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【講評】Perchという名の喫茶店 〜七月七日〜


ハゲのタイタンさんの小説です。

すごく文章が読みやすく、いい意味で、あっという間に読了します。
読後感も悪くなく、この作者のほかの小説を読みたくなります。

エッセイだとすごくいい文章を書くのに、小説だと表現に技巧を凝らしてみたり、あまり使わない表現を使ったりして読みにくくなるケースをよく見かけますが、この小説は普通の表現を使って、読みやすい文章を書いています。

普段使わないような表現を使うと、今まで書いていた文章にそぐわなくなって、表現が上滑りすることがあります。
例えば、「驚いた」の表現だけでも、「驚愕した」とか「愕然とした」とか「あっけにとられた」とか、いろいろな表現があります。
小説を書く方は注意して欲しいのですが、自分の文章に合った表現で書いたほうが、読者にとって一番読みやすくなると思ってください。
上記の例でも、「驚天動地の出来事だった」とか書いたら、「なにを大袈裟な」と思いますよね。
表現が上滑りしたら、読者はその時点で鼻白みます。

この小説はそんな気取りがなく、とても読みやすく、素直に書いています。
今後、この作者は、そこがすごい武器になるのではないでしょうか。

少し気になった点があるので、そこも指摘しておきます。

(1)小説なので、段落の字下げはやったほうがいいです。
(2)サヨナラ替わり⇒サヨナラ代わり、ではないかと。
(3)3238文字で、文字数制限オーバーですね。目くじらを立てるほどではないですけど、賞によっては失格になるので、ご注意ください。
(4)女子が「いひひひっ」と笑うのは違和感があります。「うふふっ」か「えへへっ」くらいにしておいて、その笑い方に特徴をつけたほうが良いと思いました。
⇒実際にそういうふうに聞こえたとしても、文字だけで「いひひひっ」と書かれてあると、そればかりが目立ってしまいます。このシーンでは、その言葉が目立つよりは、声の高さとか、声の大きさとかで特徴をつけたほうがいいと思います。

以下は、指摘と言うより、提案に近いです。

題名が「Perchという名の喫茶店」なので「Perch:止まり木」みたいな意味合いのことを文中で説明したらよかったかもしれませんね。
それよりはいっそのこと7月7日なので「MilkyWay」とかにしてもよかったのではないかとも思います。そうすればその日が特別な日だということが目立つのかなと。そして、彦星(光)と織姫(久美子)が約束の30年後に出会う、と。
ただ、ここは好みの問題かもしれません。

次に。
最初に4人の名前が出てくるので、少し混乱します。
冒頭部ではできるだけ登場人物は少なくしたほうが、読者は小説に入りやすいです。最初の10行くらいまでは、登場人物は一人、もしくは二人までがいいと思います。

いっそのこと、

「今日も麻子は教室の窓際に座っている順平のことをずっと見てたわ。本人は教えてくれないけど、麻子は絶対に順平のことが好きよ」

ここをバッサリ削ったら、スッキリするかもしれません。もしくは

「麻子は順平のどこがいいのかしらね。この前も先生から『自分の一番の特徴的なところはどこか?』って聞かれて、『僕は耳アカが人より湿ってるところです』だって!」

のセリフの前に入れるとか。

最後のシーン。

光が云う。
「駅まで送って行こうか」

「ううん、一人で大丈夫」
久美子は笑った。笑いながら涙が止まらなかった。

ここはすごくいいシーンなのですが、少しわかりにくいかなと思いました。

 光が云う。
「駅まで送って行こうか」
「えっ?」
 驚いて振り向くと、光はクルクルと鉛筆を回していた。
「ううん、一人で大丈夫」
 久美子は笑った。笑いながら涙が止まらなかった。

あくまで提案ですが、こういうふうに書いたら、「そこは覚えてくれていたんだ」と読者に想起することができるのかなと。
他にもいい表現があるかもしれません。

何度も言いますが、読後感がよく、非常にいい話だと思います。
光の息子を光と間違えたのは、意外性があってすごくよかったです。
このシーンで、「なるほど」と思いました。とかく飽きがちな中盤で、読者を見事に物語に引き込んでいます。

ラストシーンで、すべてを忘れていた光が「駅まで送って行こうか」を覚えていた。これもすごくよかったです。

楽しい物語を、ありがとうございました。

小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)