ショア『Transparancies』を読む 第3回「ジョン・シャーカフスキー」

はじめに

 読者の皆様、こんにちは、tkjgraph(@tkjgraph)と申します。本noteでは、自身のアウトプットの機会として、また、同じく写真やアートについて知りたい/学びたい方との交流の機会として、写真やアートについて(短く、簡潔に!)書いていきます。
 最初のシリーズでは、スティーブン・ショア『Transparencies: Small Camera Works 1971-1979』(以下、『Transparancies』)を扱います。

前回の記事はこちらから!シリーズなので、最初から順に読み進めていただけると!

Stephen Shoreとは?

アメリカ・ニューヨーク生まれ。幼少より写真を撮り始め、1971年にはメトロポリタン美術館で写真家として初の個展を開催。以降、ニューカラーの代表的旗手として活躍する。代表作に、『Uncommon Places』『American Surfaces』がある。

IMA「IMAPEDIA スティーブン・ショア」https://imaonlne.jp/imapedia/stephen-shore/、2023年3月6日アクセス

ジョン・シャーカフスキーの写真論

※写真集を持っていない方、まずはこの動画を見てください!※

 第2回では、『Transparencies』の巻末のエッセイから、ショアが取り組んだ「日常会話」としての写真について読み解きました。第3回では、ショアの制作活動を方向づけたビッグネーム、ジョン・シャーカフスキーについて学びます。

シャーカフスキー、って誰?

ジョン・シャーカフスキー(1925-2007)は、アメリカの写真家、学芸員、歴史家、評論家でした。1962年から1991年まで、ニューヨーク近代美術館(あのMoMA、です)で、写真部門のディレクターを務めていました。

シャーカフスキーからのある注文

ショアとカメラの関係で最も知られているのが、当時のニューヨーク近代美術館(MoMA)写真部門ディレクターであったジョン・シャーカフスキーに『American Surfaces』を見せた時のエピソードである。「このカメラのビューファインダーはどれくらい正確なのか?」と聞かれ、ショアはフォーマリズムへと傾く。この問いを「君はどれだけフレーミングに注意しているのか?」と解釈したショアは、コンパクトカメラをビューカメラに替えて、構図や画像の構造という視覚上の課題に向き合っていく。

海原力「ショアの『カメラの本質』」『IMA』32号、アマナ、2020年、83頁 

 第2回で既に確認した通り、ショアは『Uncommon Places』の制作において、8×10版フィルム用のカメラ(「ビューカメラ」とも呼ばれます)へと移行し、「日常会話」をより精確に捉えようとしました。その背景には、『American Surfaces』を読んだシャーカフスキーからのアドバイス、あるいは注文があったのです。

 なぜシャーカフスキーはこんな注文をするに至ったのか?そこには、シャーカフスキーのある信念―「フォーマリズム」―がありました。

シャーカフスキーの「フォーマリズム」とは?

 19世紀前半に写真が発明されて以降、肖像写真などの職業的写真家、さらには熱心なアマチュア写真家によって大量の写真が撮影され、写真という実践の範囲は急速に拡大します。
 
 写真が発明される以前は、絵画が現実を画像として描写する役割を担っていました。しかし、シャーカフスキーによれば、絵画は「作られる」のに対し、写真においては現実が「撮られる」、つまり選択されるという点で、制作方法上の大きな差異がありました。

 さらに、シャーカフスキーは、描写の対象にも変化があったことを指摘します。

写真は簡単で、安価で、至る所に存在し、それは何でも記録した。(中略)いったん画像の中で客観的、永続的、不死のものへと変えられると、これらの取るに足らないものが重要性を帯びた。

ジョン・シャーカフスキー「『写真家の眼』序論」『写真の理論』甲斐義明訳、月曜社、2017年、16頁

 取るに足らないものが重要性を帯びるなら、究極的には写真は全て重要だから、何でもありなのか…と思ってしまいますが、ここでシャーカフスキーは、写真家の作品には5つの共通のボキャブラリーが存在することを指摘します。

  1. 事物それ自体:写真の被写体は現実そのものではない。が、画像として記録されることで長く人々の記憶に残る。

  2. 細部:写真に写るのは断片にすぎない。が、細部まで明瞭に記録できるおかげで、未だ発見したことのない意味、象徴を読み取れる。

  3. フレーム:写真は選択されるもので、着想の結果ではない。が、フレームは画像の内と外を分離し、フレームの内にあるものに新たな意味を生む。

  4. 時間:写真は時間の断片を画像として固定でき、「決定的瞬間」を記録できる。

  5. 視点:上記のような写真の特性に写真家は適応し、現実に対する写真的な視覚を与える。

 そして、最後に写真の歴史について、以下のように記します。

写真、そして写真に対する我々の理解は中心から広がっていった。(中略)まるで有機体のように、写真は完全な状態で誕生した。その歴史は、我々に寄る写真の漸進的な発見の中に見出されるのである。

ジョン・シャーカフスキー「『写真家の眼』序論」『写真の理論』甲斐義明訳、月曜社、2017年、25頁

 シャーカフスキーの写真論が、フォーマリズムと称される理由、それは取るに足らないものでも全てが被写体となり得る前提で、事物それ自体・細部・フレーム・時間・視点、という5つの形式的な特徴に着目した点にあったわけです。

シャーカフスキーとショア

 上記の論考を翻訳した甲斐によれば、シャーカフスキーにとって、写真は「現実世界を解釈する道具」(甲斐 2017: 204)でした。そして、眼前に広がる現実世界、アメリカの探究へ向かう野心は、「共通のボキャブラリー」を中心として置きつつ、内側からまだ見ぬ外側へと広がっていくわけです。フロンティア精神。

 シャーカフスキーからの注文によってショアもまたシャーカフスキーの野心の一部として巻き込まれ、共通のボキャブラリーの体現者になった、ともいえるのかもしれませんね。

 ちなみに、シャーカフスキーはこの厳格なフォーマリズムゆえに、彼の信念にそぐわないフォトジャーナリズムや芸術写真など、その外側にあるものを、自身の写真論から除外してきた、という見方があります。これはまたいつか話せれば。

次回予告

 今回はここまで!次回は、ショアのメンター、アンディ・ウォーホルとショアの作品の関係について学びます。

 質問や感想は、ぜひコメントで教えてください!「ここが面白かった!」「ここもっと説明して欲しい!」何でもOKです!
 ではでは、ごきげんようー

参考文献

  • IMA「IMAPEDIA スティーブン・ショア」https://imaonlne.jp/imapedia/stephen-shore/、2023年3月6日アクセス

  • Stephen Shore, Transparencies: Small Camera Works 1971-1979, London; Mack, 2020

  • unobtainium photobooks, "Transparencies: Small Camera Works 1971-1979 by Stephen Shore." Accesed March 6, 2023. https://www.youtube.com/watch?v=VlSaWbm78FA

  • ウィキペディア日本版「ジョン・シャーカフスキー」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC、2023年3月6日アクセス

  • 海原力「ショアの『カメラの本質』」『IMA』32号、アマナ、2020年、83頁 

  • 甲斐義明「解説 ジョン・シャーカフスキー」『写真の理論』、月曜社、2017年、189-207頁

  • ジョン・シャーカフスキー「『写真家の眼』序論」『写真の理論』甲斐義明訳、月曜社、2017年、11-26頁


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