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鬼滅の刃で中学英語#48~「それ」じゃ訳せない「it」たち② 主語じゃない「it」~

前回#47で、「It=それは」ではない「天気の主語It」の話をしました。

しかし、「it」の使い方は他にも(山ほど)あり、それをバーッと紹介してくれているサイトも多々あります。

しかし、TOEICで900点以上取るとか、英検2級を取るとか、高い目標があれば別ですが、細かい解説を読んで・・・というのはなかなか難しい物。

なので、いつものごとく、『鬼滅の刃』の英語ネイティブによる翻訳版を通じて、「どうやって使われて、どんな意味になっているか」を学んで一緒に学んでいきたいと思います。

・・・ということで、今回も前回に引き続き、『鬼滅の刃』第1巻英語版から、「それ」じゃ訳せない「it」第2弾をお送りします。

「it」を訳さなくても通じる日本語

『鬼滅の刃』第1巻第1話の、炭治郎が炭を売りに来た町で、「鼻がきく炭治郎」の腕(鼻?)を見込んで助けを求められたシーンを見てもらいましょう。
(出典:『鬼滅の刃』第1巻

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この、最後のセリフ「助けてくれよお 嗅いでくれ!!」に注目して、英語版を見てください。

say-that節-justintime-過去形-help-smell-it

Help me! Smell it!
(助けてくれよお 嗅いでくれ!!)
※smell=匂いを嗅ぐ、という動詞(発音

「Help me!」も「Smell it!」も共に、それぞれ、「help=助ける」「smell=匂いを嗅ぐ」という動詞を文の始めに持って来て、目の前の人に「こうしてほしい」とお願いする文章(命令文)です。

なお、この原作の日本語の文には、英文に対応するものが抜けていますね?

ちょっと補ってみましょう

Help me!=(俺を)助けてくれよお
Smell it!=(これを)嗅いでくれ!!

原作の日本語には「me=俺を」「it=これを」がないのです。

それは日本語が、「○○を」を省略しても意味が通じるからですね。

だから、英文に「it」が入っていても、訳す必要がない、ということです。

むしろ逆に、なんで英訳時に「it」をつけてるんだって話ですよね??

「it=これ」?

なんで英文には「it」が入っているかの前に、なぜ「it=それ」じゃなく「it=これ」と補って訳したかを解説します。

我々は学校でまずはじめに、「これ=this」「それ=it」と習いました

しかし、英語の勉強を続けていくと「it=これ」と読むケースが何回も出てくるんですよね。

このケースがまさにそう。

「Smell it!」をそのまま英訳すれば「それを嗅いでくれ」という意味になりますが、それだと、自分から離れたものの匂いを嗅いでほしい、という意味になってしまいませんか?

でも、この場合は、自分が持っている割れた皿の破片の匂いを嗅いでほしいとお願いしているわけで、もしこのシーンに日本語を補うのであれば、当然「これを嗅いでくれ」になるわけです。

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では、「これ」であるならば、なぜ「this」を当てはめないか?ということですが、「これ」が指すものはなんですか?

皿ですよね。

この皿は、「皿を割った犯人にされた」と、一度話題に上っているわけです。

一度話題に上った「これ」や「あれ」は、「this」や「that」ではなく「it」で言い換えますから、この場合は「it」が正解なんですね。
(逆に1コマ目で言うなら、中身がわからないので「this」が正解です)

「it」は「それ」以外に「これ」とも「あれ」とも訳せるんですですが、このへんの「this」「that」「it」の使い分けについては、#46で解説していますので、そちらの方をご覧下さいませ。

#46「this」と「that」と「it」の使い分けを完全に理解する法

なぜわざわざ「it」を入れているのか?

さて本題に戻ります。

なぜ、「Smell it」に「it」が入っているのか?

日本語では「嗅いでくれよ」なので、「Smell!」だけでもいい気もします。

ヒントは「主語」にあります。

『鬼滅の刃で中学英語』では、英語は「主語+動詞」の形が大事だと何度も言っていますが、この文の主語ってなんでしょう?

「it」ですか?

違います。

「smell」ですか?

