20年余りも経済停滞とデフレを説明・解決できない日本の主流経済学者と政府

日本が20年以上にわたり、名目GDPが0成長になり、賃金等が下がり続けるデフレ不況に陥っている原因を日本の主流経済学者は下記のような言葉で説明します。

・総需要不足
・財政赤字の拡大(増税不足)
・デフレマインド
・儲ける力(付加価値)が足りない
・改革が足りない(産業の保護、ゾンビ企業)

しかし、20年余りもそれを言い続けて、政府がその対策を行っているように見える中で一向に経済が改善していない(それどころか事態が悪化しているのではという実感が広がっている)のが明らかになりつつあります。

↓そもそもこんな有機的な理由で名目GDPがいきなり真横になるわけがない、、、


そのカウンターとしてMMTという経済学理論が出てきて、これらの主流の考え方を反転する議論も出てきました。彼らは低成長の原因を下記のような言葉で説明します。

・総需要不足ではなくキャッシュ不足
・改革したから経済が停滞している
・財政赤字増やさないからデフレになる
→むしろ経済成長するほどの財政赤字の拡大を政府は行わなければいけない。

しかし、MMT系の政策論は一定の支持者層を獲得してはいるものの、主流とはなっておらず、新コロ騒動下で、リアルにインフレ(スタグフレ)が発生している現在、力を失いつつあるように思います。

日本経済の停滞を見事に説明するロジック

私は、デフレや経済停滞の原因を金融行政にあるのではないかと考えており、発信してきましたが、WEBをあさっていると、18年前にこれ以上ないぐらい見事にその金融行政の問題点と影響をロジカルに説明している方を見つけました。

鈴木よしお 元日本銀行理事 『竹中金融行政がデフレを長引かせている ─ 国内銀行の自己資本比率規制を廃止せよ』
http://www.suzuki.org/japanese/comment/right_20040831.html

現在でもこの金融行政の在り方は生き続けており変わっていません。ゆえに現代でも通用する、むしろ力を増している理屈かと思いますので、引用させていただきたいと思います。

98年以来、日本国内の銀行貸出の総残高は一貫して減り続けている。銀行は貸出の代りに長期国債の保有を増やしているが、それでもマネーサプライ(M2+CD)平残の伸びは貸出の減少が響いている。
この貸出減少とマネーサプライの低い伸びが国内需要(とくに中小企業の投資)を抑え、国内の需給ギャップの改善を遅らせ、デフレを長引かせている金融面の原因である

鈴木よしお氏 元日本銀行理事

銀行の貸し出し(企業の借金)が増えないことがデフレの原因(名目GDP=貨幣流通量が増えない原因)であるということですね。

↓それはなぜでしょう?

竹中金融行政が求める三つの指標の改善、すなわち①「不良債権比率の引下げ」、②「自己資本比率の維持」、③「収益性の改善」は本来矛盾する。不良債権の早期処理は、当期の利益を投入し、更に自己資本を取崩して行なうので、①の改善は②と③を悪化させる
また自己資本比率の引上げは信用拡張係数を低下させるので、資本1単位当りの収益を低下させる。つまり②と③も矛盾する。
この①②③の矛盾を和らげる方法は、①②③の比率の共通の分母である貸出残高を期待収益率が低く信用リスクの高い方から減らすことである。減らす対象は多くの場合中小企業向け貸出が選ばれ、「貸し渋り」「貸しはがし」となる。
このようにして、相互に矛盾する三つの指標の改善を同時に求める竹中大臣の過剰介入型金融行政は、必然的に銀行貸出の「意欲と能力」を低下させ、国内民間需要を抑制してデフレを長引かせる

鈴木よしお氏 元日本銀行理事

銀行が、貸し出しが焦げ付きそうな貸出先(不良債権)を処理(債権放棄などで損金処理)すると、当期利益と自己資本(持っているキャッシュ)を棄損するので、自己資本比率の維持ができなくなり貸し出しを減らすだろうという事ですね。(当たり前だ!)

BIS規制では、自己資本比率の分母となる資産のうち、国債はリスクウェイトが0%と評価されて算入されないが、対民間貸出はほとんど100%と評価されて全部算入されるので、貸出の「意欲と能力」は抑えられ、国債保有の「意欲と能力」が高まる。この国債保有は、超金融緩和とデフレの下では結構採算が取れるのである。何故なら、短期国債の「実質」金利はデフレのお陰でプラスであり、長期国債の金利は預金金利を上回っているので利鞘が稼げる。

鈴木よしお氏 元日本銀行理事

BIS規制は、貸し出しが増えれば増えるほど、自己資本比率が減る計算式で求められます。そして、これを国際法上も何の強制力のない本来不要である地銀にまで厳しく適応し、かつその自己資本比率が規定の割合を割ったら強制閉鎖するという罰則(早期是正措置)までかけているのが日本です。

また、BIS規制では国債の保有額だけは無視されます。

このため銀行は貸し出しを抑制しつつ国債ばかり買うような奇妙な経営体質になっていきます(実際にそうなっている!)。

https://www.39asset.co.jp/blog/2019/08/001098.html

自己資本比率規制を中心とした竹中金融行政は、ポートフォリオの高いリスクと低いフランチャイズ価値(将来利益の割引現在価値)を銀行に強制しているのだ。

鈴木よしお氏 元日本銀行理事

日本経済が立ち直ることを見越すと(この金融行政が生き続けているので立ち直りませんでしたが、、、)、銀行の高い国債保有比率は後々銀行の収益性を圧迫し経営の健全性を奪う可能性があるという事ですね。

自己資本比率規制を中心とする竹中介入型行政は、現在の国内民間需要を抑えてデフレを長引かせているだけではなく、将来の銀行経営の健全性に逆行するような銀行行動を誘導している
その原因はBIS規制に基づく自己資本比率規制にある。
これは廃止すべきである。

鈴木よしお氏 元日本銀行理事

ちなみに、アベノミクスによる金融緩和の後、国債は日銀によって大量に買われ、銀行の日銀当座預金にその費用が流れ込みこみました。その金は単に豚積みになりました。(アホです)

銀行のBISに基づく自己資本比率は量的緩和以降下がっています。日銀が国債購入という形で銀行に日銀当座預金を増やす政策をしても、BIS規制に阻まれてキャッシュが市中に流れ込む量に制限がかかった事を示唆します。


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