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めぐると雛菜のディスコミュニケーションと相互理解の営みの美しさについて【#283をひろげよう】

 本当の鍵は他者の重みをしっかりととらえることなのだ。他者は自分の拡大形態ではないこと、それは自分と異質な存在者であること。よって、他者を理解すること、他者によって理解されることは、本来絶望的に困難であることをしっかり認識すべきなのである。

 中島義道「〈対話〉のない社会」2013


八宮めぐると市川雛菜の関係については、公式四コマが記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

同学年(高校一年)、メンバーカラー(黄色)、ダンスの才能と共通点のある二人です。【#283をひろげよう】では八宮めぐると市川雛菜の二人の関係性が主題のひとつとなっています。

なぜ、八宮めぐると市川雛菜にスポットライトが当てられたのでしょうか?それは、この二人の価値観(もしくは人生哲学と言った方がふさわしいかもしれません)が本シナリオの物語性と深く関わっているからです。

本記事では、八宮めぐると市川雛菜の共通点、あるいは相違点に注目しながら、本シナリオで描かれていたのは何なのか読み解きたいと思います。

まーじでひたすらに劇的で、かつ最高なんだよこのシナリオ…………………………

※あくまで独自解釈です。解釈のひとつとしてお読みいただければと思います。

1.二人の「他者」のとらえかた

八宮めぐると市川雛菜、両者の物語の主題のひとつとなっているのは、自分以外の「他者」についての考え方です。具体的なエピソードをふまえつつ見ていきたいと思います。

■めぐると雛菜の共通点

【チエルアルコは流星の】において、水槽の隅ではぐれて泳ぐ熱帯魚を見ためぐるは「この魚の気持ちは、この魚にしかわからない」と言います。

また、LandingPoint編では、めぐるは小学生のころに転校した初日に声をかけてくれた元同級生へ感謝を伝えます。感謝の意を込めてライブへ招待するも、「(あの時声をかけてくれたことどれだけ嬉しかったかは)」「(きっと、あの時からずっと伝わってないんだろうなぁ・・・)」と考え込みます。

雛菜はWING編で雛菜の協調性を咎めようとするプロデューサーに「他の人のことなんて知らないよね」「雛菜は雛菜のことしか知らないよ」と話します。

熱帯魚、元同級生、プロデューサー、自分の思いは伝わらないし、相手の思いもまた伝わらない。二人の共通点は「他者との相互理解は不可能である」という、ある種の諦観を持っていることだと考えます。

■めぐると雛菜の相違点

上記の雛菜のエピソードはこう続きます。


「これ、聞きたくないやつだった」とコミュニケーションを続けることを止め、「雛菜はね、雛菜がしあわせ〜って思えることだけでいいの、それ以外は知らなくてもいいの」と雛菜は話します。

このことから、彼女は「他者との相互理解は不可能であるし、そもそもできなくてもよいとする」というスタンスを持っていると考えます。自分は自分のことしかわからない、ならば自分がいかにして「しあわせ」と思えるか、ここに彼女は価値を見出しているのだと思います。

一方で、めぐるはコミュニケーションを諦めません。LandingPoint編においても、元同級生にライブへの招待を断られつつも、プロデューサーの助言もあり、「招待したい、見に来てほしい」という気持ちを持ち続けます。

他者からの理解を得られずとも、なぜ彼女はそれを諦めないのか。それは、お互いを理解し合いたいという営みそのものに彼女が価値を見出していることに他ならないからです。

両者は他者との距離感について、このような価値基準を持っていると考えます。

市川雛菜は「他者との相互理解は不可能であり、そもそもできなくてもよいとする」

八宮めぐるは「他者との相互理解は不可能であるが、互いを理解しようとする営みこそ、尊く価値のあるものである」

この二人の価値観の違いは、【#283をひろげよう】で描かれた主題のひとつとなっています。


2.めぐると雛菜のディスコミュニケーション

【#283をひろげよう】の序盤では、めぐると雛菜のコミュニケーションがうまくいっていない様子が描かれます。(決して不仲であるといった意図は無く、やり取りの中に両者の悪意がないことは明白ではありますが補足しておきます)

