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SDGsの本音と建前

あなたはSDGsをご存知でしょうか。
Sustainable Development Goalsの略で、
持続可能な開発目標と訳されています。

2015年に国連で採択されたもので、もちろん日本も批准しています。

SDGsは17の目標のもとに169のターゲットが具体的に定められ、
それらを2030年までに達成しようというものです。

こういうと、非常にのんびりした目標のようですが、
その実質はそんな甘いものではありません。
なぜなら、それが達成できなければ、人類がこの地球上で存続できない、
という状況になると科学的に明らかになっているからです。

これらは「できれば達成しようね」というものではなく、
「達成しなければならない」ものだと言えます。

今日はそんなSDGsには、
「本音と建前がある」という話をしようと思います。



SDGsの17の目標

1ー貧困をなくそう
2ー飢餓をゼロに
3ーすべての人に健康と福祉を
4ー質の高い教育をみんなに
5ージェンダー平等を実現しよう
6ー安全な水とトイレを世界中に
7ーエネルギーをみんなに そしてクリーンに
8ー働きがいも経済成長も
9ー産業と技術革新の基盤をつくろう
10ー人や国の不平等をなくそう
11ー住み続けられるまちづくりを
12ーつくる責任 つかう責任
13ー気候変動に具体的な対策を
14ー海の豊かさを守ろう
15ー陸の豊かさも守ろう
16ー平和と公正をすべての人に
17ーパートナーシップで目標を達成しよう

こうして見てみると、あることに気付きます。
これらは、大きく2つの種類に分類できるのです。

その片方は、環境に関わること
(7、9、11、12、13、14、15)
もうひとつは、人権に関わること
(1、2、3、4、5、6、8、10、16)
です。

環境と、人権。
どうしてこの二つが抱き合わせなのでしょう。



想像してみてください。

もしもあなたが、とあるビールメーカーに勤めていて、
ある商品のブランドマネージャーだったとします。

そのブランドは歴史はあるものの最近は落ち目で、
次のキャンペーンで売り上げを浮上させることができなかったら、
ブランドごと終了になる。

あなたは、そのキャンペーンを担う責任者だったとします。
そのとき、あなたは何を考え、どんなことをするでしょうか?

おそらく、まず初めにやるのは市場動向の調査と分析ですね。
そして、自社のブランドがなぜ消費者に受け入れられないのか、
その原因を考えるはずです。

世の中にはどんな消費行動の人が、どれくらいいるのか。
そう行動する原因はなんなのか?

原因はひとつではないでしょう。複数あるはずですし、
それらが複合的に絡み合っているはずです。

その原因がある程度特定できたなら、
今度はそれらをいかにして改善するか、という方法を考えます。

その中から今できることはなんなのかを順序立て、
優先順位を決め、有効と思われる手段を実行する。

そういうことをしようとしますね。
当たり前のことだと思います。
課題を解決しようとするとき、誰もがやる「普通のこと」です。



では、思考実験を続けましょう。

もしあなたがビールメーカーではなく、
「人類」という種の存続を任された責任者だったら?

先ほどのように、「普通に」やってみましょう。
さて、どのように人類にまつわる課題を分析するでしょうか?

人類の存続を脅かすものとして、
まず最初に思い浮かぶのは「気候変動」と言われる問題です。

これは簡単に言えば、地球の平均気温が上昇することによって、
人類が地球上で暮らせる環境ではなくなってしまうという問題です。

「気候変動」という課題がなぜ発生しているのかを考えると、
「人間の活動」、厳密に言えば「人間の経済活動」というものが
浮かび上がってきます。

これ以上の環境変化を抑止するには、
人間の経済活動を鈍化させなければならない。

そう考えるはずです。

しかし、世の中を見回してみるとどうでしょう?
まず国によって文明化のレベルがかなりちがっていて、
地球環境に害を与えやすいのは、一部の豊かな国であるという
「不公平」が見えてきます。

一部の人間が地球を破壊しながら豊かな暮らしを謳歌する一方で、
食べるものや飲み水が足りない人々がたくさんいる。

さらに、現代社会をリードしている存在は誰なのか?と言えば、
それは一部の成功したグローバル企業であって、
彼らは「今のやり方の成功者」であるから、
別のやり方への方向転換に協力させるのは
なかなかに困難だと予想されるわけです。

