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「ファーストペンギになることで生まれる虚像と実像」 <TK×乙武洋匡対談レポート【2】>

複雑心奇形という先天性の心疾患で平均寿命は15歳と言われているTKことミウラタケヒロ。TKは2020年2月16日にその一つの節目となる15歳の誕生日を迎える。そこで、これまでのヒストリーと現在の活動、そして未来への一歩をお伝えする『TKマガジン』を絶賛制作中だ。現在は、クラウドファンディングでその制作資金を募っている。
前回に引き続き、TKが小学生の頃から憧れ続けた乙武洋匡さんとの対談をお届けします!

恋愛は「自信」が9割

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TK:一番気になる話を聞いていいですか? 乙武さんてどうしてモテるんですか? 僕もモテたい!

乙武:俺がモテるかはさておき、まずは、「障害者だからモテないだろう」という固定概念を捨て去ることが必要だと思うんだよね。
 例えば、車椅子に乗った青年が2人いたとする。顔面偏差値や障害の度合いは同じ。Aくんは、「俺、障害があるし、女の子とお付き合いできるとは思えない。万が一彼女ができても、きっといろいろ迷惑をかけちゃうんだろうなぁ。自分は障害者だから恋愛するのは難しい」と思っている。一方のBくんは、「俺はたしかに車椅子に乗っているけれど、それ何か関係あるの? 俺といたら楽しくない?」と思っていたとする。
 あとは好みの問題になってくるんだろうけど、おそらく「Bくんの方がいい」と思う人が圧倒的に多いと思うんだよね。で、僕自身はBくんタイプの人間なんだよね。

TK:なるほど。僕は、Aタイプなのかな。自信がないことはないんだけど、そこまででもないしな……。どちらかというと、僕は障害よりもルックスにコンプレックスがあるのかも。

乙武:モテるって、大きく分けると2種類あると思うんだよね。自分からなんら能動的な働きかけをせずとも比較的多数の人から好意を持ってもらえることを「モテる」ということもあるし、自分が好意を持ったターゲットに果敢にアタックして高確率で振り向かせることができることを「モテる」と表現することもある。僕が大事だと思うのは後者の方なんだよね。

TK:うん、僕も後者がいい。

乙武:そうだよね。大事なのは自分が「好きだな」と思った相手にアプローチをして、好意を持ってもらうようになることだと思うんだよね。
 僕は、前者の意味ではそんなにモテないよ。でも、小学校高学年とか中学校くらいから、自分が好きな人にアプローチをして、好きになってもらうことが大事だと思ってきた。その時に、「あ〜、でも重度の障害者の俺がアプローチするなんて笑われるかな。気持ち悪いと思われるかな」と不安がっていたら、うまくいく確率を下げてしまうよね。

TK:僕は、この顔でどれだけの人に好かれるものなのか、この先どれくらいの確率でどんな人とで出会えるのか。そんなことを考えてしまうんです。

乙武:客観的にタケヒロの顔を見て、すげーイケメンだとも思わないけど、特段ブサイクとも思わないよ。恋愛に障害になるほど、イケてないなんてことはない。
 しかも、顔がどこまでの障壁になるかというとそれも微妙なところで。僕の友達で、まあまあブサイクなやつでも、けっこうモテていたりする。そういう人って、おもしろかったり、その人といると「人生なんとかなりそうだな」と思わせてくれるバイタリティがあったりするんだよね。
 要するに、顔面だろうが、障害だろうが、「俺のこの要素ってイケてないんじゃないか」と自分に自信が持てない部分があると、恋愛においては結構しんどいよね。物理的な問題ではなくて、その心がハードルになると思う。

ありのままでいられるコミュニティを持つ

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乙武:女の子との出会いも気にしているみたいだけど、「“TKとしての活動”を頑張ると出会いが増えるかもしれない」という考えはやめた方がいい。

TK:そこらへんもどうしたらいいのか悩んでいました。

乙武:人から注目していただく存在になると、自分の実像と人が思ってくれている虚像との間にだんだん距離ができてくる。TKの活動を知って「魅力的な人だな」と思ってくれる子が現れたとしても、それは誰もが知っているミウラタケヒロのファンになってくれただけであって、本当のタケヒロのことを好きになってくれているとは限らない。
 そうすると、タケヒロが求めているものとはズレが出てきて、だんだん苦しくなってきてしまうかもしれない。「この子はそういうふうに僕を見ていたのか。僕は彼女の前でも“TK”として振る舞わないと嫌われちゃうのかな」って思っちゃうと、結構しんどくなっちゃう。

TK:あ〜。今、言ってくださったことが、悩んでいたことに全て重なりました。可視化されたというか。

乙武:そっか、よかった。タケヒロは趣味はないの?

