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VRChatで美術館をやりながら感じたVRのUXデザイン

  VRChatに美術館(WESON_museum)を作って、そこに画家(植村友哉@Tomoya01U)さんの作品を数展3月くらいから展示しています。現在は、毎週土曜日の21時から22時までは、画家本人と私自身も在廊をする形で、来館した方に絵やコンセプトの説明などをしながら、美術鑑賞を楽しんでもらえております。
 そちらに関しては、朝日新聞様に新聞とネット記事にて取り上げていただきました。ありがとうとうございます。

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 さて、本題。

 VRエンジニアと紹介されるほどエンジニア力があるわけではなく、その場しのぎでなんとかやっているだけなので、エンジニアとして見られるのは恐れ多いのですが、それでもVRやARで趣味でも仕事でも創作をしていると、気づくことがたくさんあります。

 ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインにおいて視覚化することや、その評価を適切に実施することは重要なプロセスです。近年、Oculus製品をはじめとしたバーチャルリアリティ(VR)機器の普及によって、これまでその評価が困難であった環境条件や建築・空間のUX評価も比較的容易に実施できる可能性がみえてきたと思います。

 あくまでやっていることは3DCGではあると感じますが、美術館などのような空間をバーチャル上に作る作業というのは、より建築的な視点、空間デザインの考えが求められるのではないでしょうか。

 実際にバーチャル美術館を作るに当たって、実際の建築物を見に行ったり、写真集などを読み漁って参考にしました。もちろん私はモデリング技術はまだ無いので、既存のものを足し合わせたり、編集したりという形で対応していますが、実際にアバターで足を運んでいただくにあたり、どのような空間設計なら作品を見やすいのか、順路誘導、迷わないかなど、さまざまな要素を考慮する必要があると、開発をしながら気がつきました。


みんな絵画に触れようとしない

 実際の美術館で絵画をはじめとした作品に手を触れることは禁じられていますが、バーチャル美術館ではそれが許されます。しかし、バーチャル上で個展を開いて確認できたのは、来館された多くの人が実際の美術館で絵画を鑑賞するかのように、少し離れたところから絵画を鑑賞するだけで、触れたり、絵画を舐め回すように見るわけではないということでした。

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 また、後ろに他の方がいると、「あ、邪魔になってる!」と思うのか、さっと後ろに下がったり、他のアバターの方と被らないように自然に整列していたりと、まさにリアル美術館と変わらない挙動です。別に被ってもアバターは透けたりもするので、特に問題はないはず。それがわかっているユーザーでも紳士的な動きをするのは興味深いですね。

 また、美術館は写真が許されてないことが多いためか、
「写真撮ってもいいですか?」
 と聞かれることが多いです。写真撮影は全く問題ないので、美術館の入り口に「写真OK!」の看板をつけました。

 VRは没入感が高いなどど言われますが、没入感というのはもう当たり前の話で、それをいまだに「没入感がVRの強み」としか認識できていないのは、遅れているような気がしてなりません。没入感よりもその先にあるUXデザインを考える必要があります。


視覚情報より経験情報の優位性

 現在アップロードしているWESON MUSEUMのメイン館は、入り口が透明な廊下になっております。その左右に絵画が展示されており、透明の螺旋階段を上がると建物の中に入れます。

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 最初はこの廊下の左右にあえて見えない壁を設置していませんでした。その理由としては、天空に浮かぶ美術館ゆえ、落ちてしまうというのも含めて体験デザインとして面白いと思っていたからです。しかし、その先に続く螺旋階段の方は、操作が難しく上がりずらいため、外側に落ちないように透明の壁をつけていました。それゆえにユーザーの多くは、透明の壁がワールドの全てに設置されていると感じたようで、透明の壁のない廊下で、絵画に触れようとして近づいて空へ落下していくというユーザーを多く見るようになりました。
 透明の壁の存在を知る前では、ユーザーの多くは、落ちないように廊下の中心の方を歩き、そこから鑑賞をして決して端の方には近づかないような動きをしていました。これは、リアルでも同じ動きですね。
 しかし、一箇所でも透明の壁があることを知ると、その経験情報から全てに透明の壁が設置されていると勘違いするようでした。もちろん、バーチャルなので落ちても死ぬことはありませんが、挙動に違いが見られたのは学びになりました。
 現在は、全てに透明の壁を設置したため落下することはありません。しかし、人間の行動心理に合わせた空間設計やバーチャルのUIUXの重要性を改めて考えさせられた瞬間でした。これは、Comprehension(習得性)を考える必要があり、
「ユーザーは現実世界での動作がどのように仮想世界に反映されるか理解できたか?」
「ユーザーはコントローラを使って仮想空間に影響を与えることができたか?」
これらの容易性というものが問われるのではないかと思います。

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まとめ

 人間は94%を視覚情報に頼っていると言われますが、その中でもVRは人間の視覚を主にジャックする技術だと思っていました。しかし、それ以上に人間の行動心理はVRで見たモノよりも、現実世界での経験から得た情報に依存しているのはないでしょうか。
 そのためバーチャル空間設計も人間の行動心理や認知により自然に寄り添うものにすべきであると思います。この辺は、UX生みの親、ドナルド・ノーマン先生の本を読みましょう。特に「誰のためのデザイン」はデザイナーとして必読書です。

 現実世界の人間の行動に寄り添って「なにかできそう感」を仕込ませつつ、バーチャルでしかできない新たな認知の拡張というのが、バーチャルUXデザインになっていくのではないかなと思います。
 バーチャル空間のような3次元的な空間の知覚は、その空間を客観視しなければ評価をすることが難しいため、視覚情報以外に経験情報などの要素も行動に影響すると考えられます。

 バーチャルリアリティでは現実には不可能なことが可能になります。空を飛んだり、ビームを出したり、空中に作品を飾ったり、雨の中絵画を鑑賞したり、なんだって可能です。しかし、ユーザーの信頼を得るためには、バーチャル世界の中で理屈が通っている必要があります。認知が歪むことがまだ許容されていません。その世界でできることと、できないことの明確な法則が必要です。制限の無い世界が魅力ではありますが、制限を与えることでよりわかりやすいデザインを実現するということ。ユーザーが理解している現実世界の法則に基づいて、あるいは、その拡張としてデザインするのが正しいのではないかと思うのです。仮想世界と現実世界の間で一貫性を持たせることにより、ユーザはよりスムーズに仮想世界を理解することができるようになるのです。

 バーチャル世界では、非現実が現実になる時間が過ぎていきます。ユーザーはその空間の一部になる、あるいはその中で呼吸をするため、空間内の発生する現象の影響を強く受けます。つまり、文化、経験、年齢、性別、アイデンティティ等、ユーザーの価値観の理解に努め、肉体的にも非肉体的にもその価値観とデザインを合致させる必要があります。

 これからも多くの人が理解しやすいデザインのメタファーを探っていきたいと思います。

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