違いますね。
「smell=匂いを嗅ぐ、匂う」は動詞だから主語にはなりません。

実は、この文の主語は隠されているんです。

その「隠されている主語」を入れてみましょう。

(You) help me!=(お前) 俺を助けてくれ
(You) smell it!=(お前) これを嗅いでくれ

You」がこの文の主語なんです。

最初の方で、動詞から始まる「命令文」とお話ししましたが、実際は、目の前にいる「You」に言うのが決まっているからこそ、「You」を省略したのが命令文なんです。

では、この場合、「You」が主語というならば、「it」はなんでしょう?

という話ですよね?

ここで一つ、「it」を主語にした文を考えてみます。

It smells!=(これが)匂う

どうでしょう?

同じ単語を使っているにも関わらず、全然意味が違いますよね?
(smellsなのはitが三単現だからで、意味には関係ないです)

Smell it!=(これを)嗅いでくれ

と意味が違います。

それがまさに、「Smell it!」であった理由なんです。

「後ろに置かれるit」

英語は、同じ「it」でも、置かれる場所によって、意味が変わってくる言葉なのです。

これを文法用語で「格変化」と言います。

例をあげましょう。

格変化の例
○○は」とか「○○が」であれば主語になる「主格
(例:、you、he、it
○○を」とか「○○に」であれば目的語になる「目的格
(例:me、you、his、it

「I=私は」と「me=私を」は形が変わりますから、意味が変わっても別におかしくは感じないと思いますが、「it」は、「それが」にも「それを」にもなる、ややこしい単語なのです

この「格変化」、中1でもっとも重要なものの一つですが、現実にはほとんどの人が「一覧表を丸暗記」させられて終わっています。文字で覚えるのが至難の業だからですね。

ですが、例文を使えばこの意味がすんなりわかります。

たとえば、「it」と「smell」を使った文を比較してみましょう。

主格のit
 It smells!=これ匂う/それが匂う
目的格のit
 (You)smell it!=(お前)これ嗅いでくれ/それを嗅いでくれ
※smellsになるのは、主語が「三単現」のitだから

一つめの、文の先頭に来る「it」は「主語」になります。

二つめの、文の最後に来る「it」は「目的語」になります。

だから、訳もそれぞれ変わります。

〔参考〕smellの意味が違う理由
 smell(自動詞)=匂いがする
 smell(他動詞)=匂いがする、匂いを嗅ぐ
「it」が主語⇒「自動詞」、「it」が目的語⇒「他動詞」になるので、「smell」の意味が「匂う」から「嗅ぐ」に変わります。
まぁ、「It smells=これが嗅ぐ」だとヘンですもんね。

「主語」に格変化するから「主格のit(これが、これは)」、「目的語」に格変化するから「目的格のit(これを、これに)」というわけです。この辺はまた格変化の解説の時に詳しく説明しますね。

さて、ではそもそも、「目的語」ってなんですかね?

訳が変わる、目的語の「it」

「目的語」と言われてもピンと来ない人もいるかもしれませんが、その名前よりも「役割」を日本語で考えるとわかりやすいです。

このシーンでは、炭治郎に助けを求めた男の子が「嗅いでくれ!」と言っているわけですが、これを文章だけで読んだら「何を?」となりますよね??

その、「何を?」に当たる部分を明確にしたがるのが英語なので、そこに「it=それを」を使うのです。

いいですか?

この場合、嗅いでほしいという目的のものを指すのが、ここの「it」なのです。だから、目的語

そして、目的語になる「it」は目的格というものになるので、日本語訳が「それを」とか「それに」という意味になるんです。

最初に戻りますが、だからこのシーンでは「嗅いでくれよぉ」の訳が、「Smell it!」と、「it」を後ろに入れなければいけなかった、というわけですね。

ちょっと難しい話になってしまいましたが、ひとまずは、同じ「it」でも使う場所(語順)によって意味が変わる、ということがわかればOKです。

本日のまとめ
・日本語では「それ」を省略しても理解できる時があるが英語は省略しない
・「it=それは」だけでなく「これは」「あれは」にもなる
英語は同じ単語でも、語順で意味が変わる
主語じゃない(文の先頭じゃない)「it」は、「it=それを、それに」という訳になる(目的格)

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