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【デスク環境】人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし

 昨日に引き続き、椅子の話をしたい。

 高倉は昨日、人生初のゲーミングチェアをお迎えした。ゲーミングチェアとはいえレーシングカーの座席のようなスポーティーなデザインのものではなくて、ソファのようなふかふかふこふこのやつだ。

my new chair...

 この椅子を導入することを決めるまでがまた長かった。高倉は守銭奴気質なので、基本的に五千円以上のものの場合は、買うまで悩みに悩みに悩みまくる。椅子に関しては二年悩んだ。
 もともと、高倉の部屋には椅子があった。ニトリで売っていた一万円弱の黒いワークチェア、メッシュ素材で蒸れにくく、リクライニング機能は無いがロッキングはしてくれるという、至極一般的なものだ。実家から連れてきた椅子で、かれこれ五年は座り続けた。
 ワークチェアも快適だった。ロッキングするとぎいぎい音がするようになっても、ガス圧昇降が機能しなくなっても、座面のメッシュ素材が太ももをひっかいて痒くても、座って机に向かうには差し支えない。高倉が椅子を買い替えることがあるとしたら、座面が割れるとか背もたれが砕けるとか、椅子が椅子として機能しなくなった時だろうと思っていた。

 しかし高倉は気付いてしまった。このワークチェアでは腰が休まらないのだということに。
 ワークチェアの背もたれは緩やかな曲線を描いているが、高倉の腰を支えるには少々角度が足りないようで、高倉がワークチェアに座ると、背もたれと高倉の腰の間に埋まらない隙間ができる。深く腰を掛けると今度は膝がうまく収まらない。どう座っても、どこかしらに無理が出る。
 Twitter曰く、腰は体の要であるらしい。人類が立って歩きはじめた時から、腰痛との闘いは始まっている。腰で上半身を支えまっすぐに立ち続けたいのならば、腰をいたわり、正しい姿勢で、腰に負荷をかけない生活を心がけなければならない。
 高倉の腰は酷使され続けていた。ワークチェアに座っている間も、腰は高倉の上半身を支え続けている。これは腰を労わっているとは言えない。そうえいば最近なんだか腰がちょっと痛い気がしてきた。いよいよ腰に限界が来ているのかもしれない。

 当初の高倉は、椅子を買い替えることを考えていなかった。Amazonに答えを探した高倉が出会ったのはクッションだ。ランバーサポートクッションと呼ばれるそれは、椅子の背もたれと背中の間に置いて腰を支えてくれるというものだった。これだ。これをワークチェアに取り付けたら万事解決する。高倉はAmazonにある膨大な品ぞろえの中から「人体工学に則ってつくったよ!」と書いてあるクッションを買った。
 結果は失敗だった。購入後一年程粘ったが、どうやっても失敗という結論にしか行きつかなかった。背もたれと腰の間にクッションを置くということは、そのぶん座面面積が減るということだ。確かに腰は支えられたが、今度は尻の座りが悪い。クッションに押し出される形で、座っていてもずり落ちていくような感覚があった。落ち着かない。
 そもそもワークチェアはワークチェアのまま座ることを想定されていて、その想定に則った設計がなされている。後付けのランバーサポートクッションはこの設計を崩すものだ。相性がいいクッションも存在するのかもしれないが、少なくとも高倉が導入したクッションは駄目だった。ついでにこの時「人体工学に則ってつくったよ!」系の売り文句も信用しないことに決めた。人を座らせるものはすべて言うまでもなく人体工学に則っているべきで、それをわざわざ言うということは他に褒めるべきところが無いということだ。

 高倉に必要なのがランバーサポートだということは変わらない。必要なのは、ランバーサポートが設計段階から組み込まれている椅子である。
 そんなわけで、ニトリのワークチェアを使い続けることを渋々諦めて、ランバーサポートが組み込まれた椅子を探すことにした。探してみると意外と沢山あった。多くはゲーミングチェアだった。
 ゲーミング、またゲーミングだ。先日メカニカルキーボードを探した時もゲーミングキーボードに行き当たった。世の快適なデスク環境はゲーミングでできているのだろうか。ゲーミングチェア、これも七色に光るのだろうかと警戒したが、流石にそんなことは無かった。背もたれから音楽が流れるものがあるくらいだった。そんなことしなくていい。
 ランバーサポートがついたオフィスチェアもあったが、そちらは比較的高額だった。価格を一万円台で抑えつつ、体に負担がかからなさそうな椅子、ゆったり快適に過ごせそうな椅子、ついでにオットマンがついている椅子、と、希望を妥協することなく探し続け、行きついた答えがこの、大きなランバーサポートクッションが組み込まれたふわふわふかふかゲーミングチェアだった。

 大正解だった。永遠に座り続けていられそう。やはりランバーサポートクッションだ、背もたれがあるすべての椅子に実装するべきだろう、ランバーサポートクッション。腰がクッションに支えられて、休まっているのがわかる。筋肉が弛緩している。最高。こんな椅子が欲しかった。
 快適な角度にリクライニングして、オットマンを出して、ひじ掛けに腕を置いて、延々と文字を打つ。身体のどこも無理をしていない。高倉は今、この上なく身体に優しいことをしている。

 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。徳川家康公の言だ。
 荷を負うには腰を使わねばならず、道を行くには足に負荷がかかる。人生が足腰を駆使することならば、せめて椅子に座っている時くらいは足腰を労わってやるべきだろう。有難う、ゲーミングチェア。有難う、ランバーサポートクッション。君たちの支えを借りて、高倉はこの先の人生も真っ直ぐ立って歩いて行くよ。

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