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【中小企業向け/知財で損をしないポイント】<vol.3>商標を安心して使用するために商標登録しておきましょう!

「知財の診断士®」がお届けする、中小企業に知っておいてほしい知財ポイント、第3回目のテーマは、「商標登録の効果と先使用権の問題」です。

ポイント

◆商標は、先に使用していた人ではなく、先に登録した人に独占的に使用できる権利が発生します。商標を長く使い続けていたとしても、ある日突然使用できなくなることもあり得ます。

◆出願以前から使用し続けていることを立証できれば「先使用権」が認められる場合がありますが、その要件は厳しく、中小企業にとって「先使用権」の主張は容易ではありません。

◆大事な商標を長く安心して使うためには、商標登録しておくことが一番の対策となります。

導入編「知的財産で損する社長の決まり文句」はこちら↓

1.前回からの続き

前回の投稿では、屋号や商品名を検討するネーミングの段階から商標を意識しておくこと、商標調査を行い問題となる他人の商標権が存在しないことを確認することが重要であることを説明させて頂きました。

その商標を使用し始めた際に問題となる他人の商標権が存在しなくとも、その後、誰かが同じ商標を出願登録すると、使用できなくる恐れがあります。
とはいえ、長年使用し、業務上の信用を維持してきた商標の場合、おいそれと使用できなくすることは不合理です。そのため、一定程度認知されている商標につては、その後第三者の商標登録があったとしても使用を継続できるようにするのが「先使用権」制度です。

2.先使用権とは

「先使用権」とは、自分の商標について商標登録しておらず、他人が商標登録した場合であっても、不正競争の目的でなくその出願時以前から使用し、需要者の間で広く認識されている場合は、継続して使用することができるという権利です(商標法第32条第1項)。一般に利用することはないのですが、第三者の商標権に抵触していると警告を受けた場合に、対抗する手段の一つとなります。
ただ先使用権を鵜呑みにしてしまうと思わぬ火傷を負うことになります。

3.中小企業診断士試験問題からの事例

商標の先使用権については、昨年の中小企業診断士の一次試験「経営・法務」で出題されています。一次試験の問題に挙げられているのですから、中小企業診断士としては知っておくべき知識であると言えると思います。
以下、設問を引用しながら、先使用権の実情について説明させて頂きます。
設問は、以下の通りです。

先使用権問題

老舗菓子店の名物商品に対し、その名称の商標権侵害を理由に商品の販売の差し止めを求める警告書が届いた、というありがちな設定です。相談を受けた中小企業診断士は、先使用権を主張できるかもしれないので販売を中止する必要はない!と説明されています。

試験では、先使用権が認められる要件を問うているものです。解答群は以下の通りです(下線は論点をわかりやすくするため当方で付しています)。

回答

正解は「イ」となります。先使用権は、単に出願前から使用していた事実だけでは足りず、需要者の間に広く認識されていることが必要です。

(余談)                              中小企業診断士試験は、7科目の多肢選択式(マークシート方式)による一次試験と、4科目の論文試験+口述試験による二次試験からなりますが、知的財産法は一次試験の「経営法務」で問われています(他には会社法や民法などの法律も含まれます)。今回出題されている商標の先使用権の要件は、おそらく大企業の知的財産部員であっても、商標を担当していなければ自信をもって解答できる人は少ないと思われ、難問です。他の会社法や民法でもエッと言うような難問が多く、「経営法務」は苦手科目とされる受験生が多いことでも知られています。ちなみにこの年の「経営法務」の科目合格者率は、10.15%と7科目中2番目の難易度でした。

4.改めて商標制度の確認

この設問にあるように、仮に昭和の時代から何十年もその商標(商品名)を使用していたとしても、先に商標出願した人に権利が与えられ、使用を差し止めるよう求めることができます。従って、これまで問題なく使用できていたとしても、(悪意の有無にかかわらず)誰かがその商標を出願登録すると、使用できなくなる可能性があります。
個人的な経験では、食品関係や飲食業関係では、このようなトラブルが多いと感じています、

5.先使用権の要件

前述のとおり、先使用権が認められれば、その商標を使用し続けることができます。中小企業診断士としては、本設問にあるように、そのような逃げ道もあることを知っておくことが必要であるということかもしれません。

ただし実際にはそんなに簡単なことではありません。あらためて先使用権が認められるために必要な要件を下記すると
①他人の商標登録出願前からその商標を使用していたこと
②不正競争の目的ではない使用であること
③その商標が自己の業務にかかる商品・役務を表すものとして需要者の間に広く認識されていること
④継続してその商品・役務についてその商標の使用をしていること

となります。

6.先使用権立証のポイント

上記要件のうち、特に立証が困難なのは③需要者の間に広く認識されていること(周知性)です。
設問では昭和の時代から販売している名物商品として周知であることをほのめかしていますが、先使用権が認められるには、(ⅰ)その商標を使用している地域に加え、近隣の都道府県でも知られている程度の周知性が求められます。またその周知性を証明するのは使用者の義務であり、(ⅱ)当該商標権の出願時まで遡って使用状況の証拠を提出することが必要です。さらに(ⅲ)先使用権を相手方が認めなければ、最終定な判断は裁判所となります。

もう少し説明を加えます。

(ⅰ)自社の商品・役務が、近所だけでなく、近隣の都道府県でも知られていることを証明するのは簡単ではありません。通常その商品・役務を提供していたことを示す販売記録や、当該地域に対する広告宣伝の記録、雑誌などの掲載資料などが証拠となりますので、それらを収集する必要があります。

(ⅱ)周知性を立証する(ⅰ)の証拠は、現時点はなく、その商標が出願された時期に遡らないといけません。本事例では、商標出願は昨年となっていますが、場合によっては10年以上前の記録を引っ張り出してこないといけない場合もあります。また①出願前から使用していたことや、④継続して使用し続けていたことの要件についても、出願時に遡って証明しなければなりません。

(ⅲ)さらに、仮に先使用権を主張する証拠を集められたとしても、警告書を送付してきた相手が「はい、分かりました」と納得してくれることはほとんどありません。結局、先使用権を判断するのは裁判所であり、裁判まで進んだ場合に白黒決着します。多くの中小企業にとって裁判は負荷が大きく、係争は避けざるを得ないかと思われます。

このように先使用権を認めてもらうことはハードルが高く、中小企業にとって現実的な対応方法ではないと考えます。

7.安心して商標を使用するための対策

本設問のように、古くから使用していたとしても、悪意があるか否かは別にして、後から誰かが商標を出願し登録されると使用できなくなるリスクがあります。一生懸命考えた愛着あるネーミングを安心して永く使用するためには、自分で商標出願し、登録しておくことが一番の対策です。自分で出願登録しておけば、その後の登録を防ぐことができます。
また商標は、10年単位での更新制度がありますので、更新登録料を支払えば半永久的に権利を持つことができます。

8.補足

意図せぬ形で商標権侵害の警告書を受け取る可能性はありますが、短絡的に使用を断念する必要はありません。本稿では、先使用権に頼ることは危険であることを注意喚起したものですが、勿論先使用権での反論が認められる場合もあり得ます。またそれ以外の対策を否定するものではなく、例えば、権利者側の主張が間違っていることもありますし、使用許諾や権利譲渡などの交渉により使用が継続できる場合もあり得ます。
まずは信頼できる専門家へご相談下さい。

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企業での知財経験豊富な中小企業診断士です。中小企業等へ経営に資する知財活動を支援する「たなか知財の診断士事務所」を開業しました。資格:中小企業診断士、知的財産アナリスト(特許)、パラグライダーエキスパートパイロット等