開発者が語る「培養肉とは」。「自分で作って、自分で食べているからわかること」をお伝えします。#01概要
ダイバースファーム㈱の大野です。
最近注目を集めている「培養肉」ですが、正直まだよくわからないと感じている方がほとんどだと思います。ここでは実際に培養肉を開発し事業化している立場から情報発信をさせていただきます。
私たちの取り組みを3行にまとめると下記になります。
「細胞を結合させる技術」を研究しています。
もともとは人工皮膚などの人工臓器をつくる技術です。
ヒトの細胞で作れば人工臓器、動物の細胞で作れば 「食肉」に。
そして、できる培養肉を一言でいうとこれまでの畜産肉と同様に、
「安心、安全、安定」であると考えています。
食は文化であり、人類有史以来長い時間をかけて作り上げられたものです。「美味しい肉を食べたい」という気持ちを持つ方々はなくならないと感じています。
しかし、世界的な人口増や気候変動で、このままでは食肉が足りなくなる可能性が出てきています。気候変動、疾病などで事業環境は厳しくなりつつあります。既存の畜産業と培養肉の技術を組み合わせることで、持続可能な形を創り出せるのではないかと考えています。
さらに、培養肉の技術で「新しい食肉」を創り上げることが可能になります。「さっぱりとした脂の霜降り肉」や「牛肉の味がする鶏肉」なども可能になるのではと思います。また、その地方独自の動物を使った培養肉を開発して「地域ブランド」や「町おこし」も可能でしょう。料理人が独自の世界観で、培養肉を作ることもできます。
日本は「信頼の国」です。日本製の食物は安心して世界で食べられています。その一つに培養肉を加えていきたいと願っています。
私たちについて
ここで私たちダイバースファーム㈱の紹介をさせてください。下記の3社が出資してダイバースファーム㈱は経営されています。
バイオベンチャーのティシューバイネット㈱とミシュラン星8年連続獲得の日本料理店「雲鶴」によりダイバースファーム㈱を設立し、その後、鶏生産者の㈱阿部農場が資本参加しています。
すなわち原材料となるタネ細胞から、医療技術を応用した細胞培養技術、出口となる料理まで一貫して開発する体制を整えています。畜産業と料理業と共同で培養肉という新しい業態を作り上げていきたいと願っています。
代用肉の種類: 代用肉、培養肉、植物由来肉
次に培養肉と植物由来肉の区別もつかない方もたくさんいらっしゃると思いますので、説明させていただきます。
大きく「代用肉」の中には 原料となる細胞が動物の物と、植物の物に分かれます。動物細胞由来を「培養肉」、植物由来は「植物由来肉」といいます。
動物細胞を使った培養肉には「組織化した肉」と「組織化していない肉」があります。弊社が開発しているのは「組織化した肉」です。
組織化した肉は、細胞同士が3次元に結合し合っているので、本物の肉とほぼ同じ組織構造をしています。よって、本物の肉と同じ食感や味が得られるのです。弊社はこのタイプを開発しています。
一方、現在世界中の会社から提案されている培養肉はほとんどが「組織化していない肉」です。何らかのつなぎ材にて動物細胞が固められています。実は日本が誇る「カニカマ」はこのカテゴリーに入ると考えています。カニカマを肉風に味付けできれば立派な培養肉といえます。
植物細胞をつかった代用肉は「植物由来肉」「Plant Base Meat」とも言われ既に広く食されています。簡単に言うと、大豆やトウモロコシの粉を固めて肉風に味付けしたもの、といえるかと思います。米インポッシブルバーガーや、米ビヨンドミート、日本初のNext Meats もこのカテゴリーに入ります。 実はこの植物由来の食材は日本では古来から食べられています。豆腐やがんもどきが代表例です。それを「肉風」に味付けしたのが上記の植物由来肉です。
作り方
現在弊社では培養鶏肉を開発しています。
少量の細胞を採取します。細胞は10億倍程度までは問題なく増殖できます。10億倍とは1gが1000トンになるレベルです。通常は2週間の培養で1000倍ぐらいになります。1gが1キロですね。
弊社では健康な家畜から細胞を採取しています。遺伝子操作や幹細胞、不死化細胞など何かしらの操作を施された細胞は使っておりません。この点についても別途述べさせていただきます。
それを弊社独自の技術で組織化します。要は細胞を結合させるのですが、この時点でひき肉を作ることも可能です。塊肉にも成功しております。培養期間は作る肉によりますが1~3週間程です。
美味しい料理として提供
共同創業者の島村は、雲鶴のオーナーシェフですが、8年連続ミシュランの一つ星を獲得しています。さらに今年は日本で16店のみのグリーンスターも獲得しました。
培養肉は様々な社会的課題を解決する技術ですが、大前提として「美味しい」ということがとても大事だと考えています。更に、「代用肉」ではなく「培養肉ならではのおいしさ」を創り上げたいと考えています。
雲鶴のような伝統的料理を大切にするお店で、お客様が「本ガモにするか、培養ガモ肉にするか悩む」選択肢を提供するようになりたいと願っています。
料理の例
培養鶏肉を炭火焼にすると 香ばしい鶏肉の香りがします。さらに焼くことで肉が縮小する様子も本物の肉と同じです。
鴨の肝細胞を使って 培養フォアグラを作ってみました。本物のフォアグラは血管などの異物を手作業で除去しているのですが、培養フォアグラは肝細胞だけですのでその作業が必要なく、より純粋な味が楽しめると思います。
培養鴨肉を薄くしゃぶしゃぶにしてみました。
認可について
培養肉はまだ認可が下りておりません。現在諸省庁との情報交換を進めている段階です。弊社の取り組みは 遺伝子操作などを行っておらず、既存の食品として流通しているものを使って作製しており、さらに親会社の雲鶴にて料理提供をするので、認可のハードルはもっとも低いと考えています。
これから
今後下記のような目次で執筆したいと考えておりますので是非ご覧ください。
#01 概要と種類
#02 培養肉の作り方
#03 培養肉が解決できる課題
#04 原料となる細胞
#05 畜産業と共存
#06 培養手法の課題
#07 培養肉の調理法
#08 デザイン・ミート
#09 再生医療へのつながり
#10 ダイバースファームについて