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映画「勝手に逃げろ/人生」について

三番目の映画

2024年3月、DVD版を鑑賞。
ゴダールが80年代に商業映画に復帰した第1作目である。
しばらく前にこのDVDは所有していたが、一度なんとなく観て放置していた。
改めて、きちんと観直して、ここに記しておく。

まず、きちんと書いておかなければならないが、「ひどい映画」であるということだ。
ワタシはすべてではないものの、数多くのゴダール作品を観ている上で言うのだが、この映画はゴダール作品の中でも観なくてもよい作品であることを断言する。
特に後半は、ほとんどAVである。
ポルノ的要素が悪いと言っているのではないが、あまりにも…あまりにも…下品なのだ!!!
そして、やたらとゴダール好みの美人が登場する。
彼女らのアップも執拗に多い。
主人公が「ポール・ゴダール」と名乗るのだから、おそらくはゴダールの「夢」を描いたのが、この映画なのだと思う。
「欲望の視覚化」(「軽蔑」の冒頭のモノローグ)こそ、商業映画なのだと言いたげだ。

「ゴダール全評論・全発言Ⅱ」を参照したところ、この「勝手に逃げろ/人生」について、他の作品よりも多くのページが割かれていることに気づく。
ゴダールにとっては、この商業映画に復帰ということは、大きな意味があったようである。
だが、のちの「パッション」や「カルメンという名の女」と比較すれば、この「勝手に逃げろ/人生」は、まずは社会復帰のためのリハビリくらいの作品だと思える。

とはいえ、後半のAVもどきの性描写は、ドン引きである。
なぜかこのことについて、どの評論、レビューなどを見てもほとんど書かれていないのはどういうことなのだろうか?
ただ、大島渚の「愛のコリーダ」が1976年公開で、この「勝手に逃げろ/人生」の本国での公開が1980年公開ということで、ゴダールが影響受けているのではないかという推測をしてしまう。

参考になったのは、松浦寿輝氏が書いた「ゴダール」だけだ。
ゴダールにとって、ポルノ的表現、あるいは「売春」とは、60年代の作品から繰り返し登場する要素ではあった。
「Ⅱゴダールは露出する」はこのゴダールにおけるポルノグラフィーについて、詳細に書かれている。
「ポルノ映画についてどう思うかと訊かれて、世の中には三種類の映画があり、まずベルトから上で出来た映画、二番目はベルトから下で出来た映画なのだが、自分が作りたいのは三番目のものでそれはベルトの上下を行ったり来たりする映画なのだと答えるゴダールは、…(以下省略)」
(「ゴダール」松浦寿輝著・筑摩書房リュミエール叢書 29/p42)
この「三番目の映画」にまさに相応しいのが、この「勝手に逃げろ/人生」であるとは言える。
ただ、この松浦氏が引用したこのゴダールの発言はどこからのものなのか、いくつかあたってみたのだが、見つけられずにいる。

2024年6月11日UP
※このテキストは、筆者がYahoo!検索(旧Yahoo!映画)に投稿したものを転載したものです。


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