TK:体調の問題があるので、基本的にあまり外に出ずに家で過ごしているんですよね。趣味でいうと、オンラインゲームとお笑いが好きです。母の実家が京都なので、祇園花月にお笑いを観に行くこともあります。

乙武:オンラインゲームでも出会いはあるかもしれないし、「お笑いを語る会」を主催してみてコミュニティを作ってもおもしろいんじゃない。そういう趣味の仲間を集めていけば、出会いがあるかもしれない。
 障害とか社会的な活動と切り話して、素のタケヒロでいられるコミュニティを1個持っておくのは、けっこうおすすめかな。

TK:そう! 素でいられるコミュニティがほしいです! 

実像と虚像の苦悩の中から見えた“これから”

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乙武:ビジネスの世界で言えば、ファーストペンギンと呼ばれる人たちがいるよね。僕は、障害者を含めたマイノリティにもそういった存在はある程度は必要なのかなと思っているんだ。 本当はしんどい思いをする人が出てくる前に、社会的な制度、物理的な環境が整っていくことが望ましいんだけれど、なかなか先回りしてそうした想定も整備もなされていかない。そうした現実の中では、ファーストペンギン的に批判の矢面に立ちながらも声をあげていく人が必要になってくると思う。

TK:乙武さんはまさにそういう位置付けの方ですよね。

乙武:僕はタケヒロの言葉を借りれば外部障害者だから、タケヒロのような内部障害者がどういう困難を抱えているのか、どういうもどかしさを感じているのか、そこはなかなか代弁していくことはできない。
 そこで大事なのは、タケヒロ自身がどういうスタンスでいくのかということ。内部障害のファーストペンギンが出てくるのを待って、その人を支援していくというポジションでいくのか。自分自身がファーストペンギンとなって、みんなの支援を得ながら、いろいろな声をあげていくのか。
 もしくは全然違うやり方もあるよ。例えば、4〜5人でチームを組んで顔出しをせずにプロジェクト的に声を届けていくとかね。いろいろなやり方がある中で、自分はどこを担っていくのかだと思うんだよね。
 僕自身は、タケヒロの言う通り、今の3つでいうと自分自身がある種のファーストペンギン的な立ち位置でこの20年間活動してきた。それがどれだけしんどいことかもわかっている。だから、タケヒロにも「そうやりなよ」と勧めることはできないんだよね。やりたいと言うなら止めないし、むしろ僕がここまで培ってきた経験を全て伝えていきたい。でも、違う道を進むといっても応援する。
 自分の向き不向きがあるだろうし、自分の体力とか気力とか覚悟とかを冷静に分析しながら、どの立ち位置とどういうアプローチがいいのかをじっくり時間をかけて考えていってほしい。まだ14歳でしょ? 焦る必要なんてないよ。

TK:内部障害のパイオニアになろうかと考えたこともありますが、内部障害といっても心臓だけではないし、範囲は広いんですよね。また逆に、他の障害については語らなくていいのかという気持ちにもなったりして……。結局今は、障害全般に視野を広げていますがそれぞれの立場によって意見や主張の違いもあり、まだ自分がどんな活動をしていきたいのかは決め切れてはいないですね。

乙武:うん。まだ決めなくていいと思うよ。じっくり考えればいい。

TK:自分へ期待をしてくださっている人は増えているような気がしていて、でも、僕はそんな立派な人間なわけではないんです(笑)
 ただ1つやりたいことはあって、1つ学年が下のcharという幼馴染の相方がいるんです。同じ病院で、同じ助産師さんに取り上げてもらって、そこからずっと一緒にいる子です。
 そのcharが僕の誕生日パーティーに「私ウクレレやるから一緒に音楽活動しない?」と誘ってくれました。僕はピアノのデザインが昔から好きでピアノだったら練習してみたいなと思っていたんです。だから、TKとchar で「TcharK(ティーチャー)」というユニットを作って、音楽で発信することにチャレンジしようかなと考えています。音楽だったら地元でできるし、1回シフトチェンジという意味でやってみようかなって。

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乙武
:なるほどね。もしそれをやるなら、「誰かの役に立つことをしなくちゃ」という気負いをなるべく捨てられるといいよね。どうしてもタケヒロが日頃、ネットで見ているのが、キングコングの西野亮廣さんだったり、僕だったりすると、ありがたいことになんとなくそこに憧れを持って、僕らのように活動できたらと思ってしまうかもしれない。その結果、自分がまだ14歳であるということを忘れて、焦りが出てきちゃう可能性がある
 今話してくれたTcharKの活動は、とっても素敵なことだと思うので、「社会的意義が〜」とか難しく考えずに、とにかくタケヒロ自身が楽しんでやってほしい。

TK:本当にそうしたい。歌詞によりけりだけど、お互い楽器を持って、編集しながら楽しみたいなと計画しています。

乙武:楽しみだね!

TK:ありがとうございます! また機会があれば、真面目じゃないお話もさせてください。

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thank you for Hirotada Ototake.

◆乙武さんとTKとの対談ノーカットバージョンは『TKマガジン』にて◆
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