとも言えない気分だったのは確かだ。


この日は屋台で呑ると決めていた。
でも、俺の求める屋台と巡りあうには中洲からは離れる必要があるらしい。
そう決めてから、当てもなく歩いた。

そして、とある交差点付近で行列のできる屋台と出会った。
平日の夜にこれだけ行列ができるのは、普通の屋台じゃないはずだ。
列の最後尾に並んでいる方に話しかけると地元の方だった。仕事帰りに同僚とよく来ているらしい。
これだ。
俺は列の最後尾に並ぶ。

その屋台には次々と人が吸い込まれていき、次々と満足げな顔をした人たちが出てくる。
回転のいい屋台らしい。
であれば、俺も長居はできない。
「瓶ビール」は飲むとして、肴はどうしようか?
目から入ってくる情報を頼りに、そんなイメージトレーニングを始める。
後ろに並んだ若者も地元の人だった。
やっぱりここは当たりだ!


ついに俺の順番が巡ってきた。
丸イスに腰掛け、目の前には冷蔵のショーケース。
屋台の中では大将が忙しそうに動いている。


「瓶ビールと土手焼きください。それと、めんたい玉子焼きもお願いします!」


俺の30分一本勝負のゴングが鳴り響いた。
まずは目の前に集中することが重要だ。

「どて焼き」は、甘めの味噌味。
「めんたい玉子焼き」は、明太子のピリ辛味をまろやかな玉子が包み込んである。美味い。

周囲のお客さんたちを見てみると「焼きラーメン」が圧倒的に人気なようだ。
郷に入れば郷に従え。
俺も「瓶ビール」と「焼きラーメン」を追加した。


この屋台は本当に回転がいい。
すでに俺が入ったときと半数ぐらいのお客さんが入れ替わっている。
俺はというと、隣で飲んでいた先輩に福岡の酒場事情を教えてもらいつつ酒を酌み交わしていた。

豚骨スープと甘辛ソースの味が特徴的な「焼きラーメン」はビールがすすむ!
最後に「瓶ビール」をもう一本追加しよう。


「お先! お兄ちゃん、博多を楽しんでな!」


いろいろ教えてもらった先輩方が屋台から夜の町へと消えていった。
俺の30分一本勝負も終わりが迫っているようだ。
最後にこの屋台に出会えてよかった。
これでもう福岡の夜に思い残すことはない。

「お会計お願いします。」

俺もそう言って席を立つと、さっきまで先輩方が座っていた席に、胸元が大きく開いた美女2人組が入ってきた。


「ここ、前から着てみたかったんだよねー!」


俺は、喉元まで出かかった「やっぱりもう一杯」という言葉をグッと飲み込んで、美女たちとすれ違うように屋台を出た。

なんだから、福岡の夜をまだまだ終わらせたくない気持ちになってきた。


#創作大賞2024 #エッセイ部門

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