ベルンハルト・シュリンク「オルガ」

クレスト・ブックスっていうか外国文学って高いんですよ。
現行の物価感覚についていけてないんでちょっと以前の実感で言うけど、ハードカバーの日本文学が1,300円とか1,400円なのに対して外国文学だと軽く2,000円は超えてたからね。
本当ならぜひとも新刊で購入して、いつもまだ見ぬ素晴らしい世界へ連れてってくれる作家先生たちに感謝と応援の意を示すべきなんだろうけど、毎度毎度それをやっていたら自分は早晩破産する。
愛する作家先生たちに等しく金で感謝を還元できない貧乏人で本当に不甲斐ない。
さすがにお国のお世話になるよりかは自助努力をすべきでしょう。さしもの自分もそこのところは判っちゃいる(養ってやるっていわれたら諸手を挙げて世話になるけど)。
だから誰にともなく言い訳をしながらおなじみブックオフの敷居を跨ぐ。
昨今流行りのSDGsでもありますしねー、持続可能な消費社会、と。

申し訳ないな~と思いながらも、やはりブコフには楽園みを感じずにいられない。
否、みんな概ね同じ感想を抱いてるとは思うんだけども、外国文学コーナーはコミックスのコーナーとはまたちょっと違うんだ。
楽園っていうか、人が足を踏み入れない肥沃な大地?秘密の漁場?そんな印象が強い。
客層が違うんでしょうかね、ブコフの外国文学コーナーはどこの店舗に行ってもまあー売り場がちっちゃい(否、普通の書店でも外国文学の規模は似たようなものか)。
でもそんなささやかな売り場でも運が良ければほしかったあの本やこの本が時々見つかる。
とはいえ売りに来る人も少なければ、買う人も少ないんでしょう。
そうすると最初はお高かった外国文学も長期滞留を理由に値下げがどんどん進んでいって、なんと本書「オルガ」なんて、にひゃくえんだったかさんびゃくえんだったか!
ありがたすぎる価格破壊と外国文学コーナーに興味がないお客さんたちには感謝してもしきれない。

基本ハズレがない新潮クレスト・ブックスはレーベル買いしている。
大体いつもなんも考えないで読み始めるけど、オルガも例に漏れず、3,000円出してもおかしくない、広い広い豊穣な世界を擁する名作だった。さすがクレスト・ブックス。
ってか洋楽と一緒で売れると踏んだからこそ輸入されているんだろうか。
「外国」文学の時点で既に高い完成度は担保されている…?

   * * *

19世紀末、ブレスラウ(現ポーランド)の貧しい家に生まれ、ドイツ東北部に住む祖母に引き取られたオルガは、誰にも媚びない性格を気に入られて農場主の息子ヘルベルトと恋仲になる。だが結婚は許されず、行き場のないヘルベルトは北極圏への冒険に出たまま消息を絶った。僻地への赴任、ナチスの台頭、身体の変調、戦災からの逃避……。数々の苦難を乗り越えたオルガは、人生の最後に途方もない行動に出る。ひとりの女性の毅然とした生き方を描いて話題となった最新長編。
(以上、カバー折り返しより)

まあまあ不幸めな生い立ちで始まる幼少期から、逆風に抗い立身出世を体現する青年期を経て、戦争で職と住居を追われるまでを描いた第一部。
新天地で第二の人生をスタートさせたオルガ。優しい隣人による視点で描かれる第二部。
オルガの死後、彼女の足取りを追って手に入れた、若きオルガの心情が詰まった手紙を繙く第三部。

小さな人間のぶ厚い一生が本書には綴じられている。
豊かな自然の中で、厳しい人間社会に揉まれながらも、オルガは決して腐ることなく常に自身にとって最良の選択をして強かに生きた。
その一生は読めばきっと誰もが共感を覚え、勇気をもらえるであろう。
辛いことはいくつもある。
でも戦うことができる。
時々とても、とても幸せなことだってある。
どうしようもないこともまあ、ある。
漫画みたいな大団円なんて人生はそうそうない。
けど、折り合いをつけてまあまあいい感じのところまで一生かけて持っていくのだ。

その時持てるカードを最大限に使って自分の人生を自分でデザインすることは幸せなことなのだと気づく物語。
オルガのように真摯に生きようと思い直す一冊。

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