澤村伊智「怖ガラセ屋サン」

「人間が一番怖い人も」
怪談ネタを蒐集する職場の後輩を家に呼んだばっかりに表題。

「救済と恐怖と」
霊感商法にはまる母親。昏い目で見守るしかできない幼い娘。まさかこうくるとはっていう展開。

「子供の世界で」
いじめに加担したばっかりに追い詰められていく。未必の故意なんでちょっとかわいそう。

「怪談ライブにて」
文字通りのライブ感が文面から伝わってくる。怪異の臨場感を味わえる一篇。

「恐怖とは」
車内の密室。男と女。緊迫した会話劇。やべー人はどっちだ。否どっちもやべーわ。

「見知らぬ人の」
向かいの患者さんとこに毎日お見舞いに来る女性、全然知らない人なんだって。怖っ

「怖ガラセ屋サンと」
深淵を見つめると深淵もこっち見てるよっていう感じのはなし。

   * * *

以上7篇から成る短編集だが。
め ち ゃ く ち ゃ 良 か っ た で す !!!
いずれの作品もふわっと薄絹の如き不安感がまとわりつくような最後の一文が叙情感たっぷり。
自分はいままでずっと「ホラー」が好きなんだと思ってたけど「怪談」の方が読んでいてぐっとくることにいまさらながら気づいたかもしれない。
そっか自分はびびりたいんじゃなくって、不安に陥りたかったんだ…!

そんな自己の認識を再確立させたところで、改めて本書を評価するとしたら正統派な「怖ガラセ屋サンと」が本書の中ではいちばん好き。
最後の一言で「 ほ ら 、 肝 が 冷 え る で し ょ う ? 」って言外にささやかれちゃうの、すごいときめくじゃないですか。皆も好きでしょ、そういうタイプのSSとか。
次点でやはり正統派作品「怪談ライブにて」。
淡々とあるがままの怪異をしゃべる怪談師。でも我々は異常を異常と認識してる。このギャップが萌えるんですよ。
「子供の世界で」も良い。
主人公の恐怖を追体験。それは読書の醍醐味かつ基本の基の字なことだけど、本作は不思議ととても感情移入できる。悲しい気持ちこわい気持ちが溢れた最後の一文、とても刺さる。

挙げなかった作品も勝らずとも劣らない珠玉揃いだが、今回は上記3つが特に良かった。
こんなにどきどきさせてくれるんだから、やっぱりまだまだ目が離せないわ、澤村伊智。
調子づいたところで未読にぼちぼち手を出そうかなとも思うが、でもやっぱまだ勿体ないと思っちゃう。
だって読み終わったら次はいつ出るとも知れない新刊を待たなくちゃいけないじゃないですか。
好きな著者作品を待つのは楽しくも辛いものだもの。ねえ。


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