こんな、様々な環境や、思惑を持った人間で溢れかえる世の中に対して、
いったいどうやって経済活動(エネルギー消費活動)の鈍化を同意させ、
実施していけばいいのか。

これがあなたが考えるべきテーマということになります。

地球環境の改善のことだけを考えれば、
やるべきことは簡単です。

いろんな贅沢や便利を捨てさせればいいだけのことです。

しかし人間には感情や、欲望というものがあって、
そんなに都合よく合目的的に行動できないのです。

環境だけを優先して変化を断行すれば、
それによってあぶれてしまった人々が
暴動などの抗議行動を行うことによって、
環境を守る行動さえもが滞るようになるでしょう。

つまり、本音は「環境」が最優先なのだけど、
それをつつがなく実施するためには「誰も取り残さない」という
「人道的な配慮」が必須になる。

だからSDGsは環境と人権の2種類なのでしょう。

もっと言えば、この気候変動を産んだ原動力は
お金(資本主義)と人の心(欲望)の相乗効果なので、
企業活動(経済活動)や資本主義そのものを鈍化させる必要がある。

けれど、そんな目標を掲げれば、世界を動かす巨大なピースである
「企業」がそっぽを向いてしまう。

だからこそ8番目という割と早めの段階で
「働きがいも、経済成長も」などと言っておき、
だいぶたって13番目になって初めて「気候変動」が出てくるわけですね。

必要なプレイヤー全員をテーブルにつけるために、
苦肉の策として並んだ言葉たちなのだと、私は思っています。



「SDGsの本音と建前」なんていうと、陰謀論がお好きな方々は
「グリーンエコノミーへの切り替え」という大義名分を掲げて、
企業がさらに新商品を売って儲けるための策略だと思うかも知れませんね。

でも、それは偏狭な見方だと私は思っています。
むしろ逆でしょう。
SDGs的価値観の中で称賛されるものは
概してコストが高く、売りにくく、
消費者にとって受け入れにくいものなのです。

今までと同じことをしていた方が、絶対に「簡単」なのです。

実際は真逆なのだと思います。
SDGsの17の目的をまじまじと見つめていると、
そこに厳然たる「矛盾」がある。

「今まで」の継続の困難さを訴えながら、
誰のことも取り残さないなんて、競争原理を是とする資本主義を
根本から否定してしまっているのですから。

SDGsの本音を言えば、こういうことでしょう。

「気候変動の犯人は資本主義。
今までのお金と人の欲望の掛け合わせによる物理的満足の価値観では、
人類が存続できないので、根本から仕組みを変えよう。
これからはもっと人間性(情緒的満足)に
価値を置いた社会に変えていこう。」

そうできなかったとき、
地球は人間の欲望に食い尽くされて、
人間そのものが生きられない惑星になってしまうのですね。

でも本音だけを言っていたのでは「お花畑」と言われてしまうので、
「経済成長も」という建前の一言を付け加えることで
「技術革新によって、生活の質は落とさずに実現する」という
エクスキューズをつけているわけです。

でも、本当は技術革新でSDGsの目標を達成するのは無理だと、
識者はわかっています。
必要なのは、人間が価値観を変えることしかないと。

けれど誰もがそれに気づくようになるには、
もう少し経済が壊れ、気候システムが壊れ、
災害が頻発しなければならない。

人類が気づくのが先か。
地球が完全に壊れるのが先か。

今はそのせめぎ合いの真っ只中なのでしょう。



SDGsの本音については、今までの生活が染み付いた
40代以降の人ほど冷笑的に見ている傾向が強いと感じています。

冷笑主義は資本主義が生み出した大罪だと思っています。
一人一人が社会をつくっているという主体性を失わせ、
自分の役割は自分が生きるぶんの金を稼ぐことだけだと
勘違いさせてしまう。

そうではなく、冷笑主義の人がたくさんいるから、
今の世の中はSDGsが必要になってしまったのですよね。

私はどう感じているか、というと、
気候変動という問題が目の前に存在している限り、
我々にできることは、それに対処することだけであって、
冷笑している時間はないのではないか?というものです。

なんと言っても、気候変動が単なるでまかせか、
真実なのかは、遠い先の未来ではなく、
我々が生きている間、いや、向こう数年の間には、
はっきりすることなのです。

事態がはっきりしたときに、
「もう今からでは手遅れです」ということにならないように、
今からやれることを全部やる。

それしかないのだと思っています。

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