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【推し短歌】渋谷104で待ってる

 クリエイターフェスティバルは「推し短歌」企画に寄せて、推してやまないゲーム「すばらしきこのせかい」の話をします。

全力で今を楽しもうじゃないか 宇田川町の壁グラに猫

生き残りたいなら信じるしかないよ 渋谷104で待ってる

「負けられないんでしょう」なんて綺麗事で君に世界を委ねてごめん

騒音の中に聞こえる愛がある ヘッドホンを外しておやすみ

渋谷から不協和音が消えた先 さすればここはすばらしきせかい

富士山麓の鸚鵡が示すルートは5 お前が俺を殺したんだな

真っ黒いラーメンのような街なのだ バッジを気絶させて押し出せ

散らかった街をリセット 引き金を引けない君に会えてよかった

眠りから覚めてもひとりじゃないよと何度も言うよ ひとりじゃないよ

RPG「すばらしきこのせかい」に寄せて

 流行の発信地、渋谷。
 常に誰かが誰かを待っている忠犬ハチ公像前、人でごった返すスクランブル交差点と、その向こうにそびえたつ渋谷109。田舎暮らしの高倉にとっては、オシャレ人間たちがゴミのように往来する風景は都会の象徴だった。

 そんな都会の原風景で展開される、7日間の死神ゲーム。
 ニンテンドーDS用の傑作RPG「すばらしきこのせかい」は、負ければ消滅という不条理なルールの中で少年少女が生き残りをかけて戦う物語だ。数年前にアニメ化され、ニンテンドーSwitch用ソフト「すばらしきこのせかい FinalRemix」「新すばらしきこのせかい」も発売された。

 高倉は「すばらしきこのせかい」が大好きだ。高倉の青春と呼んでも過言ではない。
 高倉が「すばらしきこのせかい」に出会ったのは丁度アメリカに留学している時だった。米国版ソフトのタイトルは「The World Ends with You」。英題が的を射すぎている。
 主人公は東京都在住、渋谷を生活圏にする少年、桜庭音操。音を操ると書いてネクくんです。もうめっちゃ良い名前ですよね。その名前を象徴するかのような大きなヘッドホンをつけているけれど、これは音楽を聴く用と言うよりは周囲の雑音を遮断する為のものだ。

世界は俺一人だけでいい
自分自身がその全て
他人の価値観なんて意味はない
俺は誰かと分かり合う事なんて、一生、できない

導入、桜庭ネクの台詞

 冒頭、桜庭ネクくんはこう言ってヘッドホンを耳に当て、無音の世界に籠る。この拗らせ少年が死神ゲームを通して、他人の価値観とぶつかり合うことの意味、全力で今を楽しむ方法を学び、雑音に満ちた渋谷を「このままでいい」と言い切るまでに成長する。
 二転三転する物語は勿論最高に面白いのだけれど、それ以上に好きなのはクリア後に紐解かれる「シークレットレポート」だ。桜庭ネクが7日間の死神ゲームに奔走する裏で、実は渋谷の管理者でありゲームの創作者である「コンポーザー」やそのサポーター「天使」があの手この手を回している。シークレットレポートで判明する新たな真実と、複雑な階層構造の物語が美しく収束する様は圧巻だ。
 この構成はRPGゲームでないと達成できない。同じ物語を二周して、同じ場所を巡って、完結まで知った後で考えれば違和感がある発言、現象の謎がレポート形式で明かされる。媒体選びに成功したのか、媒体ありきで物語を組んだのかは分からないが、これだけは断言できる。すばらしきこのせかいはRPGゲームでなければならないのだ。
 なので、残念ながらアニメ「すばらしきこのせかい」にシークレットレポートの全容は描かれていない。この物語はアニメ用でない。しかしアニメはアニメで映像の原典崇拝が凄まじかったので好きです。アニメOPは鳥肌ものでした。

 そしてなんたってキャラクターが全員かっこいい……!下記、アニメ公式サイトのキャラクター紹介ページになります。全員イイので取り敢えず見てください。因みに高倉の推しは桐生義弥、羽狛早苗です。

 この記事を、DS版すばらしきこのせかいの主題歌「Lullaby for You」を聴きながら書いている。ヘッドホンの中に引きこもっていた桜庭ネクがひとりじゃなくなったことを祝福する歌であり、桐生義弥の為の子守歌だと信じている。
 世界はかくも喧しい。情報が氾濫し、全員が全員好き勝手なことをばらばらに考え、ぶつかり、傷つき、喚き、叫んでいる。煩わしいことこの上ない。流行の最先端を行く渋谷ならば尚更だろう。全部リセットできたなら、きっと静かで快適だ。
 それでも、この煩わしいノイズを愛する選択をした彼が愛おしい。どうか、彼が穏やかに眠れる夜がありますように。

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