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めっちゃ暗い奴なのに演奏会でうっかりギロ奏者になった話

私は小学校の6年間で10分しか喋れなかった。かんもく症というらしい。全く喋らない暗いやつなのに,クラスの演奏会で私はうっかりギロ奏者になってしまった。

喋れない弊害は、時に必要以上に目立ってしまうケースがあることをお伝えしたい。

当時、クラスの委員会や係決めは黒板に書き出される役割の中で、やりたいものに手を挙げて決める方式だった。しかし私は手を挙げたりする意思表示さえもできず、たいていは最後に余った役を引き受けることになる。

とある日、学校行事の演奏会でそれぞれが担当する楽器を決めた。私は皆が役を決めるのを見届け、いつものように余った役を引き取ろうとした。

ところが、異変に気づく。皆が役決めを終わったのに役が余っていない。なんと、私を含めた人数分の配役を、先生が計算ミスしていた。この事態に気付いたのは、悲しいことに私だけ。クラスのみんなは意気揚々とグループを作り始めた。

もう何もせずに岩になろう。。そう思ったけれど、演奏会本番で1人だけ手ぶらではキツ過ぎる。この事態を先生に伝えなきゃ、そう思っても先生の所に行くまでが大変で。結局、授業の終わり近くになってやっと行けた。

先生は手ぶらの私を見た瞬間、明らかに狼狽していた。何が起きているか、察したようだ。「待ってて!」と言って慌てて音楽準備室に駆け込んで。再び私の前に現れた先生の手には「ギロ」が握られていた。 ギロとの出会い、見たことない楽器だった。

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「これギロって言う楽器なんだけど、あきちゃんやってみない?」

こういう時,私は「断る」という意思表示ができなくて、「うん」と頷くしかなかった。うっかりギロ奏者の誕生である。さらに、ギロを奏でる正式な棒を紛失していたようで、替わりにリコーダーの中を掃除する付属品、あのか細い棒があてがわれた。

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皆さんはご存知だろうか、ギロの音量を、
ましてや、か細い棒で奏でるギロの音量を、
合奏中、自分でも聞こえやしねぇギロの音、
リコーダー1本でいとも瞬殺されるギロの音。

でもせっかくやるなら、
「ギロの音で音楽に深みが出たね」とか、
「ギロのリズムのおかげで弾きやすかったよ」とか
めっちゃ言われたい。

暗いクセにちょっと目立ちたいのだ。

40分の音楽の時間が週2回。さらに1ヶ月の間、音楽の時間は全て演奏会に向けた練習に充てられた。締めて5時間強。私はこの気の遠くなるような時間を、1人静かにギロに向き合った。

か細い棒で何度もギロを鳴らした。
正直、ギロに練習も何も無いような気がして、
時々、虚しくなったりもした。

南国チックのご機嫌なフォルムに反して、
奏でる音は「ジャッ」って音。
地味すぎるサウンドに強烈な飽きが襲ってくる。

それでも自分なりに工夫して、
叩いたら良いんじゃね、とか。
棒を短く持って削るように擦ると、大きな音が出るなとか。
次々と新しい奏法を編み出した。

そして来たる発表会の日、私は学校で唯一のギロ奏者としての誇りを持っていた。練習の成果を見せる時がやっと訪れたのだ。

合奏が始まると、私は一心不乱にギロを掻き鳴らし、
持てるパフォーマンスを最大限に発揮した。
叩きと鳴らしのコンビネーション、
音を誇大に強調する往年の短め棒のテクニック。

ギロの音とリズムで皆の演奏を盛り立てる使命感に溢れていた。しかし、途中でハタと気が付いた。

どう考えても,私のギロが他の楽器と調和しているように聞こえなかった。隣の鍵盤ハーモニカから睨まれて、自分が単に壮大な雑音を出していることにも気が付いた。私はそっと力を弱めた。

大人になってもギロを見ると、胸がキュッとする。
かんもくの話がしたかったのに、ギロだらけだ。

ハッシュタグはギロにする。


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