漫才のツッコミとデザイン
私は毎年 M-1 グランプリを楽しみにしています。M-1 グランプリ 2021 では、優勝した「錦鯉」のネタで最後に言った「ライフ・イズ・ビューティフル!」はオチとして衝撃的で強く記憶に残っています。これまでの M-1 グランプリを振り返ってみると M-1 グランプリ 2019 は特に好きで何度も観ていて、特に「かまいたち」の漫才が好きです。最近は「A マッソ」に注目しています。
私は漫才を研究しているわけでも知識を持っているわけでもなく、漫才が好で楽しく観ている程度です。そんな私でも (とくに最近の) 漫才では「ツッコミ」の人が「笑い」を生み出すためにとても大切な役割を持っているな…、と感じています。
ツッコミの役割
なぜ見た漫才をおもしろいと思ったのか、どうして「ツッコミ」が大切だと感じたのか。漫才に限らずどんなことでも普段から「なぜわかったのか、そう思ったのか」が気になって仕方がないので、いくつか論文や書籍を読んで調べてみました。いくつか拝読した論文で、邵 東方氏の論文『漫才の笑いにおける〈ツッコミ〉の美的特性に関する考察』に具体的なツッコミの役割の考察がありました。
論文では M-1 グランプリで演じられた漫才師のやりとりを例にして、ツッコミの役割について解説されています。質の高い「ボケ」の重要さもさることながら、その「ボケ」を活かしたり、観客にその「ボケ」のおもしろさを理解しやすくするのに「ツッコミ」がとても重要な役割を持っているのがわかります。
この「ツッコミの役割」の中で私がとくに気になったのは「情報のリマインダー」という役割です。理由は「既知の情報を想起させ、おかしみを生み出す」という役割から、ユーザの知っていることを活用するという UI デザインに近い考えを読み取ったからです。私自身がよいな、と思う UI から感じる「思いどおりに目的を達成できる (実際はそう思うようにできている)」感情の背景には、知っているものをうまく利用できる感覚があります。漫才の「ツッコミ」も観客の知っているものや、漫才中に知ったものをうまく利用して笑いにつなげる役割があるのだなとわかりました。
また、中田 一志氏の論文『漫才の笑い : エラーと非効率性と非整合性』でも、とても興味深い考察がありました。
論文ではツッコミをどうとらえるかを示す際に、コンピュータと人間のやりとりを例にしています。これを読んだときに、私は漫才のボケとツッコミのやりとりと、ユーザとシテムのやりとりが似ているから気になっていたんだ…。と気付きました。
UI デザインで「ツッコミ (やり直しの指令)」をするシーンはいくつもあると思います。わかりやすいシーンとしては、検索サイトでの結果なし、Empty State (ユーザに表示するデータがない状態) のときの振舞いがあります。
検索サイトの Empty State を観察する
ここまでで解釈した UI デザインとツッコミとの関係を意識しながら、検索サイトの Empty State を観察しました。乱暴ですが、検索サイトで結果のないキーワードで検索する行為を漫才でいう「ボケ」としたときに、各検索サイトはどんな「ツッコミ (やり直しの命令)」をするのでしょうか。
まず、検索サイトを利用するユーザのモチベーション (行動的) ゴールの仮説を立てました。
情報があるという事実も含め、情報を得られる
情報を得て必要な判断ができる
このモチベーションゴールのようになってほしいとイメージするユーザが具体的に取る行動は、検索サイトでユーザ自身が知っている (持っている) キーワードを使って検索する。だと思います。実際に各検索サイトで結果のないキーワードで検索した結果を見てみます。
Google の検索結果では、Google による「やり直し」の実行結果 (コンガボンゴで検索) を示すとともに「入力したキーワードでの結果がなかった」というわかりやすい「ツッコミ (やり直しの指令)」を入れています。ユーザは入力したキーワードが正しかったかどうかを学習できますし、情報を得られますが、その情報は求めていた情報ではない可能性もあります。
Yahoo! Japan
Yahoo! Japan の検索結果では、ユーザが入力したキーワードで結果がなかったかを伝えず、Yahoo! Japan による「やり直し」の実行結果 (コンガボンゴで検索) が表示されています。動画のセクションでは、やり直し前のキーワードでの結果と思いきや「やり直した結果」を示しているのにも注目したいです。
この時点ではまだ「結果は無かった」と明確に示されていないので「ツッコミ」は発生してないように見えます。しかし「コンガボンゴで検索しています」というワードが「あなたの入力したキーワードでは結果がなかったので」を前提とした言葉なので「ツッコミ (やり直しの指令)」とも言えます。Yahoo! Japan では Google と違って、ユーザが入力したキーワードで再検索 (もう一度ボケる?) できます。
ユーザが入力したキーワードで再検索をすると、今度ははっきりと結果はなかったと「ツッコミ (やり直しの指令)」を受けます。同時に前の画面で示していた Yahoo! Japan による「やり直しの提案 (コンガボンゴ)」も 2 度示されていたり、再検索のヒントといった細やかな「ツッコミ (やり直しの指令)」もあります。
ASK
ASK の検索結果では、ユーザが入力したキーワードで結果がなかった場合、何も結果を出しません。もしかしたら「反応がなかった (スルーされた)」と感じたり「まだ処理中だ」と読み違えてしまいそうです。まさに Empty な状態を表示しているだけなので「結果がなかった」と読み取るのに時間がかかるものの「結果はないので別のキーワードで検索してください」と「ツッコミ (やり直しの指令)」をしているようにも見えます。
まとめながら、自分はいったい何をやっているんだろう…。と疑問を持ってしまいましたが、Empty State も見方によってはとてもおもしろい観察ができるものだな、と思いました。Empty State は、UI Stack での Blank State (空っぽの状態) に相当するものです。私自身も、設計しているアプリやサービスのユーザが持っているゴールに合わせて、ユーザのアクションに対して「やり直しの指令 (エラー)」を返すときどう「ツッコミ」を入れるかといった観点でも考えてみようと思います。
次回は、漫才の「ボケ」に注目して、漫才とデザイナーの役割といった観点でまとめてみたいと思います。
まとめてみました (2022年6月22日 追記)
今回は、隔週で実施しているチームの LT (ライトニングトーク) 会で話した「漫才とデザイン、デザイナーの役割」の一部を記事にしてみました。チームの LT 会では発表者が興味を持っていたり、学んだことについて話しています。
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