うわー自分が最低だーーー!!ーー秋の月、風の夜(37)
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「もしもし? ……あ、四郎なの? い、いまどこ?」
四郎は、やむなく、新しい番号でスマホを一台、調達したらしい。
せっつくような聞き方で、高橋は四郎にたずねる。よほど早く到着してほしいのだろう。
――京都駅きて、新幹線乗った。松本駅につくのが、夕方の六時四分。
「……晩飯の時間だな。……夕飯、安春さんも一緒に、みんなで食べようか。食べたいもの、ある? あ、枝豆食べたくない?」
話や質問が、次々とかぶさっていく。普段は一問一答で相手のペースを守る高橋だ。自分がどれだけ動揺しているのか、どれほど後ろめたいかを、露呈するようなかぶせかただ。情けない思いが広がっていく。
――え、赤こんにゃくどうすんの。
「そんなに、毎度毎度、赤こんにゃくまみれでいいの? お前。僕はいいけど」
――俺三-四回おんなじもの食べとっても、わりと平気……
「じゃあ、先に何か、聞いとくべき話、ある?」
――いや、行ってから話す。そう緊急のもんはない。
「わかった。……あのさ、あのさ、松本駅に着いたら、一発殴ってくれ……」
――えっうそやん、いややて……
四郎の声が、驚き、沈んでいく。
「……約束どおり一発殴れ、詳しくは後で話す、いったん切る」
――うわー、何があったかわからんまんまは、いやや……
「唇にはキスしてない。けど、どんどん、どんどん、はまっていった。自分でもひどい気分だ。僕は最低の男だ」
――あ、ええと……そうなんか……いや、そうなんかてって返事がおかしいけど……ええと……じゃあ、……とりあえず、切る……
電話は切れた。
高橋は、その場に頭をかかえてうずくまった。
「うわー自分が最低だーーー!!」
奈々瀬が困った顔で、ぽつんとそばに立っていた。
高橋はうずくまったまま、半分涙目で、奈々瀬を見上げた。「どうもすいません、奈々ちゃんほんとにすいません」
「……いえ……」
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