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【雑記】禁酒の心を読んで

私は正直言って、若い頃太宰治があまり好きではなかった。
しかしいろいろと読んでいると、面白い作品に出会うことがある。そのためいまでは太宰治が大好きになった。
その一つが「禁酒の心」である。

冒頭部で、私は禁酒をしようと思っている、とくる。
ふむふむ、いいですね。

昔は、これに依所謂浩然之気を養ったものだそうであるが、今は、ただ精神をあさはかにするばかり。
まさにおっしゃるとおりかもしれませんね、となる。

そして日頃酒を好む者は精神が吝嗇卑小、とまで言う。
このあたりはちょっと耳が痛い。

一目盛の晩酌を人に取られたくないため、窓を閉め切って、風声鶴唳にも心を驚かすときた。
いや、そこまで?

人が来たら、この酒飲まれてたまるものか、とばかりに戸棚に隠す。それから急に猫撫声で「どなた?」と。その醜さに、書きながら嘔吐を催すそうなのだ。
酒飲んでないのに吐いちゃ駄目でしょ、太宰さん。
と思わずツッコむ。

さらに面白いのは、「酒の店」。
「お客のあさはかな虚栄と卑屈、店のおやじの傲慢貪慾」とまで言い、ああもう酒はいやだ、と禁酒の決意をするけど、「機が熟さぬとでもいうのか、いまだに断行の運びにいたらぬ」。
いや、太宰さん、それダメ人間のテンプレート言い訳になってますよ。
「いやあ、万引きやめようとは思ってるんですけどね。まだ時期じゃないって言うか」みたいな。

さらに店に入ってからも「店のおやじの機嫌をとりたい為に」客たちはいろいろと小細工を弄すのだが、店のおやじは黙殺する。
これを「あきらかに、錯乱、発狂の状態である」とまで言い切る。
いや、だいぶイタイけど、さすがに発狂まではないのではないかと。

客たちは食いたくもないものを頼みまくり、客同士で頼み競争をする。酒を飲みに来たのか、ものを食べに来たのか、わからなくなってしまうらしい。
でしょうね。でもそれ、酒のせいじゃないじゃん。

最後に
「なんとも酒は、魔物である。」
で終わる。

いやあ、全部酒のせいにされちゃってますけど、問題は酒の店なのではないでせうか、太宰さん。
これ朗読で聞いたら、絶対に笑える。

これが教科書に掲載されていたら、一発で太宰治さん好きになってたね。


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