【小説紹介】恐怖は静寂の底に居る
夏至です。こうも蒸し暑い夏の夜は、身の毛もよだつホラー小説で涼をとりたいものですね。
眞木高倉はどんな本でも読む雑食読書人間ですが、ホラー小説を殆ど読まないまま此処まで来てしまいました。というのも、学生時代の高倉は幽霊が、というか怖い話全般が本当に本当に苦手だったのです。図書館の「怪談レストラン」すら読めない始末でした。
しかし高倉は今やどっぷりと世俗に染まり、「本当に怖いのは生きてる人間だぜ」とニヒルに笑える程度には怪談が平気になりました。これなら真夜中にたったひとりでホラー小説を読んだって大丈夫です。多分。
そんなわけで、今回は眞木高倉が夏の間に読みたいホラー小説を挙げてみます。読んだ、でなく、読みたい、です。感想ではなく希望です。あしからずです。夏の暑さを持て余している各位、もしよかったら一緒に読んで一緒に恐怖で打ち震えてみませんか。
澤村伊智著「ぼぎわんが、来る」
実は、ずっと読みたいと思っていた小説です。というのも、先だってこの本を原作にした映画「来る」を観て、それはそれは嫌な思い(誉め言葉)をしたものですから、映画がこの威力と言うことは原作小説は更にとんでもないんだろうなと期待に胸を膨らませているのです。
映画「来る」では何が来るのか明らかにされませんでしたが、原作では、タイトルから読み取れるように、何が来るのかが割と明らかになる感じなのでしょうか。映画との違いを探しながら観るのも楽しいかもしれません。怖くてそれどころじゃなくなってしまうかもしれませんが……
芦沢央著「火のない所に煙は」
怪談、をテーマにした連作短編集だそうです。怪談がまっさらな創作物語でなく、実際に起こった現象に対する一解釈であるとしたら、それを紐解くというのは推理みたいで楽しい気もしてしまいます。城平京先生の「虚構推理」を連想する切り口ですが、「火のない所に煙は」は主人公の軸足が人間側なので、つまりそういう恐怖があるのではないでしょうか……。怪談なんてものには深入りしない方が、きっといいんですよ。
小野不由美著「残穢」
これも、先だって映画を観ました。バリドチャ怖くて、その日の夜は電気を消せませんでした。怖かったー。小説も怖いに違いありません。
怪現象をもたらす「穢れ」が、そもそもどこから来たのか、元を辿っていく工程はミステリっぽくて面白いです。とはいえ「穢れ」が生まれる経緯なんて絶対凄惨で悲惨に決まっていて、知らずに済むならそれに越したことがないくらいなんじゃないでしょうか……。でも、見ない方がいいって分かっているもの程見たくなっちゃいません? 高倉はついつい覗いちゃう派です。
背筋著「近畿地方のある場所について」
去年あたり、本屋に行くとよく平積みされているのを見かけました。気になるなぁと思いつつ、なんとなく読まないまま一年過ぎてしまいました……。本屋さんのポップによると、伏線回収が見事な一冊とのことで、高倉はそういうの大好きです。大好きですが、「伏線回収が見事」というのはちょっとネタバレなような気もしていて、レビューや前評判で聞くならまだしも、ポップや帯でそういうことを語るのってどうなんだろうと思ってしまいます。ミステリ界隈でたまに見かける「どんでん返しがすごい!」という帯にももやもやしています。
話が逸れました。きっと読みます。
本格的に夏が始まると、きっとテレビでは心霊番組が矢継ぎ早に放送されて、映画館ではホラー映画がスクリーンの半分を占めるようになるのでしょう。巷に背筋も凍るエンタメが溢れる季節です。
これは持論ですが、恐怖は沈黙に宿ります。草木も寝静まる夜半、音を立てるものが時計の針くらいしかない密室、或るのは自分と、無音の活字だけ。この夏は、静かに並ぶ活字からしか得られない沈黙の恐怖で、背筋をバブリーにしてみるのも悪くないのではないでしょうか。
それでは皆様、良きハッピーホラーサマーを!
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