「雛菜が撮ろうって言ってくれたこと」「雛菜と話す機会ができたこと」「なんの為でもない練習」などについて、めぐるは雛菜に自身の思いを伝えます。しかし、投げられたボールに返ってくるのは、浮かない返事です。

積極的にコミュニケーションを取ろうとするめぐるに戸惑う雛菜がここでは描かれました。


3.豚まん いいですよね~

本シナリオのキーアイテムである「豚まん」。

BUTAMAN

きっかけは桑山千雪と西城樹里のラジオ収録の取材でした。

樹里と買い食いをしたエピソードを語る千雪につられて、お腹が減ったと話すめぐる。そして、何気ない一言でありますが、雛菜も「でも、豚まんいいですよね~」「雛菜もお腹すいたな」と話します。

ここで重要なのは、めぐるが声を弾ませて返答したことです。

なぜめぐるは雛菜のささいな一言に喜んだのか。それは、「千雪のエピソードを聞いてお腹がすいた」という体験を、雛菜と共有できたからに違いありません。

それは、めぐるが重きを置いている価値観に他ならないものであり、ここまですれ違い続けた両者の、ようやくできた共通項といってもいいでしょう。

ここから、本シナリオでは二人の関係性の深まりが描かれていきます。


4.ストレイライトのステージ

取材が進み、ストレイライトのステージの当日になります。ストレイライトは、生放送、二曲通しの絶対に失敗できない大一番に挑むことになります。

雛菜はステージを見つめるめぐるに問いかけます。

ある意味、この質問をしたこと自体が雛菜の変化と言える。

めぐるは、同じ事務所の仲間が大舞台に立つ喜びと、イルミネーションスターズがその舞台に立てなかった悔しさを口にします。

雛菜にとって、その返答は意外なものでした。めぐるのように、仲間として、かつライバルとして同じ事務所のユニットを見ること、それは雛菜にとって新しい気づきとなりました。


5.【#283をひろげよう】で描かれたもの

本シナリオを象徴する場面があります。

「新しく知ってもらうこと」「新しく知ること」。これは「#283をひろげよう」という表題にも係ります。

これは、プロデューサーからファンの方向へ発言されたものですが、めぐるの価値観にも共通するものがあります。彼女はそれがどれだけ難しいことかわかっていながらも、他者に理解してもらい、また自分が他者を理解するために発信することをやめませんでした。それは、戸惑う雛菜へアプローチを続けたことについても同様です。

めぐると雛菜、【#283をひろげよう】で描かれたものはなんだったのか。

めぐるにとっては、雛菜と関係が深まったこと、それ自体が「283のひろがり」だったのだと思います。

周囲からみると、外向的であるめぐるにとって、交友関係が広がることは珍しくないように思えます。しかし、彼女はそれら一つ一つを本当に大切に、かけがえのないものだととらえています。雛菜と共に取材し、共に過ごした時間は彼女自身のみ知る尊い価値を持っているに違いありません。


また、雛菜は、めぐると接することで「新しいこと」を知ります。

それは、

「なんの為でもない練習はない」ことであり

「アンティーカの看板」「アンティーカのシール」に見た朧気な目標であり

「知ってもらうことを諦めないこと」でもあります。

「#283をひろげよう」企画の最後を飾った写真。近寄った二人の距離感は明らかにめぐるのパーソナルスペースですが、雛菜がそれを認め、受け入れているようにも思えます。これは共に取材をした経験がなければ無かった変化だと思います。また、二人は左右対称の構図になっており、近い価値観を持ちながらも、対照的な二人が互いを認め合っているようにも見えました。


自分は、めぐるの熱量は雛菜に伝播したと確信しています。
この熱量こそが、【#283をひろげよう】を通じて得た、雛菜にとっての「283のひろがり」だと思います。


本シナリオのラストシーン、雛菜が感じた確かな熱さは、めぐるのものであり、また、それにあてられた彼女自身のものだったではないでしょうか。

END



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